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10. 式典を終えて現れたのは

お読みいただき、ありがとうございます。

本日、三話目の投稿です。


 式典を終え、国王であるティエリーは執務室で人払いをし、やって来るであろう相手を待っていた。

 扉の前に立たせた近衛には、その者を止めないよう言ってある。


 間もなくすると、ノックと共に扉は大きく開かれ、すぐに閉められた。


 ティエリー自らの魔力を込め、防音結界を張る魔道具を起動させる。それを知ってか知らずか、相手は声量を抑えない。


「陛下! あれは、どういうおつもりなのですか!?」


 婚約式で、第二王子クリストファーと聖女リリアーヌに向け、皆の前で国王として祝いの言葉を述べた。

 こうなる事態を予想した上で。


「――カサンドラ」


 どんな時も、徹底した王妃としてのマナーを守ってきたカサンドラ。

 今回ばかりはそうも行かず、夫の元へとやって来ると、挨拶も端折りすぐに本題に入る。


「なぜ!! あの場でクリストファーを王太子にと――仰らなかったのですか?」

 

 低く唸るように言った問いかけ。カサンドラは怒りに震えていた。

 条件の揃ったクリストファーに、第一継承権が与えられると、あの場の誰もが思っていただろう。

 けれど、国王としてティエリーは敢えて明言を避けた。

 

「第二王子とはいえ、誰の目にも……王太子になるべき存在だと明らかになったでしょうにっ。これでは、アルフォンス――資質を備えていない第一王子を利用し、不要な争いを起こす者が出て来てしまいます!」


「カサンドラ……」と、ティエリーはもう一度呼びかける。


 この国で王の次に地位の高い、王妃である妻。幼い頃に婚約し、共に国の為に生きる約束をした。

 だが、早過ぎた王位継承。

 カサンドラは聡明で信頼できる戦友でもあったが、そこには王族としての責務が第一で、愛は生まれなかった。

 

 押し潰されそうな重圧の日々。


 いつしか――

 屈託のない笑顔で疲れた自分を癒してくれたソフィアに心を奪われ、無理を押して側室として彼女を迎えた。カサンドラの気持ちなど微塵も考えずに。 

 

 それから間もなくして、カサンドラより先に妊娠が判明したソフィア。

 後ろめたさから、王妃のすることには一切口出ししないことで、自分を正当化してきた。

 

(クリストファーの乳母の件もあり、カサンドラの好きにさせることでソフィアへの嫉妬を軽減させ、均等を保っている気になっていたが……。間違っていた)


 濃い化粧で自分の心まで覆い隠した妻を、冷静に見つめた。

 幼い頃は可愛らしい笑顔が絶えない女の子だった。王妃教育が始まり、いつから無邪気に笑わなくなったのか。


(それすら覚えていない。私を……国を支える為だったというのに。全ての責任は私にある)


 アルフォンスに真実を告げられ、王だけが動かせる影を使い、秘密裏に二人の妃とその周りを取り巻くもの全てを徹底的に調べた。

 そして、そこに隠されていたものは……。


「すまなかった」


 国王から出た言葉にカサンドラは目を見開く。

 

「でしたら」

「クリストファーを王太子にするつもりは無い」

「――なっ!」

「それが、アルフォンスを守る最善へと繋がるからだ」


 カサンドラはビクリと体をこわばらせ、怪訝そうにティエリーを見上げる。


「何を仰りたいのか……」


「カサンドラ。そなたが()()()()()は知っている」


「……知っているからと、それが何です。陛下の愛しい側室や第一王子にした嫌がらせなど、大したこと」

「違う!」とティエリーは遮った。


「そうではない。ソフィアの恐ろしい計画を利用し――二人の王子を守ろうとしたのだろう?」


 カサンドラのクリストファーに注ぐ愛情に、偽りはない。

 

「な、なにを……仰りたいのか」


「カサンドラが、自分の子が取りかえられて気付かないわけがない。たとえ、公務でなかなか会えず、世話をするのが乳母であってもだ。ソフィアの策が成功したのは、カサンドラが裏で手を回したからだろう?」


「……」


「嫉妬から、傲慢で我儘になった王妃……私自身もすっかり騙された。アルフォンスに飲ませていた毒も、過去の王族なら当たり前の慣らしの量だ。自分の手から離し、毒耐性までつけさせ()()()アルフォンスを遠ざけようとした?」


 カサンドラの双眸は、信じられないとばかりにティエリーを見詰める。


「王として誓おう。必ずや、アルフォンスを守ると。だから、包み隠さず教えてほしい」


 かつて、将来を誓った頃の真っ直ぐな夫の顔だった。カサンドラは重い口を開く。


「あの子は――。竜の血を引く者です……」


「やはり、知っていたのか。ということは、取り上げた神官も、それを?」


「はい。神官様にもお願いし、隠していただきました」


「何故そのようなことを!」


「仕方ないではありませんか! 私は神殿で聞いてしまったのです。竜の血を引く者が、厄災の器となり生贄となるのだと!」


「今の時代、生贄など……」

 

「厄災が起こると、神託があったとしてもですか?」


 カサンドラは真剣だった。

 伝説にもなっている、始祖である竜人。その厄災を鎮めた竜人の親や親族がこの国を作った。

 だからこそ、竜の金の瞳や強い魔力を持つ者が、王に相応しいとされている。

 だが、厄災の器については王家の秘密とされてきた。


 ティエリーが即位してから、何度も頭を悩ませてきた異常気象や災害。近年では、魔物の報告数もかなり上がってきている。カサンドラも王妃として対策に奔走した。


「災害に生贄なんて意味がないと私は考えております。すべきことは他にあります。――ですが、国民はどうでしょう?」

 

 ただでさえ生活に困窮している平民はもちろん、贅沢な暮らしで自分の領地しかみていない貴族も多い。

 もし、大規模な災害がおこり、第二王子が生贄になれば救われるなんて話が出たらどうなるか。

 ソフィア側が、それを利用しない訳がない。

 国王からの寵愛を受けている側室には、ちゃんと第一王子がいるのだ。


 ティエリーは「絶対にない」とは言えなかった。自分もまんまと騙されていたのだから。


 そうなれば、カサンドラの実家である公爵家が黙ってはいないだろう。当然、側室の子は命を狙われる。


「そんな時、ソフィア様の策略を知りました」


「乳母は……」


「操られていたのでしょう。……自害してしまいました」


 悔しそうにカサンドラは言う。

 信頼していた乳母を亡くし、ソフィアの本性を知った。

 どうすれば、我が子を守れるか。その選択肢の中に、頼れる夫はいなかったのだ。


「だから、逆手にとって利用したのか」ティエリーは小さく呟いた。

 ソフィアの目的は、自分の子を王にすること。その為には、竜の血を引く王子の存在を、徹底的に隠すだろうと。


(だが、カサンドラだけで全て出来るはずはない)


「そなたに協力……いや、神託を教えた神官はだれだ?」


「――大神官様です」

 





 

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