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冒険者としての初任務

「アカデメイア学園に入学を許可された皆様、ご入学おめでとうございます。我が校は〜」


その日、よく晴れた日、アカデメイア学園は第97回目の入学式を行った。

この世界は、血筋によって魔力量が大きく異なる。

例えば王家。この家柄は最大の魔力量を保有する。次に貴族。王家ほどでは無いが、常人とは似ても似つかないほどの魔力量を有することが多い。たまに王家に匹敵するほどの魔力量をもって生まれるものもいるらしい。

そんな訳で、国内1であるアカデメイア学園は家柄が良い人が多く入学する。

公爵家から伯爵家、挙句には王家までも。

平民である俺は少し肩身が狭いな…

長すぎる学長の話を聞き流しながら少し周りを見てみると、いかにも高級そうな服を着た保護者が囲っており、王家のために用意したであろうVIP席のような椅子にも座っている人がいた。


「であるから、君たち新入生はアカデメイア学園という学園の名を背負っていることを常に覚えて過ごしなさい。」

お、やっと話が終わったか。

にしても最後、なんかめんどくさい中学教諭みたいなこと言ってなかったか?




「なぁなぁ、俺らのクラスの担任の話聞いたか?」

教室に戻り机に座って未だに顔すら知らない担任が来ることを待っていると、そんな声が聞こえてきた。

「いや、知らないな…誰なんだ?」

「なんでも、副学長らしいぞ。」

おっ?

副学長って、一昨日話したあのイケメンか?

へ〜、副学長でもクラスを持てるんだな。日本とは大違いだ。

前の黒板をつまらなそうに見ていると、横から話しかけられた。

「ねぇねぇ。」

「ん?」

そう言って声がした方に顔を向けると、一人の男子がこちらを見ていた。

「俺はフリア。よろしくね。」

「あぁ。アレンだ。よろしく。」

その名前を聞いてフリアは驚いたような顔をして言った。

「アレンって、試験会場の的を壊したって言う、あのアレン?」

待て待て。なんでそれが噂になってるんだ。そんなに珍しい事だったのか?

