双子のパンダの白黒な探しもの
この作品は『双子の白熊猫のきもち』
https://ncode.syosetu.com/n6239hx/
の二次創作です。作者の歌川 詩季様から許可を得ています。
『エッセイ軌道から地表へ』https://ncode.syosetu.com/n8436hv/
からネタを頂戴しました。
双子のパンダはクラスメイトの甲斐犬くんとともにショッピングモールにやってきました。
ウィンドウショッピングを楽しんでいると、向かいからうさぎの女の子がやってきて…。
今日はお兄ちゃんとカイくんと一緒におでかけの日! 新作の映画、今度はあたしも誘ってくれた。
もちろん誘われなかったからって、もうかっらいカレー作ったりしないんだけど。
いつものショッピングモール。今日はもちろん白パンダのあたしはジュースの紙コップを握り潰しそうになりながら、ハラハラドキドキのスパイ映画を楽しんだ。
まさかあれが武器になるなんてびっくりだよ。あたしのリボンも改造したらなんか出るようになるかな?
あたしとお兄ちゃん、双子のパンダ。
ほかがどうかは知らないけど、あたしとお兄ちゃんは白パンダにも黒パンダにもなれる。
自分でちゃんと白黒選べるお兄ちゃんと違って、あたしは嬉しいと白パンダ、悲しいと黒パンダになっちゃう。ちょっとのことで落ち込むあたし、いっつも黒パンダで。
そんなあたしを助けてくれるお兄ちゃんと、同じクラスの甲斐犬のカイくん。
いっつもいっつも助けてもらってばっかりで。
いつになったらもうあたしは心配ないよって、言えるようになるのかな…。
映画を見たあとはフードコートでご飯を食べて。あとの時間はお店をウロウロ。
あたしはあんまり得意じゃないけど、お兄ちゃんはお店見るの好きだもんね。ちゃんとつきあうよ。
アクセサリーのお店。やっぱり改造した物は置いてないみたい。残念。CDショップは入ると長くなるの知ってるよ。お兄ちゃん、お休みの日にはねやすめだって言って部屋から出てこなかったりする時は、CD聞いたりDVD観たりしてるもんね。
あたしは部屋でもいいけどリビングでコロコロしてるのも好き。たまにママに用事を言われちゃうけどね。
お店を見ながら三人で歩いてたら、なんだかきょろきょろしてるうさぎの女の子とすれ違った。
誰か探してるのかな?
ドーナツを縦か横に潰したみたいなフロアをそのまま進んでると、さっきのうさぎの女の子もぐるっと回ってきたみたい。やっぱり困ったような、泣いちゃいそうな顔してる。
「あの子、さっきもすれ違ったよね」
カイくんが言うと、お兄ちゃんも頷いて。
「何か探してるみたいだけど…」
お兄ちゃんとカイくん、顔を見合わせて。すれ違う前にうさぎの女の子を呼び止めた。
「何か探してるの?」
うさぎの女の子はちょっとびくっとしてからあたしたちを見て、ちっちゃく頷いた。
「…落とし物、しちゃって…」
長い耳がへちょんと垂れてて。なんだかとっても悲しそうなうさぎの女の子。声だってもう泣いてるみたい。
放っとけないよね。
お兄ちゃんとカイくんなら絶対こう言う。確かめるまでもないよ。
「手伝うよ!」
あたしがそう言うと、うさぎの女の子はびっくりしたようにあたしを見て。お兄ちゃんとカイくんはにっこり笑って頷いてくれた。
暫くびっくりしたままだったうさぎの女の子。はっとしてから、ありがとうって笑ってくれた。
ベルベッティン・ロップイヤーのベルちゃんっていうんだって! 垂れたままピコピコ動く耳は、困ってなくてもこんな感じみたい。すべすべそうなシルバーグレーの毛並みがすごくきれい。
「で、何を探してるの?」
お互い自己紹介が終わってから、カイくんが聞いた。
「これくらいの、茶色いうさぎのマスコットキーチェーンなの。鞄につけてたんだけど、いつの間にかなくなってて…」
手に載るくらいの大きさみたい。落ちてたらすぐ見つかりそうなのに、案外ないものなんだね。
「…気付いてからずっと探してるのに、全然なくて」
しょんぼりうつむくベルちゃん。垂れてる耳が更に下がってきてる。
私とお兄ちゃん、頷き合って。
こういう時どうすればいいか、あたしたちはよ〜く知ってる。『名探偵兄妹 シロクロッサー』でやってたからね!!
