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11. 伝えるべきか

「……そんなことって」


 思わずエリーゼは口に出してしまう。国王と王妃の、まさかのやり取りに愕然としていた。


(話についていけない――)


 エリーゼとデールは、クリストファーのパレードは見に行かずに、そのまま会場に残ったアルや他の人間の動向を眺めていた。

 本来、メイドであれば片付けに向かうべきだ。

 けれど、式典を含め大きな問題などは起こらなかったのだから、そろそろ潜入もお役御免でいいだろうと。


 そんな中、様子のおかしい王妃が目についた。


 どこがと問われたらエリーゼにも答えられない。それでも……数日間、王妃を見張ってきてそう感じたのだ。

 念のため、デールに王妃を魔眼で追ってもらうと、国王に会いに向かったのだとわかった。


 王妃が勢いよく部屋に入った直後、なぜか結界が張られたらしい。さすがにここまでかと思ったが、デールは鼻で笑い、室内を映し出したのだ。

 そして、会話の声もハッキリと聞こえ、内容を知ることになった。

 

(アルが言っていた、ややこしいって……これ?)


 確かにと、納得せざるを得ない。


 思惑が絡んだ複雑すぎる内容に、エリーゼは話に追いつこうと頭の中を必死で整理していく。アルの生い立ちに加え、過ごしてきた環境。竜の血を引く者への、とんでもない神託の内容まで。

 

(でも待って。側室の洗脳にはアルは気付いていたけれど、王妃に対しても嫌悪感がありそうだったわ。アルも全ては知らないんじゃ……。普通、虐げてくる相手が、自分への愛情を隠しているなんて思うわけないもの)


 そして、ふと気になった。全てに絡んでいる神殿の存在が――。


「ねえ、大神官てどんな人?」


 デールはエリーゼに「見覚えがあるのか」と驚いたように言った。無いと答えたエリーゼに、デールは安堵しているかのようにも見えたのだ。


(別行動の時に何かあったのかしら?)


 考えてみれば、呼び出した時の様子も変だった。


「見た目は、若いな」と、どうでもいい返答をするデールに、「そういうことじゃなくて!」とエリーゼは突っ込む。

 すると「実はオレにも……よく分からない」と真面目に答えた。


 誤魔化しているわけではなさそうだった。


「じゃあ、私たちで調べてみない?」

「ダメだ!! あ、いや……」


 エリーゼの提案に、デールなら面白そうだと乗ってくるかと思ったが、予想外の反応をする。


「アルも今は何もするなって言っていただろ。それより、あの王妃の実態をアルは知らないんじゃないか?」


 デールはエリーゼが気になっていた所をつついてきた。やはりデールも同じことを考えていたらしい。


「……うん、そうね」

 

 本当の息子に恨まれながらも、孤独に悪役を演じ守ろうとしてきた母親。アルが、どれほど大切な存在なのか。衣装室で垣間見た表情の理由がわかった。


 同時に、企てた側室とクリストファーの関係もまた


(あまりにも歪んでいるわ……)

 

 だからといって、エリーゼがアルに伝えてしまっていいものかと悩む。王妃がどんな思いで隠し耐えてきたのか。それを考えたら、簡単には口に出来ない。


「今はまだ……私たちは、何もしちゃいけないのかもしれないわね」


 とりあえずの結論として、この件は静かに見守ることにした。国王が妻の真実に辿り着いたのなら、今度は二人で最善の道を選ぶのだろうから、と。

 エリーゼは、アルの両親を信じてみようと思った。アルがこれ以上辛い思いをしないように願って。


(でも――。私自身がアルに伝えるべきだと思えた時は、遠慮するつもりはないわ。絶対、アルを生け贄なんかにさせないっ)


 エリーゼが決心している横で、デールの神経は大神官へと向いていた。


『また同じことを繰り返すつもりか――』と赤い瞳が鋭い光を帯びた。



 

 その後――。

 

 予定通り式典の翌日には、アルは公国へと出発した。やって来た時と同じルートを通って。




 ◆◆◆◆◆




 アルフォンスを見送ったソフィアは、離宮の自室で香を焚き、ソファーにゆったりと身を沈めていた。

 愛しき人から届いたばかりの香。芳しい香りが張り詰めた緊張を解す。

  

 数少ない使用人も片付けに駆り出され、ソフィアの部屋にやってくる者はいない。

 気が緩んだのか、天井を見上げ小さく溜め息を吐くと、普段とは違う口調でポロポロと愚痴をこぼす。


「ほんと無能なんだから……。さっさと、王太子に決めたらいいのに。やっぱりカサンドラ(あの人)は役立たずね」


 決断力に欠ける国王。

 その上アルフォンスを虐げてくる王妃は、いまいち生温いことしかしてこない。


「まあ、焦ることはないわ」

  

 洗脳も上手くいっている。クリストファーが王太子になれば、次の段階に進めるのだ。


 どの道、アルフォンスには()()死なれては困る。

 相変わらず貧相な体つきのアルフォンスが、立派な騎士になることはないだろう。だが、その方が都合がいい。本当の役目は、クリストファーの剣になってからなのだ。

 

(厄災が起こる時……アルフォンスは、秘密裏に器として生贄に捧げなければならないのだから)

 

 厄災を鎮めた功績は、全てクリストファーのものにしなければならない。

 最高の王として君臨する為に。


(そして――私がクリストファー(あの子)の母に戻る時)


 赤子の入れ替えをした犯人には、もうこの世にいない当時の乳母が最適だ。でっち上げたハチミツ事件もあるのだから、誰も反論できないだろう。傲慢な王妃を恨んでいたことにしてしまえば丁度いい。


 勿論、アルフォンスを殺したのは王妃だと、犯人に仕立て上げるつもりだ。

 

(虐げてきたアルフォンスが自分の子だと知ったら、カサンドラはどんな素敵な顔を見せてくれるかしら……)


 高貴な公爵家に生まれ、全てを手にしてきた傲慢な王妃カサンドラ。視線を向けられるたびに、見下されているようだった。

 それが、絶望に突き落とされる瞬間がやってくるのだ。


 ふふっと、ソフィアは笑みを浮かべる。


 クリストファーが王になったら、全てが思いのままに動いて行くだろう。

 虐げられても笑顔を絶やさず、健気に生きて来た実母を、クリストファーなら大切にする筈だ。


「この国が()()()()の物になった時……隣に立つのは私だわ」


 美しい白髪の大神官の姿を思い浮かべ、ソフィアはうっとりと少女のように頬を染めた。





 

 



 


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