「あぁー…そうかもね。」

焦ってそんなに無愛想な返事しか出来なかった。

「やっぱり!すごい噂になってるよ。」

「えぇ…」

フリアに向けて困ったような声を出すと、3人組の見るからにえらい家の男子の1人がこちらを見て舌打ちをした気がした。




「いやー遅れてごめんね。学長の話が長いもんで。」

そう言いながら副学長が入ってきた。

「本当に副学長なんだ…」

「な?言っただろ?」

副学長と目が合って、ウィンクされた。

狙ったな…。

まぁ、これから色々お世話になるし、こちらの方が楽ではあるか。

「さて、入学式直後に申し訳ないが、今日はこのまま授業に入ろうと思う。前日に寮の子は寮に、実家の子は実家に送った教材は持ってきたかな?」

そう言って、皆を見渡すと、うん。と納得したように頷いて続けた。

「持ってきてくれたみたいだね。さて、それではそれを使って授業を…と言いたいところなんだけど、残念ながら僕らのクラスの1時間目は実技だ。」

なんと言うか…色々俺が思っていたものと違って少し困惑するな。

「みんな15分後には第1訓練場に来るように。以上!」

そう言って副学長は教室から出ていった。

はぁ…とため息を軽く着いて席を立って向かおうとすると、フリアが声をかけてきた。

「アレン!一緒に行こーぜ!」

「いいね、行こうか。」


学園生活ってなると、友達ができるの心配だったが、もう既に一人友達ができたし、出だしは好調だな。

前世はと言うと、話そうとしても吃って何も言えなかったからな…


「アレンはどこから来たんだ?」

「俺?最南端の町だよ。小さな町。」

「てことは平民なのか!すげぇな、平民でアカデメイアって…」

「フリアは?」

「俺は中央地区だよ。」

「中央地区ってことは…結構いい立ち位置の貴族じゃないか?」

「まぁなぁ…その中でも最弱ってこと黙ってればカッコイイかな?」

「もう台無しかもね。」

そんな話をしながら第1訓練場の扉を開けると、大半の生徒は既に先に来ていたようだった。

その中の、先程の3人組がこちらに向かって歩いてきた。

「おいお前。」

アレン達の少し前で止まって声をかけてきた。

不機嫌そうな顔をしていて、なんだか嫌な予感がする。

「これ誰?」

フリアに小さな声で聞いた。

「カミト。僕と同じ初頭学校の卒業生だよ。」


「お前、平民だろ。」

あ〜なるほど。この世界にも階級差別があるのか。

まぁ、そうだよな。血によって魔力量が変わるんだから、平民が下に見られるのも無理は無い。

「そうだけど。」

そう答えると、真ん中の男が舌打ちをした。

「この学園は平民が来るところじゃない。その小汚い姿をさっさと消せ。」

「よく分からないな。なんで平民を嫌うの?」

「当たり前だろ。貴族でもない魔力量も少ないお前らが俺ら貴族と同じような教育を受けようなんて、おこがましいんだよ。」

お手本のようなクラスメイトだな…

「なるほどね。なら家に帰るべきは君の方だよ。」

「は?どういうことだよ。」

「俺は君より強い。」

プライドが高そうだったし、少し煽るつもりだったのだが、この煽りが思ったよりも効いたようで、大分怒りながら言った。

「そうか。向こう来いよ。」

そう言ってカミトだけ訓練場の真ん中に歩いていったので、それについて行った。


「構えろ。」

なるほど。決闘か。

初日から訓練場のど真ん中で決闘…中々肝が据わってるな。

いや、馬鹿なのか?

中々構えないアレンにイライラが限界に達したのか、カミトが魔力弾をアレンに飛ばした。

その魔力弾を魔力弾で相殺した。

「おいおい。早いな始めるのが。」

「お前が遅いんだよ。二度と生意気な口が聞けないようにしてやる。」

「そうか。それは楽しみだ。」

カミトが魔力弾を連続で発動した。

その魔力弾を全てこちらの魔力弾で相殺させた。

「そんなもんか?」

先程からのイライラも合わせて限界に達しているのか、カミトはお構いなく魔力弾の魔法陣を構築した。

プライドが高いのがバレバレだ。

その魔力弾の魔法陣から発動された魔力弾をまた相殺する。

「もういいだろ。」

そういうと、カミトが少し笑って魔法陣を構えた。

今回の魔法陣は、魔力弾ではなかった。

中等魔法、『フレア』本来、学園で習うはずの魔法だった。

へ〜…流石にそこまで使えるか。

「お前は、魔力弾以外の魔法を見た事がないだろ。この魔法はヘルフレアと言って、上等魔法の魔法だ。」

ん?今あいつなんて言った?

あの魔法陣がヘルフレア?

確かに上等魔法にヘルフレアは存在する。だが、ヘルフレアの魔法陣はフレアの5000倍は構築が難しいし、まだ扱えるほどの技術は無いはずだ。

それに、あれは間違いなくフレアの魔法陣だ。

あ〜…なるほど。見栄を貼りたい時期なんだな?