ここに着いたときはまだあったけど、この中のどこでなくしたかわからないって言うから、ベルちゃんが入ってきたところから順番に辿っていくことにした。
お兄ちゃん、順番に話を聞きながら。カイくんとあたしも周りを探す。ベルちゃんも一生懸命思い出しながら、自分の通った道を教えてくれた。
「ごめんなさい。まだ引っ越してきたばかりだから、ここも初めてで」
お店に入って出てきたあと、どっちから来たっけって迷うベルちゃん。その気持ち、あたしもよくわかるよ!
今日はみんなと一緒だから大丈夫。前みたいに迷子になったりしないんだから。
そうして順番に辿っていって、フードコートまでやってきた。
ここから出る時にキーチェーンをなくしたことに気付いたんだって。ここまでになかったから、ここにあるかもしれないね!
「ここでお昼を食べたんだけど、どれにしようか迷ってあちこち行ったから…」
ちょっと恥ずかしそうに言うベルちゃん、耳で顔を隠しちゃった。
かわいいなぁ。
それにね、その気持ちはあたしにだってわかるよ。あたしも今日すっごく迷ったもん!
お兄ちゃんもカイくんもすぐ決めちゃったのに、あたしだけいつまでもぐるぐる迷って、結局ふたりに食べ終わってからも待ってもらっちゃって。
だって。お寿司もカレーも中華も美味しそうなんだもん。
悪いなぁって思ってるんだけど、こんなにいっぱいあるんだもん、迷うよね。
フードコートは広いから、みんなでお店の前と座席の間を手分けして探すことにした。
お店の前を通ると、商品の写真がたくさん貼ってあって。
やっぱりソフトクリーム美味しそう。今日はカイくんにも待ってもらっちゃったから、お昼のあとに食べるのやめたんだよね。
もうちょっと暑くなってきたらかき氷にアイスかソフトトッピングもいいよね。かき氷とアイスとソフトは別物だからね。両方あるとどっちも食べれるもんね。でも氷が溶けちゃう前にアイスかソフトは食べきらないといけないから戦いなんだよね。
そんなこと考えて歩いてたら、フードコートの端っこまで来ちゃった。
戻ってみるけど、みんないなくって。
あれ? あたし端っこから端っこまで来たのに?
ここにないって思って、もう一度外を見に行っちゃったのかな?
あたしはフードコートから出て、そのフロアを探し始める。もちろんベルちゃんのキーチェーンもちゃんと探しながら。
でもね、みんないない。
いないよ?
吹き抜けのフロアの一番上だから、間の通路から下を見てみるけどやっぱりいない。
じわじわ、寂しくなってくる。
黒パンダになりそうになっちゃって、あたしは思わずぶんぶん頭を振って寂しいのを振り払った。
あたしはミミズと違って干からびないんだから! 白パンダのまま頑張るんだからね!
そう気合いを入れ直して行こうとしたら。
「待って! こっち」
うしろから聞き慣れた声。
振り返ると向こうからカイくんが走ってきてた。
「カイくん! どこにいたの?」
あたしもカイくんの方に行ってそう言うと、息を切らせたままのカイくん、目をまんまるにしてあたしを見てから。
「こっちの台詞だって…」
ちょっと呆れたようにそう言われた。
ひょっとしなくても、探しに来てくれたんだよね。
「…ごめんね……」
しょんぼりなっちゃって謝ると、カイくん、ふっと息をついてから笑って、いいよって言ってくれた。
カイくんからみんなはフードコートから出てないって言われて。いなかったのにおかしいよね?
