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85. 王子と男爵令嬢

 今の私は、いかにも『事後』というフェロモン丸出しだった。体に残る違和感だけじゃなくて、見た目もこんなに変わるなんて!

 部屋に戻るまでに、これをみんなに見られた! 殿下も侍女長様もひどい。教えてくれれば、私だってコソコソ隠れたのに!


「どうしよう。こんなの知らなかった。今朝、王宮で会った人たちには、その、いろいろバレちゃったってこと?」


 涙目でパニックに頭を抱えたとき、テーブルの上にピンクの薔薇の花束が見えた。そこから漂う香りには、なんだか懐かしい気持ちになる。


「あの花束は?」

「カイル様からのお祝いですよ。朝刊が出たすぐ後に届いたんです」


 マリエルから渡された花束の中には、「婚約おめでとう。幸せを祈って」と、シンプルなメッセージが手書きで書かれていた。

 赤でもない白でもない。その二つの色が混ざったピンクの薔薇に、なぜか涙が出る。


「カイル様、ご心配だったと思いますわ。殿下との仲がうまくいかないようなら、クララ様をすぐに奪い返すと宣言されたようですから。ずっと、お二人がどうなるか、気にされていたんじゃないでしょうか」

「え?それ、なんの話?誰に聞いたの?宣言って……」

「もちろん、ヘザー様からですわ。いえ、正確には、ローランド様ですけど。カイル様が王宮を発つ前に、ローランド様に殿下とクララ様のことを、頼んでいらしたって」

「え、なんでローランドに……」

「あのお二人は親友ですし、ずっと恋のライバルでしたからね!」


 恋のライバル? それって……。え、あれ?ちょっと待って!ローランド、カイル、そして、殿下。三人の超絶イケメンたち。もしかして、あの三人が私の運命の相手だったの?ショップのおば……ネエさんが言った。

 じゃあ、本当に占い通りになったんだ! 三人の素敵な男子に出会って、そのうちの一人と恋に落ちる。それが私の運命!


 占いのことに思いふけった私を見て、マリエルは慌てて付け加えた。


「もう過去のお話ですけどね。ほら、ローランド様は既婚者ですし。軽々しくクララ様の様子を見ることはできないからって、そのお役目はヘザー様が承りましたの」


 また、ヘザーたち!私の幼馴染は、何かと私の世話をやいてくれる。その気持ちは嬉しいのだけれど、これじゃ、プライバシーも何もあったもんじゃない。カイルだって怒るよ。私だって、正直やめてほしい。


「そ、そうなんだ。でも、なんで新聞?」


 マリエルはそれを聞いて、心底意外そうな顔をした。そして、私に新聞を手渡した。私はそれに、目を落とす。


 えーと、連載小説?『王子と男爵令嬢 :ついに婚約!花園での一夜』って。え?え!えええええ?


「ご存知なかったんですか? 朝刊に掲載されてる、今大人気の連続恋愛小説なんですよ」


 内容をざっと読むと、昨日の私たち二人の様子が!そして、朝チュンで次話に続いていた。かなりいいように脚色されているけれど、時系列的な内容はあまり齟齬がない。


「もちろんフィクションで、実在する人物や団体には一切関係はありませんよ? でもまあ、結構しっかりした筋からの実話を元にしているってことで、国民に愛読されてますの!近々、書籍化するそうですわ!」


 頭がクラクラした。つまり、これは、私と殿下の物語なんじゃ……?


「これって、『真実の愛』の作者の新作?」

「あちらの筆者は男性ですけど、これは女性作家の小説です。女性の心理描写が細かくて、しかも綿密に取材して集めた情報で、リアリティを追及して執筆しているんですよ!」


 新聞、女性作家、取材、情報。そのキーワードで、即、思い浮かぶ人いるよ。今はリハビリ中で自宅勤務してるけど、実は新聞記者になりたかった文芸部出身の才媛が! ものすごく偏った情報収集能力を持つ、メイド・ネットの頂点に!


「近頃は、これが出るのが楽しみで生きているようなもんです!そのせいか、市井でも新聞は売上十倍らしいですよ!文字の読めない庶民のために、読み聞かせボランティアをしている学生もいるとか」


 え、本当に?こんなことして、大丈夫なの?


「えーと、勝手に王子様とかを主人公にしたら、王族の方たちから、抗議が出たりしないのかな?止めさせほうが、いいんじゃないのかなあ」


 恐る恐るそう提案してみた。ところが、それは、マリエルに一蹴された。


「何を言ってるんですか!この物語の一番の愛読者は、国王陛下ですよ!最後のとこ、よく見てくださいな!」


 あ、はい。しっかり、国王陛下に献上されていた。つまり、この作家は王室御用達というか、王室広報係を兼ねていると言っても、過言ではない。


 私は、ふらふらとソファーに倒れ込んだ。このプライベートのまったくない生活、これが公人の常識?殿下って、こんな中で生きてきたの?私、もしかして早まった?覚悟が足りなかったかも。


 ソファーで脱力する私をよそに、マリエルはさらに爆弾を落としてきた。


「お肌に残こる殿下の匂いが名残惜しいでしょうが、ランチの後で早速入浴していただきますよ!今夜は、国王陛下の晩餐に呼ばれているんです」


 は?そんなこと聞いてないんだけど。


「未来の嫁と、早く対面したいんでしょうねえ。殿下は一人っ子だし、孫で末広がるのを、楽しみにしていらっしゃるようですよ!」


 どうしよう。やっぱり逃げたい……。

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― 新着の感想 ―
[一言]  新聞連載でこんだけ早い反映って、ネタ元はどうなってるのやら(^^)
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