分かるよ。俺も前世ではよく頭いい自慢をしたものだ。

「それで?打ってこないのか?」

その態度にカミトは舌打ちをして、魔法陣を起動した。

目の前から迫ってくる火の玉を眺めて考える。

うん。やっぱりフレアだな。

観客の方を見てみると、少し怖がっているように見えた。

それはそうだ。中等魔法も学園で習うのはまだあとの話で、中等魔法を見たことがない生徒の方が多いだろう。

それに、中等魔法だからと言って弱い訳じゃない。元々持っている魔力量が貴族は大きいため、その分中等魔法であっても十分に強力になる。

フレアをぶつけて相殺させてもいいが、そうなると魔力の残留が観客に飛ぶかもしれない。

外界からの魔力の影響に慣れているのなら心配はいらないが、まさかそんなことは無い。

なら、見せつけにも少し君が見た事のない魔法を見せてあげるよ。

『創造魔法、インタフィア』

その瞬間、目の前からフレアが消し飛んだ。

久しぶりに使ったが、案外上手く使えるものだな。


創造魔法、インタフィア。

アレンが初めて作った創造魔法で、この魔法は対象の魔法そのものに干渉を起こす。

魔法は一般的に魔力で構成される。

その内、魔力が薄い箇所が存在する。

その薄い場所に干渉を起こすことによって、魔法そのものを破綻させる。

ただし、魔力が均等に濃い上等魔法の一部の魔法は、この限りでは無い。


「おい、お前今、何した?」

「魔法を使ったんだよ。」

「嘘つけよ。今、魔法陣構築していなかっただろ。」

「そういう魔法なんだよ。」

なんだそれ…とカミトが呟いた。

「所でお前、さっきこの魔法をヘルフレアだって言ったな?」

「は?あぁ、そうだが。」

「なら、見せてあげる。本当のヘルフレアを。」

そして、魔法陣の構築を始めた。

フレアの魔法陣と違ってヘルフレアの魔法陣は大きい。体よりも大きいその魔法陣は本来であれば結構な時間がかかる魔法陣だ。

だが、賢者のおかげか、魔法陣の構築がアレンはスムーズに進む。

初めて見る大きな魔法陣に、カミトは1歩後退りをした。

「おい、なんだよ、その魔法陣。」

その顔がなんだか楽しくて、思わずにやけてしまう。


『ヘルフレア』


魔法陣から放たれた魔法はカミトに向かって飛んで行った。

カミトは直撃を覚悟したのか、目を瞑って歯を食いしばった。

そして、カミトに当たる直前、ヘルフレアは消滅した。


「なーんてね、当たったら死んじゃうからさ。」

無邪気に言うその顔は、カミトから見れば悪魔のようだった。

アレンがカミトに向かって歩いていく。

その姿があまりに怖くて、カミトはそこから動くことが出来なかった。

アレンがカミトに手を出すと、カミトは覚悟を決めて目を瞑った。

3秒ほど目を瞑って、何も無かったので目を開けると、そこには尻もちを着いていたカミトを起こすために差し伸べられた手があった。

カミトはその手を掴み、2本の足で立った。

「いくら平民と言えど、努力次第でどうにでもなる。国の可能性を、血筋だけで判断してはいけない。」

「あぁ。ごめん。」

その言葉を聞いて、アレンは微笑んだ。

「副学長、見ていたのなら止めてくれても良いのでは?」

そうアレンが言うと、カミトは上にある観客席を見た。

そこには、手すりに両腕を置いて下の闘技場を見ていた副学長がいた。

「アリス副学長…」

カミトがそう呟いて、アレンは初めて副学長の名前を知った。

「いや〜、流石だねアレン君。」

「ありがとうございます。」

カミトはバツが悪そうに下を向いて、お化けを怖がる子供のような顔をしていた。

「所で、この決闘はどっちが仕掛けたんだい?」

その言葉に、カミトがビクッと体を反応させた。

なるほど。そういうことか。

「俺です。」

上から飛び降りてきたアリスに向かってアレンが言った。

それに驚いたのかカミトがアレンを見つめる。

「そうか。後で副学長室に来るように。」

「はい。」

「さて、一悶着あったが、授業は進めるよ。最初の授業は「魔力の可視化」だ。

皆知っている通り、我々は魔力を持っていて、それを使い魔法を行使する。

君たち、入試の時に水晶を触っただろう?あの現象を水晶を無しで起こせるようになってもらう。」

魔力の可視化。普段は使う機会が少ないが、決闘の際など相手を萎縮させる時に使うことがある。

「魔力の可視化には、魔力操作が必須になる。魔力操作により密度が濃くなった魔力部分は淡い青色へと色を変える。水晶は、君たちの魔力の放出量を強制的に増やすことで、濃度を濃くしている。

