20. 問い詰めてしまいたい
お読みいただき、ありがとうございます。
本日二話目の投稿です。
エリーゼとデールの補講時間。
魔法でロックされていた補習室の扉を、アルフォンスはいとも簡単に開けて中に入った。
「どういうことですか?」
やはり、補習室にエリーゼとデールの姿はなかった。
「あー、バレちゃった?」
少し苛立っているアルフォンスに、ルークはバツが悪そうに言う。
「エリーゼのしていたピアス、かなり手の込んだ魔道具ですよね」
「うん、なかなかの良品が出来たよ」
「……何のための物ですか?」
ルークが意味も無く、エリーゼに魔道具を渡すとは考えられない。
しかも、エリーゼは父親からのプレゼントだと言っていた。中途半端な嘘。
ルークがまた何か企んでいるのかと、アルフォンスは勘ぐった。
「悪いけど、今回の件は僕の口からは絶対に言えないんだ」
「絶対? 言えないって、まさか……誓約?」
ルークは首肯した。
「まぁ、万が一があった時のためにね。僕から提案したのさ」
「誓約をですか? ……エリーゼの身に何か?」
「僕は何も言えないから本人に訊いてくれるかな。エリーゼが言う分には問題ないから」
誓約までするのは、極秘事項があるということ。本人の意思とは関係なく、どんな手段を持ってしても口を割ることが不可能なように。
しかもルークから望んだのなら、相手に信頼してほしいとの気持ちの表れだ。
ルークが誓約までする相手は、一人しか思い浮かばなかった。
「アルが補習室に居てくれるなら、いったん塔へ戻ってくる。主のじいさんに呼ばれたみたいだから」
チラリとルークが視線を動かした先。
魔塔のルークの研究室からそのまま転移させたらしい、教室には不釣り合いな机で呼び出しランプが光っている。
(あれでよく分かるな……)
天板が見えなくなるほど雑然と積み上がった本の隙間から、光が少し漏れている程度。室内が薄暗いから気がつけるようなものだ。
アルフォンスは、小さくため息を吐くと頷いた。
「いいかげん片付けたらどうですか」
「は? 片付けたら、どこに何があるか分からなくなるじゃないか」
意味が分からないと首を傾げるルークに、アルフォンスは呆れ顔になる。
(何のための片付けなんだか……)
弟子入りしてすぐ、ルークの部屋の掃除を言い渡され、机を片付けたら叱られた。理不尽にもほどがある。
今では、魔塔の住人はそんな者ばかりだと理解しているが。
ルークは補習室に大量に並んだ試験管や調合素材、魔法を刻む前の高級スクロールを次々と消していく。
どうせ、全て適当に亜空間へ収納したのだろう。
それから「あとはよろしく!」と、机と一緒に転移した。
遮光されていた補習室は通常の明るさに戻り、アルフォンスは近くにあった椅子に腰掛ける。エリーゼたちが往復するために残されたままの転移陣を、ぼんやりと眺めた。
デールに訊けばペラペラ話すだろう。協力関係を結んだ今ならば。
(……できるなら、エリーゼ自身の口から聞きたい)
友人として、ずっと隣に居られるだけでいいと思っていた。それだけで充分だと。
(なのに、どんどん欲が出てしまう。自分の過去を知られたからって訳じゃない。もっとエリーゼを知りたいし、頼ってほしい……デールではなく)
「俺じゃ、だめか?」と、問い詰めてしまいたいたくなる。
アルフォンスは手で顔を覆い、瞑目した。
エリーゼの顔を思い浮かべるだけで胸が苦しくなる。
敵だらけの王宮で、ずっと神経を張り詰めていたあの日。警戒しながら開けたクローゼットの中に、エリーゼを見つけた。
驚きより戸惑いが大きかった。
ついに自分がおかしくなり、エリーゼを求めすぎて幻覚を見たのかと。抱きしめて泣いて縋ってしまいそうだった――どうか、消えないでくれと。
なのに「アル」と呼ぶ声が聞こえたのだ。
(本当に……心臓が止まるかと思った。俺がどんな気持ちだったかなんて、解らないだろうなエリーゼは)
アルフォンスは、きょとんとするエリーゼを思い浮かべ、ふっと笑う。
(まだ早いな。告白したところで、うまく逃げられてしまうに決まっている。先ずは王太子にならないと。それからだ)
デールが協力を求めた日のことを思い返した。僅かな含みも見逃さないように。
大神官とアルフォンスの過去が、エリーゼの前世と関係していると言っていた。
――そして。
あの時は、見せられた真実に戸惑い深く考えなかったが。デール自身もエリーゼに言えない何かがある。
(詳しく調べる必要があるな)
事実は知ったが、状況は何も変わっていないのだから、国王や王妃と顔を合わせるわけにはいかない。
むしろ、会ってしまったら自分がどうなるかさえ判らないのだ。
信じた母が偽物だと知り、魔力暴走まで起こしてしまった過去がある。
(一度、王宮の図書館へ忍び込むか……)
つくづく、魔法が使いこなせるようになっていて良かったと思った。
暫くすると――。
転移陣が発光し出すと、中心部に人影が現れた。
「ふうっ……」と疲れを見せたエリーゼと、アルフォンスが居るのを知っていたかのようなデール。
エリーゼは、顔を上げるとアルフォンスを見て驚いた。
「おかえり」と、アルフォンスから声をかける。
「え!? 何でアルがここに? ルーク先生は?」
「魔塔主に呼ばれたから、俺が留守番していた」
「そう、なんだ」
どことなく、エリーゼはギクシャクしている。
チラッとデールを見たが、相変わらず何を考えているかはわからない表情だった。
「陣、消すよ」
「あ、その為に待っていてくれたの?」
慌てて魔法陣から離れると、エリーゼは尋ねた。
「そうだけど。公爵邸に用事があったんだって?」
「うん、ちょっとね」
「……そう」
それ以上突っ込まないアルフォンスに、エリーゼは明らかにホッとした表情をする。
(やはり話してはもらえないか……)
アルフォンスは手を翳し、短い呪文を唱え魔法陣を消すと、エリーゼの方に向き直った。
「夕飯まだだろ? 早く行かないと食べ損なう」
時計を指したアルフォンス。
「そいつはマズイ!」と反応したのはデール。
とりあえず、三人で急いで食堂へ向かう。
「あの……アル」
デールの後ろを歩きながら、エリーゼがそっと声を掛けてくる。
「今度、少し時間くれない? ちょっと、話したいことがあるんだけど」
アルフォンスは驚きに目を見張る。
「……もちろん」
「ただ、まだ確認しなきゃいけないことがあるから、次の休日あたりでお願い」
「わかった。それは……二人だけで?」
「ええ。出来れば、誰にも聞かれたくないから」
「また、俺の部屋に来る?」
少しだけ冗談めかして言う。断られるだろうと。
「うん、その方が助かるかも」
「……了解」
エリーゼはデールをいつでも呼び出すことが出来るし、残念ながらアルフォンスを男として警戒していないのがわかる。
話す内容は良いものではないかもしれない。
(それでも……)
平静を装いつつも、アルフォンスの足取りは軽くなっていた。




