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64. 私の戦い方

 視界は2メートルくらい。思ったほど瓦礫は落ちていないけれど、走るのは危険だ。

 誰がいるのか分からない。敵に遭遇したら殺されるかもしれない。


 それでも、私は前へ進む。ヘザーとローランドの命がかかっている。絶対に二人を助けてみせる!


 少し先に行ったところで、床に倒れているカイルを見つけた。急いで側に駆け寄り、その姿に全身が恐怖ですくむ。

 カイルの髪からはまだ煙が出ていて、服や皮膚もところどころが焦げていた。


「カイル!しっかりして!死んじゃだめ!」


 胸に耳をあてると、少し弱いけれど心臓が動く音が聞こえた。呼吸をしているのも、微かに感じられる。

 炎に焼かれたみたいな症状。シャザードの魔法攻撃を受けたの?


 魔術師にも魔法にも詳しくないので、何が起こったのかは分からない。でも、気を失っているカイルを、ここにこのまま放置するわけにはいかない。


 周囲を見回して、近くに太い柱を見つけた。試しに少し押してみたけれど、びくともしない。これなら崩れる心配はない。

 私はその側まで、カイルを引きずっていった。そして、顎を上げて気道を確保し、誰かが落としていった上着をかけた。


「カイル、待ってて。あなたも必ず助けるから」


 遠くに目を凝らすと、金色の光が見えた。視界が悪いので、ぼんやり明るいとしか感じられない。雲の中に光る稲妻みたい。

 会場から上がった火柱のようなもの。あの赤い色はただ怖かったけれど、この金色は美しかった。私を呼んでいるような気がする。


 行ってみよう。もしかしたら、助けてもらえるかもしれない。もし敵だった場合は、気づかれないように逃げる。

 私が死んだら、ヘザーたちを助けられない。絶対に死ねない!


 私は靴を脱いだ。ヒールがガラスを踏んで音を立てれば、敵に遭遇したときすぐに気づかれてしまう。なるべく静かに近づいて、助けを求める前に、相手が敵が味方かを確かめる。


 私は髪に挿していた簪を抜き、先端を覆っていた鞘を取った。これは護身用で、先が鋭利な刃物となっている。今日のためにカイルが用意してくれたものだ。

 そして、その飾りの部分には、殿下からもらったペンダントトップが付けてある。


『お守りだと思って付けておいて』


 これをくれたとき、殿下はそう言った。だから、ずっと身につけていた。ずっとずっと、私の大切なお守りだった。これがきっと、私を守ってくれる。


 私はその簪刀を、両手でしっかり握りしめる。


 誰にも死んでほしくない。ヘザーもローランドもカイルも。そして、王女様と殿下も。


「来い!私が相手だ!」


 微かに殿下の声が聞こえた。殿下が戦っているの?


 黄金と深紅の光がぶつかり合う。その明かりで、周囲の視界が少しだけ回復した。

 黄金の光の先にいたのは殿下。そして、深紅の帯の発信源はシャザード。


 誰が見ても、殿下が劣勢。このままじゃ命が危ない!


「殿下!」


 私は夢中で、両手で簪を構えたまま、体ごとシャザードに突進した。護身術で学んだことは、不意打ちほど大きな効果があるということ。

 まともに倒せなくとも、敵の意識を逸らせれば!相手の集中力を乱すだけでも、その戦いは有利に動く。武術も魔法も、戦い方の基本は同じはずだ。


 一瞬、赤い光に全身が包まれた。体が宙に浮く。魔法で攻撃された?私、死ぬの?これが最期……なのね!

 そう思って目を閉じようとしたとき、手に持っていた簪のアメジストが砕け散った。

 先輩のペンダントが!大事な宝物が!


 そのショックで、私は目を開けた。とっさに頭をかばって、受身の姿勢を取る。

 どこも痛くない。私は死んだりしていない!戦い続けるなら、すぐに起き上がれるように、体勢を立て直さなくちゃいけない。


「くそっ!身の程知らずが邪魔をっ」

「今だ!」


 殿下とシャザードがそう言ったのは、私が跳ね飛ばされた直後。ほぼ同時だった。

 王女様から銀色の光が(ほとばし)り、シャザードの肩に命中したのが見えた。


「きさまら、女の分際で、よくも…」


 シャザードから王女様に向けて、真っ直ぐに赤い光線が向かっていく。殿下が王女様の前に立ちふさがって、その光を防ぐ。


「クララっ!逃げろっ!」


 私は逃げない!逃げるべきなのは、殿下と王女様だ。


 もう一度、シャザードの注意を引ければいい。シャザードが私に狙いを定めれば、二人への攻撃に隙ができる!

 シャザードには、私なんてすぐに潰せる虫けらに見えるはず。だからこそ、彼の油断を誘える!非力な私でも、囮になることはできる!


 思ったとおりに、シャザードがこちらを見た。注意が分散される。集中力が落ちる。隙ができる!今よっ!

 そう思った瞬間に、一直線の青くまばゆい閃光がシャザードに向かっていった。氷柱のような鋭い光の刃が、後方からシャザードの心臓辺りを貫く。


 シャザードは胸を抑えて膝をつき、口から血を吐いた。そして、不気味な笑みを浮かべてこう言った。


「生きていたのか」

「ああ。待たせたな」


 シャザードはそれを聞いて、くくっと笑った。そして、さらに血を吐いてそのままその場に倒れた。


 後方から黒い魔道士のマントを来た人影が現れる。


「レイ!」 


 王女様がそう叫んで駆け出した先には、あの果樹園の魔術師がいた。衣服はボロボロで、体中傷だらけに見えたけれど、それはレイ様に間違いなかった。

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