まぁ、見てもらった方が早いかな。」

その瞬間、入試で見た淡い青色の光がアリスの周りを囲った。

その魔力量は今まで見てきた中でもダントツで大きい。

「すげぇ…」

そんな声が周りからボソボソと聞こえてくる。

「魔力操作はもう既に出来ると思うが、それを体外に放出するとなると少し難しい。

それじゃ、皆各々練習するように。分からないことがあれば聞いてね。」

「「「はい!!!!」」」



「うーん…難しいなぁ…」

「いやダメだぁ…出来ないよ」

そんな声が聞こえてくる。

「カミトが申し訳ないな。」

アリスに呼び出されたアレンは、闘技場の上の観客席でアリスと話をしていた。

「え?」

「どうせ、カミトが君が平民だからと喧嘩でも売ってきたんだろ?カミトとは少し昔からの仲だ。何となくわかるよ。」

「そうですか。」

「そうだ。教官の件だが、国王に許可を頂いた。早速今週末に軍に顔出してみようか。」

想像よりも早いな。

「所で、君にこういうことを聞くのは愚問だと思うが、魔力の可視化はできるかい?担任という立場上、これも成績に入れないといけなくてね。」

「まぁ…多少は。」

「見せてくれないか?本気で。」

その目がやけに真っ直ぐで、断れそうにもなかった。

「わかりました。」

魔力の可視化なんて普段使わないからな…にぶってなければいいけれど。

その瞬間、アレンの周りに淡い青色の光が現れた。

その光はあまりに大きく、闘技場を全て包み込んでしまうほどに、レベルが違っていた。

上は天井の高さじゃ足りないようで、天井の形に沿って魔力が移動している。

アリスは、久しぶりに恐怖を感じた。

目の前にいるのは、生徒じゃない。ましてや、人間じゃない。

この魔力は、人間が出せていい魔力量ではない。

あまりにも高密度の魔力が、所々風を起こす。

その風に当たりアレンの髪が煽られる。

それは余りにも神のようで、捕食者のようだった。

アレンなら、1人で国を滅ぼせる。

単なる直感だが、その気がしてならなかった。

「ありがとう。もう大丈夫だよ。」

そして淡い青色の光が消えていく。

「いえ。すみません、少し抑えてしまいました。」

今ので、抑えてたのか?

あまりにも異次元すぎて、思わず苦笑いをしてしまう。

アリスが下で練習している生徒を見ながら言った。

「それと、君がさっき決闘で使っていた魔法。あの魔法を俺は見たことがない。なんだ、あれは?」

きっと、インタフィアのことを言っているのだろう。

「創造魔法です。」

その言葉に、アリスが目を丸くしてアレンを見た。

「作ったのか。見たところ、魔法を無効化する魔法かな?」

「広く言えばそうですが、そんなチートじみたものではないです。魔力が薄い箇所を狙って破綻させる。そんな感じの魔法です。」

「それ、どれだけ難しいことか分かってる?」

「え?いや…特には…」

はぁ…とアリスがため息をついた。

「君のその技術は、ただ一枚の紙切れを全て水に変えるようなものだ。」

「どういうことですか?」

「魔法というものは、それそのもので既に完成しているんだよ。フレアであればフレア、グレイスであればグレイスと言った具合に、魔法は生成された瞬間、その魔法として存在することになる。その魔法に手を施し、全く違う物質に改変する。これが、君の言う矛盾させるということだ。

