12. 悩むルーク
「――で、どうだった?」
アルより、ひと足先に公国へ戻ったエリーゼとデールは、魔道具を返しにルークの元を訪れていた。
学校を休んでいた間の話もすり合わせておかなければならない為、放課後の誰も居なくなった時間を狙った。
早速ルークは念のためと結界を張り、教師の顔を捨てると興味津々で尋ねてきた。
さも、アルを心配していたのかと思えば……。
(この表情!)
真面目に潜入したのにと、エリーゼは少しばかり不機嫌になりつつ口を開く。
「なんで! デールまでメイド姿だったのですか?」
先ずはそこから文句を言いたかった。
「え? 似合うと思って!」と、ルークはニコニコと……いや、してやったり顔で楽しそうに答えた。
「似合うに決まっているだろ」とデールまで調子に乗ってくる。
(これは。言えば言うほど喜ばせてしまうやつだわ……)
「はぁぁ。もういいです」
「ま、冗談はさておき。アルの秘密はわかったの?」
「はい……ん? えっ!?」
ルークは最初から、エリーゼとデールにアルの秘密を覗かせるつもりだったのだ。
まじまじとルークを見れば、先程とは一転して真面目に喋りだす。
「余計なお世話なのは百も承知なんだ。いつか……アルからエリーゼに、話すつもりだっていうのも分かっていたしね。けどさ、それじゃ手遅れになる場合がある」
「ルーク先生は……。全てを知っていたのですか?」
「全てじゃないよ。母親が誰かってことと、アルが長い年月をかけ洗脳をされていた――ってことくらい」
肩を竦めたルーク。アルの身を案じていたことに、嘘は無いようだった。
「それでオレ達を利用したんだな」と、今度はデールが口を開く。
「うん、二人を利用した。正確にはデール、君の能力がなければ不可能だと思ったからね。本来あるべきアルの地位は高すぎる。それをどうこうするなんて、僕に手出しできる相手じゃない。それでも、君たちは友達だから、アルを助けたいんじゃないかと思ってね」
ルークの視線はデールではなく、エリーゼに向けられていた。
(本当、侮れない人……)
悪魔の正体を契約者以外が口にしたら、どうなるかも知っていて、敢えて『悪魔』という言葉を濁しているのだろう。
その上で利用してくるのだ。悪魔であるデールは、契約者であるエリーゼの意思を尊重するから。
人間性はよく分からないが、ルークは能力のある魔術師で知識も豊富。一見すると、周りの人には目もくれず、興味があることにしか執着しなさそうなタイプに見える。
だが――。
実は情に厚いのかもしれないと、エリーゼは思った。
「今回の件。やはり、ユリウス先生は知らないのですか?」
「本来なら報告しなきゃなんだけど、僕も弟子は大切だからさ〜。それに、君たちも知られたくないこと沢山あるでしょ」
ルークはへらっと笑う。
つまり、デールの正体を知っているのはアルとルークの二人だけ。
エリーゼにしてみたら、デールのことを秘密にしてもらえるのは有難いが、公王弟の部下がこれでいいのかと不安になる。
「でしたら……。私たちが見てきたことを話すので、ルーク先生も知っていることを全て教えて下さい」
「もちろん、そのつもりだよ」
そして――。
お互いの話が終わったとき、ルークからヘラヘラとした表情は消えていた。
「……参ったなぁ。めちゃくちゃ厄介だ、これ」
ルークは頭を抱えた。
王妃の件も確かに驚いた様子だったが、どうやらそれだけではないらしい。
「まだ何かあるんですか?」
「ん〜。神託が本当だったとして、プロイルセン国の神殿だけで済めばいいんだけど……ね」
昔からの慣わしや風土によって、国が違えば崇める神が違うことが多い。
けれど、プロイルセン国と同じ神を崇めている国があるのだと。
より信仰心の強い、遠く離れた神聖帝国が――。
「これは、殿下に報告しなきゃな案件だ……。いいよ、僕が怒られたら済む話だし……」
「ルーク先生、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫……」
どこが大丈夫なのかと突っ込みたくなるテンションで、ルークはボソボソと答えた。
多分デールの正体は隠したまま、ルークの魔法で無理矢理潜入をさせたと伝えるつもりらしい。
「まあ、それに早く気付けたのは僥倖……いや、不幸中の幸いとも言えるか……」
あまりにも小さなルークの声。
「え、今なんて?」
聞き取れなかったエリーゼが尋ねると、ルークは適当に笑って誤魔化すだけだった。
◇◇◇◇◇
エリーゼとデールが寮へと帰って行くと、準備室に一人残ったルークは盛大な溜め息を吐いた。
ルークがユリウスに出会い、魔塔へやって来るずっと前――。
当時はまだ、独立直前だった公爵領。
北部で魔物や魔獣が多いのにも関わらず、帝国はろくな支援もせずに公爵領に討伐を丸投げしていた。
そんな中、生真面目で堅物な兄とは違い、型にはまらない性格で跡取りではない次男のユリウス。
見目も麗しいユリウスには、幼い頃から良い縁談話が尽きなかったが、先代公爵は縁談は受けさせず、ある国へと留学させた。
それが、聖騎士の育成に優れた神聖帝国。
国が支援しないなら、独自の力をもっと付けなければ失われる命が増えるばかり。
正直に言えば、ユリウスを根本から鍛え直すのが目的だったとか。ルークと酒を交わした時にポロリと言った。
向こうでの詳しい話は聞かされていないが、そこで出会ったのがエリーゼの両親らしい。
(執事であるイザック・ペレスも神聖帝国出身だったよな……)
公王弟である主人が対等に接する、エリーゼの父親。エリーゼの母親に至っては、敬っているような気さえする。
(なのに、隣国の平民だって? 明らかに訳ありだよなぁ。何も起こらなきゃいいけど――)
憂鬱な足取りのルークは、とりあえず急いでユリウスの屋敷へと転移した。




