表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/88

63. シャザードの襲撃 (アレクの視点)

 婚約式は予定通りに進行している。いよいよ婚約宣言。これが無事が終われば、この同盟は契約として有効化され、魔法で全世界へと発信される。

 来賓全員が定位置に戻った後、私はセシルの手を取って、壇上の中央にある玉座の前に移動した。二人の婚約と両国の同盟を公示するために。


 声を上げようとした正にそのとき、微かな魔力の発動を感じた。


 来る!


 そう思った瞬間に、会場のいたるところから、いくつもの真っ赤な炎の帯が、ドーム状の天井へと駆け上がった。内側から爆発したかのようにガラスを突き破り、天井全体が会場に落ちてくる。会場に、爆発音と人々の悲鳴が轟いた。


 降り注ぐガラスの破片と天井の落下を防ぐために、防御シールドを張る。ぎりぎりのところで持ちこたえているが、長くは持たない。

 天井の崩壊によって、上空の結界が破られた。今なら、外部からの侵入が可能だ。


「みなをここから逃がせ!王宮から出ろ!」


 シールドを維持したまま、衛兵や騎士たちに向かって叫ぶ。すでに、大勢の招待客が会場出口に殺到していた。人々はパニックになり、指示系統がうまく回らない。


 散っていた側近と円卓の騎士、王女の部下が集まってきた。ローランドとヘザーもいる。


「殿下をお守りしろ!ヘザー、王女様を!」


 ローランドの指示に呼応して、ヘザーがセシルの側へと走り寄る。円卓の騎士たちが守りを固め、侍女たちが王女かばうように取り囲む。


「避難指示を!みなを聖堂まで誘導しろ!そこから離宮へ逃せ!」


 ローランドの指令で、みなが一斉に動く。次期宰相の器。ローランドの真価は、こういうときに発揮される。


「女性たちは避難を!ローランド、警護を!」

「すぐに!」


 セシルを取り囲む侍女たちを、ローランドと数名の騎士が避難へと誘導する。今なら逃げられる。

 私の魔法と騎士の剣、これでたいていの敵は防げる。だが、丸腰の女性たちを守りながらでは無理だ。


「セシルは残ってくれ。ここを離れるのは、逆に危険だ」

「分かっているわ。ローランド、この子たちを頼んだわよ。侍女長も一緒に行きなさい。これは命令です」


 侍女長は気丈に、セシルの言葉に従った。


「私たちは足手まといです。自分の命を守ることだけを考えなさい。すぐに避難を。誘導をお願いいたします」


 涙を流して王女を気遣う侍女たちを、ローランドと騎士たちが引きはがずように避難させていく。セシルはそれをほっとしたように見守っていた。 


 ローランドたちは、人が少ない非常口を目指して駆け出していた。専属の騎士の誘導で、王宮の隠し通路を使う気らしい。聖堂への抜け道もあるし、これで心配はない。


「セシル!こっちへ!」


 セシルが私の防御魔法陣へ入ったとき、頭上に留まっていた落下物が左右の壁に打ち付けられ、壁にかけられた絵画ごとすべてがガラガラとなだれ落ちる。

 張っていたシールドが、内側から破壊された。魔術師たちは自らの魔法が跳ね返り、その場に次々と倒れていく。


 私はかろうじて、反転魔法の衝撃をかわしていた。セシルを守るために、予め自分の周囲に防御魔法陣を引いていたのが功を奏した。

 いつの間にか姿を現した北方の兵士たちが、周囲から襲いかかってきた。騎士たちがそれに応戦している。加勢しようとした私をセシルが止めた。


 その理由はすぐに判明した。激しい戦闘が繰り広げられる中、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる男がいる。

 黒いローブを着た男は、フードで顔を隠している。彼は私たちの前で、ピタリと歩を止めた。


「シャザードか」


 私がそう問うと、男は口元を不敵な笑みで歪め、ゆっくりとフードを脱いだ。

 共和国元首の私邸で、私を魔法封じの鎖につないだ男。会うのは二回目だ。黒魔術師。


「殿下、再びのご拝謁を賜り、恐悦至極に存じ上げます」


 シャザードはうやうやしく膝を折って、異国風の挨拶をした。


「北方の望みは何だ。魔薬の実験体か」

「いいえ。そのお命です」

「どちらにせよ、渡すことはできない」

「では、奪うのみ」


 北方の宣戦布告。そして、シャザードとの魔法戦の開始の合図。私を取り囲んでいた騎士たちが、一斉にシャザードに向かって剣を繰り出した。それに北方の兵士が応戦する。


『なぜこんなことをする。お前なら魔法で彼らを排除できるだろう』


 セシルを後ろにかばいなら、私は魔伝(テレパス)でシャザードに問いかけた。


『こいつらは手柄がほしい。俗世の富など取るに足らぬものなのに』


 私は黙って手のひらをかざし、魔法を発動させた。その瞬間、辺りが金色の光に包まれる。戦っていた騎士や兵士たち全員が弾き飛ばされて、床に叩きつけられた。

 しばらく気を失うように力を加減したが、怪我を負ってしまったものもいるかもしれない。だが、それでも死ぬよりはマシだ。


「ほう?面白いことをするな。自分の部下もろともか」

「お前の狙いは私だろう?私を殺せば済む話だ。余計な時間をかける必要はない」

「ふん、まあいいだろう。いかにも王族らしい自己犠牲の精神は悪くない」


 シャザードはニヤリと笑った。


 北方だけを攻撃すれば、こちら側はシャザードの魔法に攻撃される。こうして敵味方の全員を排除すれば、シャザードは魔法を無駄には使ってこない。

 結局、魔法というのは耐久戦だ。先に魔力が切れたほうが負けると、シャザードも承知している。


 勝敗の行方は不明。だが、どういう結果になっても犠牲は少ないほうがいい。私一人の命と、何十人という騎士たちの命。どの命も同じ重さなら、失う数は少ないほうがいいに決まっている。


 私は攻撃体勢をとって、シャザードと一対一の勝負に臨むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >どの命も同じ重さなら  だ~か~ら~、命の重さは同じじゃないんだって!  そういうこと考えてるから、セシルの足引っ張るのよ!(キャラへの罵倒)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