本来存在するはずであった形を書き換えたから、世界と魔法自身の判断が矛盾したんだ。」

これがどれだけ凄いことかよく分かっていないようで、アリスはつくづく困る。

それは、人間がしていい事じゃない。

明らかに、人間以上の力が働く。

賢者…どれほど狂ったスキルなんだ。





そして、週末になった。

その日、アリスに呼ばれて軍に訪れていた。

「みんなお疲れ様。」

訓練中に訓練場にアリスが入っていったのでそれに続いてアレンも入っていく。

「「「お疲れ様です!!!」」」

「アリス様、そちらの子は?」

「あぁ、この子は君達の教官だよ。」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

困惑の声がドミノのように続いていった。

「本当ですか、それ?」

「あぁ。本当だ。」

軍兵の目がアレンに一瞬集まって、すぐにアリスに戻った。

「学園生では?」

「でも俺より強いよ。」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

「え?」

またアレンに視線が集まった。

「アレンです。よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします…」

困ったように軍兵がアリスを見ると、アリスが言った。

「それならこうしよう。アレン、あそこに的が見えるだろ?あの的に上等魔法でも打ってみてよ。」

「待ってください。こんなに若いのに上等魔法なんて使ったら、魔力回路が焼ききれますよ?」

「まぁまぁ見てなよ。」

うーん…と少し唸って軍兵がアレンを見た。

「いいですか?」

「あぁ。」


『ヘルフレア』


その魔法は、60メートル離れた的に向かって一直線に向かっていき、直撃した後に的を粉々に破壊した。

それを見て、軍兵は1人残さず目を丸くしていた。

当たり前の事だった。

上等魔法はただでさえ高レベルの魔法であるのに、その操作となるとレベルが桁違いになる。

「見たでしょ?あの子は、ただの学生じゃない。」

まだ信じられないような顔をして、軍兵が言った。

「そう…ですね…」






次に足を運んだのは、冒険者組合だった。

冒険者組合は、全てのギルドを管轄する1種のギルドである。

クエストの受注はもちろんのことだが、Sランク以上かつ緊急クエストはこの冒険者組合で受注することになる。

アリスとアレンがギルドマスターが来るのを待っていると、突如大きな警告音のような音が鳴り響いた。

その音に一気にギルドは忙しくなり、受付嬢の一人がカウンターから出てきてギルドにいる人を集めた。

「副学長、これは?」

「緊急事態だね。クエストとは違って重要性が高くて、迅速な対処が必要な時に鳴る。丁度いい。俺もついて行くからアレンも出てみようか。」

「俺もですか?わかりました。」

2人が受付嬢の元に向かった。

「緊急事態です!西側山頂のブラックドラゴンが活動状態に入りました!ブラックドラゴンの標的は山頂付近の集落であると推測されます!迅速な討伐隊を結成致しますので、Aランク以上の冒険者のみここに残ってください!」

その言葉で、多くの冒険者はその場から去っていった。

残ったのはアレンとアリスを含め7人。

「副学長、俺残ってもいいんですか?」

「あぁ、問題無いよ。君のギルドカードはSランクからスタートしてるからね。」

え、そういうのって何か制限があって「ランク上げるにはクエストをクリアしてもらわないと…」ってなる流れじゃないの?

最初から最高ランクでいいの?

すると受付嬢が副学長を見て驚いたような顔をしたが、一旦冷静な顔をして話を続けた。

「それでは、ここに残っていただいた皆様で討伐隊を組まさせて頂きたいと思います。今回の緊急事態を緊急クエストとし、クエストの内容をブラックドラゴンの撃退とします。今から作戦会議をしますので、接待室までご案内致します。」

「撃退?討伐じゃなくていいんですか?」

「ブラックドラゴンは討伐隊という名前だが、実際ブラックドラゴンを討伐しようとすると、人数が足りなすぎる。最低でもAランクが50人は欲しい。」

それほど強いということなんだろう。





接待室に入ると、西側の山のマップが広げられており、ギルドマスターが既に中にいた。

「ギルドマスター、討伐に参加していただく冒険者達をお連れしました。」

「おう、ありがとう。」

ギルドマスターがメンツを見ようとマップを見ていた顔を上げると、目を丸くして言った。

「アリス様…まさか作戦に参加なさるのですか?」

「まぁね。丁度アレンも連れてきた。」

ギルドマスターがアレンをちらっと見て言った。

「例の子ですね。なるほど。時間がありません、作戦を伝えます。」

「よろしく。」


「まず、ブラックドラゴンが活動状態に入ったのはこの地点です。ここにはブラックドラゴンの巣があり、なんらかの人物がその巣に入ったために活動状態になったと推測されます。