不思議に思いながら戻る途中。
「黒くないんだ」
カイくんにそう言われたから。
「黒くないよ」
そう返したら、そっか、って笑ってた。
「だから。はぐれたらウロウロするなって前も言っただろ」
カイくんに連れられてみんなのところに戻ったあたし。戻るなりお兄ちゃんに怒られちゃった。
もちろん心配してくれてたからだって、わかってるよ。
「一生懸命探してくれてたからだよね」
ベルちゃんが慌ててそう言ってくれる。
うぅ、優しいよね。
「ごめんなさい」
素直にみんなに謝ってから。
今からどうするかもう一度相談してたら、ベルちゃんがじっとあたしたちを見て、ぺこりと頭を下げた。
「ありがとう。ひと通り見てみてなかったし、もういいよ…」
胸の前で両手を握りしめて、ベルちゃんは申し訳なさそうにそう言ってくれるけど。
あんなに必死に探すくらい大事なキーチェーンなんだよね?
絶対もうよくなんかないよね?
だってベルちゃん、また耳がしょんぼりしてるもん。
あたしたちに遠慮して言ってくれてるのがわかったから。もうちょっと一緒に探させてってお願いした。
前にお兄ちゃんと一緒に見たおっきいロボットのアニメで言ってたもん。
希望がひとすじでもあれば 生きていけるんだって!
マンモスに踏まれても壊れない鋼鉄のロボットじゃないけど、できること、まだあるよね?
ベルちゃん、じっとあたしたちを見て。
「…いいの?」
「当たり前だよ!」
「ひとりより四人の方がいいだろうし」
「見つけたいよな」
お兄ちゃんとカイくんもそう言って頷いてる。
ベルちゃんは暫くそのままだったけど、そのうちあたしの黒い手を取ってぎゅっと握った。
「ありがとう…」
すべすべのベルちゃんの手を、あたしもぎゅっと握り返して。
顔を見合わせて、笑い合った。
ベルちゃんがここに来てからなくしたことに気付くまでに通ったところは全部見たから、今度は逆に辿ってみようかってことになった。
だからまたフードコートを探して。なかったから、その前に寄った本屋さんに行く。
本屋さんも広いけど、ベルちゃんはどこを見たか覚えてたからそこだけ探したんだよね。
今度は見てないところも探してみようってなって。またみんなで手分けして探すことにしたんだけど。
あたしはお兄ちゃんと一緒にだって。信用ないんだから!
お兄ちゃんとふたり、端から順に。おっきい平台の横、棚と棚の間を歩いていく。
平台の上は新しい本とかオススメの本とか並んで、説明とか飾り付けとかされて賑やかだよね。隅っこに手乗りサイズの茶色いうさぎのぬいぐるみまで飾ってる。
手乗りサイズの茶色いうさぎのぬいぐるみ?
「お兄ちゃん!」
叫んだあたしにお兄ちゃんはびっくりして。あたしの見てるものに気付いてもっとびっくりして。動くなよって言って、ベルちゃんたちを呼びに行った。
慌てて走ってきたベルちゃん、置かれてた茶色いうさぎのぬいぐるみを手に取って、ぎゅっと抱きしめた。
本当に嬉しそうなベルちゃんに、あたしも嬉しくなる。
見つかってよかった!
涙を拭ったベルちゃん、ありがとうって笑ってくれた。
お兄ちゃんが店員さんに一応確認してくれて。店員さんも気付いてなかったって言ってた。
踏まれないように誰かが置いてくれたのかもしれないねって、カイくん。
もう本当に。見つかってよかったね!
本屋さんから出て。大事そうにぬいぐるみを両手で持ったベルちゃんが、足を止めてあたしたちを見た。
「これね、引っ越す時に、自分に似せて作ったのを友達と交換したやつなの…」
ベルちゃんにとってはお友達との大事な思い出だったんだね。
「本当にありがとう」
何度もそう言ってくれるベルちゃんに、あたしも何度も見つかってよかったねって言って。お兄ちゃんとカイくんにきりがないって笑われた。
お礼がしたいってベルちゃんに言われたから。ずっとずっと気になってたことをお願いする。
すべすべつやつやなベルちゃん。
あたしはモフモフだけどすべすべじゃないから、ちょっと触らせてほしくって。
ベルちゃんだけじゃなくてお兄ちゃんもカイくんもびっくりしてたけど、手触りがいいってすごいことなんだよ!!
優しいベルちゃん、すぐにっこり笑って、いいよって言ってくれた。
「……フードコート戻って休憩するか」
溜息をついて言うお兄ちゃんに頷いて。
もしベルちゃんも好きなら、お昼に食べそこねたソフトクリーム、一緒に食べようね!