表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/147

16. エリーゼ、養女になる

 ルークに連れられやって来た屋敷の応接室には、主人であるユリウスの他に先客が居た。


 それはエリーゼがよく知る大好きな両親であったが、いつもの笑顔なのに簡単に「父さま、母さま」と呼んではいけないような……醸し出されている雰囲気は、とても高貴なものだった。


 一人掛けのソファーにユリウスが座り、アンジェリーヌとガスパルが並んで座った正面に、エリーゼとデールは座っている。

 ルークはエリーゼに、一人で待つよう確かに伝えたが――当然の如くデールもやって来ていた。

 ルークが複雑そうな表情をしていたのは、これを予期していたからだろう。


(この中で、上に立つのはやはり母さまだったのね)


 上座も下座も関係なく座ってはいるが、ガスパルとユリウスはアンジェリーヌに仕える者なのだと、エリーゼは感じ取る。


 ――そして。


 ユリウスと両親から、エリーゼが生まれるまでの経緯を聞かされた。


 今まで、あやふやのまま受け入れていた内容を、エリーゼは暫し黙って考える。

 その間、エリーゼを(おもんぱか)ってか、誰も声をかけてはこない。


 ある程度は両親の過去について想像していたが。身分違いの駆け落ちが、まさかそこまで複雑に絡んだ事情があるとは思っていなかった。


(アルも相当な生い立ちだったけど、母さまにもそんな過去があったなんて……)

 

 エリーゼが提案されたのは二つ。


 両親と共にプロイルセン国を出て、神聖帝国から更に離れた地に移住するか、ユリウスの養女となりこの国で公爵令嬢として生きるか。

 後者なら両親だけがプロイルセン国を去ることになる。


 エリーゼは、両親が大切であると同時に、大変な状況にある友人のアルを放っておけない。


 これが、前世を何も知らない只の少女だったら――アルも心配だが、両親と戸籍上でも離れなければいけない葛藤と不安で、結論はすぐには出せないかもしれない。

 この場に居る大人たちもきっと、そう思っているだろう。


 一時は、前世の記憶を持った状態が、自分であって自分でないような気がしていた。

 でも、デールと出会い、全てを話せたことで考えが変わってきた。


(過去の記憶を持つ自分も含めて、私はエリーゼなのだから。だったら答えは決まっているわ)


 どんなに人生を繰り返そうとも、()という瞬間は二つと無いのだ。

 両親もアルも守れる選択。それがあるなら、迷う必要なんてない。


「わかりました。私、養女になります」


 エリーゼは、はっきりとした口調で自分の意志を伝えた。

 応接室を張り詰めていた緊張感が和らいだ。


「それが、エリーちゃんの気持ちなのね」

「はい」とエリーゼは笑みを返す。


 アンジェリーヌは皇女の顔から穏やかな母の顔に戻る。


「エリーちゃんに肩書きが増えただけで、私たちの娘であることに変わりはないわ」

「その通りだ! エリーゼが会いたくなったらいつでも会いに来るぞ」

「父さまったら……。それじゃ意味が無いでしょ! 会いたくなったら、私が会いに行くから」


 アンジェリーヌがクスッと手招きする。エリーゼは立ち上がるとテーブルをまわり、ぽすんとガスパルに抱きついた。

 アンジェリーヌは、そんな二人をぎゅっと抱きしめてから、改めてユリウスにエリーゼをお願いする。


「お任せ下さい。エリーゼは私の命にかえても守ります」


 ユリウスはサラリと重たい言葉を口にする。そして……


「デールも、エリーゼと共に養子にと思うのですが」


 今まで存在を忘れていたデールに、皆の視線が向いた。


「それは有難いが」とガスパルが言いかけた所で、デールは自分から断った。


「オレは生粋の()()ですから、公爵家の養子なんて荷が重すぎます。どうせなら、あちらの()()()()()の養子にしてもらえたら嬉しいのですが」と。


 デールは、一歩下がった所で待機していたイザックを見た。


「出来れば、執事として……恩あるエリーゼにずっと仕えたいのです」


 殊勝なことを言うデールに、ガスパルは感動しているようだが……。

 エリーゼだけには副音声として

『平民てか悪魔だし。公爵令息なんて面倒くさいうえ、勉強なんてするだけ無駄。どうせならテキトーに動けてエリーゼの傍にいる立場が便利でいい』と聴こえた。


「あ。何ならメイドとして、エリーゼの身の回りのお世話するのでも構いませんけど」


「「それは駄目だ!!」」と口を揃える、ガスパルとユリウス。もう、父が二人になったようだ。

 エリーゼとアンジェリーヌは顔を見合わせて笑う。


 空気を読んだ執事イザックは、コホンと咳払いをし

「不肖ながら私めが、デール君をエリーゼ様の、立派な執事となるよう育てさせていただきたく存じます」とデールを養子にすること快諾した。


 実はイザックは出来る執事どころか、第三皇女から命を受け、他の皇族に気付かれないよう裏で動き、二人のパイプ役をしてきたのだとか。

 しかも、いつかアンジェリーヌが誰かを頼る時が来るなら、相手がユリウスだと分かっていて、公国に身を置いたのだ。

 もしかしたら、デールを自分の後継者に育てるつもりなのかもしれない。


(さすがに無理でしょうけど……悪魔(デール)だし)


 そして、この場でエリーゼとデールの養子縁組の契約書が交わされた。

 神聖帝国の件は今すぐではないだろうが、公王の承認を必要とするため、早めにということだった。


(転ばぬ先の杖……それだけ、神聖帝国が厄介な国ってことよね)


「あの」とエリーゼは、ユリウスに声をかける。


「なんだ?」


「養子縁組が成立しても、神聖帝国が関わってこないなら……せめて騎士学校に居る間は、公にしないでほしいのですが」


「勿論構わない。向こうの動きさえなければ、アンジェリーヌ様も隣国にいらっしゃるのだからな。ただ、公爵令嬢としての教育は受けてもらうことになるが」


「ありがとうございます。大丈夫です、頑張ります!」


 エリーゼの意気込みに「頼もしいな」とユリウスは笑う。


「だが、神聖帝国(あっち)の動向をどうやって早めに掴むかが問題だな」とガスパルはユリウスを見る。


「それについては問題ない。信頼のおける者が、しけ……いや、修行を兼ねてとっくに潜入しているからな」


 ユリウスは自信があるのか、意味深長な微笑みを浮かべて言い切る。


(今、試験て言わなかったかしら?)


 エリーゼはコテリと首を傾げた。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