次に、このブラックドラゴンは残念ながら現在の戦力では討伐が絶望的です。ですので、もう一度昏睡状態までもっていきます。

まず、現在集落に移動しているブラックドラゴンを魔法で打ち落とし、その場で戦闘態勢に入ります。

その後、対ドラゴン用の麻酔弾を打ち込みます。

皆様にはそれまでの間の時間稼ぎをお願いします。」

一度眠りに入ったドラゴンは、自身の巣に何者かが侵入し危害を与えるまで起きないという特徴がある。

彼らは長寿で、長い個体で2万年生きていることもある。そのため、彼らが自然に起きるのは数十年後というとてつもない時間が経ってからだ。

そのため、人類はドラゴン用に麻酔弾を作った。

「なるほど。大体どれだけ時間を稼げばいい?」

「はい。できればできるだけ稼いでいただけると嬉しいですが、最低でも20分はお願いしたいところです。」

なるほど…とアリスが顎に手をつけた。

「おい待てよ!ブラックドラゴン相手に流石にそれは難しくないか?!」

同じく話を聞いていた冒険者の1人が言った。

体ががっしりとしていて、魔剣士であることが推測できる。

「だが、それ以外に方法がない。頼む。」

「まじかよ…」

「他に質問がなければ、これで解散とする。即刻西側の山へと向かってくれ。」

「「「はっ!!!」」」







魔法使いの移動は基本的には走りだ。

というのも、魔法の中には身体強化の魔法があり、馬車を使うより走る方がどうしても早くなってしまう。

移動している間、冒険者と話をしていた。

「おい坊主!随分若いようだが、お前幾つだ?」

「俺か?13歳だ。」

「13!?!?!?スキルが開花したばかりじゃないか!本当にAランク以上なのか?」

まぁ、その反応が正しい。

「本当だよ。」

横からアリスが口を挟んだ。

「あんた、アカデメイアの副学長だな?王族なのにこんなところ来てもいいのか?」

…え、王族なの?

「大丈夫だよ。いざとなればこの子が助けてくれる。」

待ってよ王族なの?

