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14. 帰って来られる場所

「お帰り、アル」


 ガヤガヤとした朝の食堂で、アルを見つけたエリーゼは早速声をかけた。


「ああ、ただ……ぃま」


 とアルは一瞬だけ言葉を詰まらせ、フイッと横を向いてしまった。


(やっぱり、王宮での姿は見られたくなかったわよね……)

 

 毒を飲んだり洗脳されたり、張り詰めた緊張感の中、師の頼みといえ友人に一部始終見られていたのだ。心中は複雑だろう。

 それでも、鍛えてきたアルにとっての馬車移動は大した負担も無かったようで、王宮に居た時と別人のように顔色もいい。むしろ――。


(ん?)


 血行が良すぎるというか、頬がだいぶ赤い。熱でもあるのかと心配になり、アルを下から覗き込むように見た。


「どうかしたの?」

「あ、いや、何でもない。俺にも……帰る場所があったんだなって」


 蚊の鳴くような声で言うアル。

 自分の国や宮殿が、アルにとっての帰りたい家ではなかったのだと、エリーゼも今なら理解できる。


「そっか。公国(ここ)は第二のふるさとって感じだものね」


 十三歳で入学した兵士学校の頃からずっと居るのだから。うんうんとエリーゼは一人頷いた。


「そういう意味じゃない。エリーゼが居るから――」


 周りの話し声がアルの声をかき消した。


「え?」

「いい! さ、早く食事を取ってこよう」

 

 アルはエリーゼの手を掴むと、配膳カウンターの前に急いで並んだ。


(かなりお腹が空いてるのかしら?)

 

 相変わらず繋いだ手はなかなか離してくれず、そのままアルは出て来る料理を黙って見つめていた。

 デールやベンジャミンとは違って、アルには食欲旺盛なイメージはなかったが。ここはアルにとって安心して食べられる環境なのだろう。


(毒がアルの為に盛られていたことだけは、早いうちにどうにか伝えてあげなきゃね……)


 エリーゼは、繋ぐアルの手がうっすら汗ばんでいることなど、全く気にも留めなかった。

 



 ちょうど席についたところで、デールとブランシュが二人を見つけトレイを持ってやって来る。

 

「おはよう! 二人とも早いわね」


 ブランシュは朝練でひと汗流して来たようで、スッキリとした顔をしている。三人が留守にしていた期間も、一人で朝練していたようだ。

 というか、()()()()()ことさえ気付いていないはず。


 ルークに、エリーゼたちが居ないことをどう誤魔化したのか、一応訊いてみた。


 エリーゼとデールがプロイルセン国に行ってる間、試したかったことをやってみたらしい。

 魔石を軸とした絡繰り人形を、エリーゼとデールの外見に変え、代役としてルークが遠隔で動かしていたそうだ。


 当初はルークが魔法で幻影を作るつもりだったそうだが。魔力が少なくても使える、魔道具の人形の試作品がちょうど出来上がったから、どうせならと。


 もちろんクラスの違う二台同時は、自分の授業中ではなかなか難しいらしく、人形に認識阻害の魔道具も合わせて使い、何となく程度に二人がクラスに居ると周囲に思わせていたそうだ。


 どうしてもの時だけルーク自身が姿を変えて、エリーゼやデールのフリをするつもりだったらしいが。必要な場面は無かったと、残念そうにしていた。

 何故そこは幻影でないのかよく分からない。


(ああは言っていたけど。ルーク先生なら、他国に潜り込むなんて本当なら朝飯前よね……。敵だったら厄介だけど、味方なら心強いわ)


 仲の良いブランシュには、念のためデールの力も借りておいたので、何の心配もいらなかった。

 またしてもブランシュを騙すみたいになってしまったが、こればかりは仕方ないのだ。

 ブランシュから視線を外すと、珍しいことにデールは向かい側にいた。


「お、そっちのも美味そうだな」


 とデールはエリーゼの隣ではなく、アルの隣に座った。

 そして、アルの耳元に顔を寄せる。


「お帰り、ア〜ル」


 デールは囁くと同時に、フッと息を吹きかける。アルは耳を押さえてバッと椅子から飛び退いた。


「おまっ!」


 顔を赤くしたアルに「ふん」とデールはしたり顔をする。


「ちょっと、デールったら!」


 さっきのやり取りを見ていてアルを揶揄ったのだ。


『アルは安心して過ごせる環境や、毒を気にしないで済む食事に喜びを噛み締めているのだから! ひやかしたらダメよ!』


 エリーゼは、デールに文句を送る。


『そう取ったか……うん、さすがエリーゼだな!』

『え? ありがとう?』


(褒められた?)


 よく分からないがニコニコするデールに、エリーゼはお礼を言っておいた。

 とその時――。


 アルはデールの顔を両手で挟み、グイッと自分の方を向かせると、焼きたての新作パンをデールの口に突っ込んだ。「美味いだろ?」と。


「ふぁにふんだ!」

 

 とモゴモゴ食べながらデールは文句を言うが、本当に美味しかったのかペロリと食べ切り満足そうにする。


「オレのはやらないからな」とデール。

「別にいらない」


 そんな子供みたいな言い合いを始める二人に「仲良いわね〜」とクスクス笑うブランシュ。

 エリーゼもつられて笑ってしまう。


(アルに帰って来られる場所があって良かった)


 つくづくとエリーゼは思った。




 ◇◇◇◇◇


 

  

 ――その日の放課後。


 平穏な学校生活に戻って、やる気満々で訓練に向かおうと思っていたエリーゼはルークに呼び止められた。


「今夜、迎えに行くから()()()寮の外で待っていてね」

 

 複雑そうな表情で言ったルーク。エリーゼは急遽ユリウスの屋敷に行くことになった。





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