「なるほどな。アンタがそれだけ信頼を置いてるのなら、俺もそれを信じよう。俺の名前はタレスだ。魔剣士をやっている。前線は俺に任せろ!」

「よろしく、タレス。俺のことはアレンって呼んで。」

「あぁ、よろしくなアレン!」

そんな話をしていると、アリスが空を見上げて言った。

「おっと。気づいたらもう目的地みたいだ。みんな、魔法の準備を。」

「「「あぁ!」」」

アリス含め4人が魔法陣を構築し始めた。

アレンを除くほかの2人は恐らく魔剣士だ。

構築が終わった魔法陣から魔法が放たれる。

赤色の光と青色の光、黄色と緑が空を飛んでいるブラックドラゴン目掛けて飛んでいく。

名前の通りにその体は黒く、大きい。

4つの魔法が直撃したブラックドラゴンは体制を崩し、地面に落ちていった。

「運がいいな。あの下は開けてる。戦いやすいぞ。」





ブラックドラゴンが落ちた地点に行くと、その場には何も無かった。

あったのは大きなものが衝突したであろうクレーターで、それ以外には何も無かった。

「どういうことだ?誰か!ブラックドラゴンが飛び立つのを見たヤツいるか!?」

その言葉には、誰も反応しなかった。

そりゃそうだ。誰も見ていなかったんだから。

その瞬間、アレンが魔力を感じて叫んだ。

「しゃがめ!」

その言葉に反射的に従った冒険者達の頭の上を魔力の塊が通り過ぎていき、一直線に木を薙ぎ倒した。

「あれ、魔力は極限控えたんだがのう。」

その声が聞こえた場所を振り向いた。

するとそこには16歳ほどの女子が立っていた。

「まさか…形態変化か?!」

「なっ!?本当か!?」

「恐らくだが…」

「なら、時間稼ぎは無理だな…もって4分といった所か…」



普通、魔物はその姿を変えない。

ゴブリンはゴブリンとして姿を現し、ドラゴンもドラゴンとして姿を見せる。

だが、ドラゴンはドラゴンの中でも最上種になると、姿を人に変えることができるという特性がある。

つまり、今姿を変えているこのドラゴンは、ブラックドラゴンの中でも最上種だと思われる。



「のう、人間。妾の卵を壊したのはお前らか?」

「違う。俺らじゃない。」

「そうか。」

少し少女が黙って言葉を発した。

「まぁ、よい。妾は今イライラしておる。発散させもらうぞ。」

なんとも理不尽だな。

少女が魔法陣を構えて、それに呼応して冒険者の1人が言った。

「来るぞ!時間を稼げばいい!誰一人として死ぬな!」

だが、少女の魔法陣から放たれた魔法はあまりの速さで、普通の人間に追えるものではなかった。

あまりにも高密度な細い攻撃。それでいて、当たれば全てが吹き飛ぶことなど容易に分かった。


『シールド』


動く気はなかったが、こうなってしまったのなら動くしかない。

魔法が余りにも強くて、シールドが壊されそうになる。

危ないな…

「ほう。」

また少女が次の魔法陣を構築し、次はアレンに向けて放った。

その魔力の塊はシールドによって阻まれ、少女は顔色一つ変えずに立っている。

「皆さん。俺より後ろにいてください。前に出たら死にますよ。」

「あ、あぁ…」

さて…どうするか。

とりあえず様子見かな。


『ロアー』


その魔法を少女は軽々と吹き飛ばす。

なるほど。上等魔法ですらこれか。

なら、少しスタイルを変えよう。


『身体強化・極』


感覚が広がり、音がクリアに聞こえる。

世界が広がって、色が増えたように感じる。

身体強化・極は人間の最大限の力まで引き上げる。


『グレイス』


魔法を少女の足元に打ち込み、土煙が立った。

その土煙から、少女に向かって1つの拳が伸びた。

その拳をギリギリのところで少女は躱し、両手を地面について腕を蹴りあげてくる。

腕にシールドを付与してそれを相殺し、少女は2本の足で地面に立った。

アレンは距離を詰めて少女に拳を振った。

その拳は少女の左手によっていなされ、代わりに右手が飛んでくる。その右手に向けて魔力弾を飛ばし、右手の威力と相殺させる。

だがそれでも右手の威力は劣らず、アレンの左の脇腹に直撃する。

「ぐっ…」

やばいな、魔力量もそうだが、動きに隙が無さすぎる。

そうこう考えている内に、少女がアレンに走って拳を振った。

その拳をギリギリでかわした所に、追撃の拳が飛んでくる。

その拳をシールドで止めたと思った矢先、シールドが決壊し、お構い無しに拳が直撃した。

アレンの口から血が飛び出た所を、少女の拳が顔に直撃し、アレンが吹き飛ぶ。


おいおい、なんだよそれ。強すぎるだろ。

あんまり、使いたくは無かったが、使うか。


アレンが立ち上がって、体を空に浮かべた。

その姿を見て、少女は驚いたように言った。

「最近の人間は空を飛べるようになったのか。」

いや、普通は飛べない。

だが、魔力の使い方によっては難しいが飛ぶことは容易にできる。疲れるからやりたくはないが。

「なぁ、ドラゴン。俺と魔法勝負しないか?」

「ほう。誰に物を言っておる。小童のような物に妾が負けるはずがなかろうに。」

「そうか。なら、やろう。」


そして、アレンが魔法陣を構築する。

その魔法陣はあまりにも複雑で、賢者のスキルを持っていないと起動どころか、構築すらすることができない。

それに合わせて少女も魔法陣を構築して、アレンに向ける。

アレンが魔法陣の構築を終わらせたことを確認して、2人が同時に魔法を放った。


『創造魔法、シュテーレン。』


2人の距離の真ん中で衝突したその魔法同士は、大きな衝撃波を起こし、辺りの空気を一瞬真空にした。

戻ってきた空気が更に動きを活発にさせ、先程の衝撃波がまた発生し、同じ現象が起きる。

そんなことを何回も繰り返していると、やがて2つの魔法が一瞬でどちらかに寄って、爆発した。





アレンが地面に降りて倒れた少女の元へと歩いていった。

創造魔法、シュテーレン。これは先代の大賢者が残した創造魔法だ。

創造魔法は、スキル「賢者」の保持者のみが行使することが出来る。

「アレン、今のは?」

タレスがアレンに近づいて尋ねた。

「先代の大賢者の創造魔法です。」

「は?待て待て、創造魔法を使用できるのは…」

そこまで言って、タレスは口を噤んだ。

「なるほど。それは納得だ。」

その時、森の中から冒険者以外の魔力を感じた。

「ちょっとまってて。」

その方向にアレンは走った。






「くっそ…!なんなんだよアイツ!あんなの聞いてねぇよ!」

森の中を走りながら一人の男が愚痴を言っている。

「誰のことだ?」

アレンがその男の目の前に立った。

「は?!?!?!」

「今日はいい天気だね。」

「何なんだよお前!」


『ドミノ2番発動』


その瞬間、男の右目の視界が真っ黒になった。先程まで正常に見えていたはずの世界が、見えなくなった。

「は?なんだよ、これ。」

「体調はどうだい?」

「おい!何したんだよ!」


『ドミノ6番発動』


次は男の左足が動かなくなった。

先程まで支えられていた体は、支えがひとつ無くなって倒れそうになる。

「なんだよこれ…」

男が呟いた。

「君は、人間?」

アレンが聞いた。

「は?見ればわかるだろ、人間だよ。」


『ドミノ8番発動』


その瞬間、男の意識が落ちた。

その間にアレンは男の身柄を拘束した。

「アレン!大丈夫か?」

その時、後ろからアリスの声が聞こえた。

「副学長。丁度良かった。恐らくこいつがブラックドラゴンの巣を荒らした犯人です。」

「…本当か?」

「恐らくです。」

「分かった。こちらで拘束しよう。所で、こいつは今どうなってるんだ?」

「あぁ、魔法が発動したばっかなので20秒後くらいに意識を戻します。」

アリスはよく分からないという顔で尋ねた。

「魔法?意識を奪う魔法なんて無かったはずだか…」

「意識を奪うことを目的としたものじゃないので、可能です。」

そう言っても、よく分からないという顔をしてアリスは少し黙ってしまった。

「ま、まぁ。とりあえずギルドに戻ろう。」

「あ、少し待って貰ってもいいですか?」

「ん?あぁ、わかった。」




アレンが少女に近づいて尋ねた。

「大丈夫?」

すると少女は薄く目を開けて答えた。

「大丈夫な訳がなかろう。何じゃあの馬鹿げた魔法は。」

我ながら、あの魔法は馬鹿げてると思う。

先代大賢者が作ったであろうシュテーレンは、人間が使うには強すぎる。

それ故に、流石にいくつも連射できるわけでも、何回でも作れる訳でもない。

「俺もよくわかんない。」

その時、少女は何かを思い出したかのように一瞬目を丸くして、目を薄くして言った。

「お前、賢者だな。」

その質問があまりにも唐突でビックリする。

「そうだけど、何で?」

「昔、賢者のスキルを持った女と冒険をしたことがある。その時、お前のあの魔法を見た。妾は女に聞いた。「その魔法は何だ。」と。すると、女は答えたんじゃ、「分かんない。」と。それが懐かしくてのう。」

それは間違いなく大賢者のことだった。

そうか。大賢者はこいつと冒険したのか。

「大賢者の最後を、死に方を知ってるの?」

「知ってる。と言えば知っているが、それがなんなのか、妾には分からん。ただ、妾より早く人間にそれが訪れることだけがよく分かる。」

なんだそれ。なぞなぞしてる訳じゃないんだ。

「ふーん、それじゃぁさ、俺と一緒においでよ。」

「貴様と一緒に?何故だ。」

何故かって言われてもな、そんなんかっこいいからに決まってるじゃん。

カッコよくない?ドラゴンを従える賢者って!

「何となく。来るの?来ないの?」

するとドラゴンが長考して、答えた。

「妾はお主に負けた身だ。どこまでも付き従う。」

じゃぁ…とアレンが言いかけたところでドラゴンがだが。と続けた。

「妾はこの山の主。国境にあるこの山の主がいなくなったとなればお主の国がどうなるかは自明の理だ。」

ここら辺の国の関係は正直全くもって知らない。

アレンがアリスの方を向くと、アリスが言った。

「ドラゴンの言ってることは最もだ。隣国のバゼル国はそのドラゴンを恐れてこちらの国に侵攻できなくなっている。そのドラゴンがいなくなってしまうと、不利益が多すぎる。」

そうか…ならこれは諦めないといけないな。

そういえば。とドラゴンが口を開いた。

「最近、バゼルの兵隊が妾の山に侵入してくる。何かあるのかもしれん。気をつけるんだな。」

その言葉を聞いて、アリスが難しいそうな顔をして呟いた。

「バゼルの兵が…妙だな。」

「妙?何がですか?」

「あぁ。今のバゼルの王族はフリーナという血筋なのだが、この王位継承はつい昨年に行ったばかりなのだ。兵を動かすには民も兵も安定していない。」

つまり、動くのが早いという事なんだろう。

「貴重な情報提供、感謝する。えーと…」

とアリスが呼ぶ名を迷ったところにドラゴンが言った。

「先代賢者は妾のことをイリスと呼んだな。」

「そうか、イリス。ありがとう。」


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