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7. 居るべきではない人物

「え?」と、思わず聞き返してしまった。


(第二王子はアルを心配しているの?)


 本心からこぼれ出た一言のような気がした。

 だが、こんな場で一介のメイドに訊くようなことではない。あの正妃に溺愛されている息子なのだから、いくらでも情報は手に入る立場だ。


 異母兄弟でも仲が良い場合もあるが、潜入してみてそんな関係ではないと思っていた。

 母親達とは違い、お互いに敵対心を持つわけでもなく、親密でもない。装っているだけかもしれないが、無関心――そんな気がしたのだ。

 王妃がアルに毒を盛っているなんて、知りもしないのだろう。


 アル自身の口からも、弟についての話は出たこともない。ただの一度も。


「いや……何でもない」


 どう言ったものかと返答に困っていると、クリストファーはエリーゼが聞き取れていなかったと思ったのか、話を逸らした。


「それより、この庭園と温室は王妃である母のもの。許可を得た、限られた者しか入ってはならない。知らなかったのか?」


「た、大変申し訳ありません! 存じ上げておりませんでした」


 エリーゼは慌てて謝罪する。

 庭師を探していたのは本当だ――ただ、頼まれたのはエリーゼではない他のメイドがだが。


 だから、そんな許可が必要な場所だと教えてもらっているはずもない。

 この庭園に入ったのは何となく。人の気配がないので、ちょっと休憩しようとしただけ。

 正門からの広く大きな本庭園ではなく、こぢんまりとした雰囲気が良く、更にその先にはアルの住む離宮が見えたこともある。


「とはいえ! 私も内緒で入ったから、ここで会ったことは二人だけの秘密にしておいてくれ」


(あ……護衛がいない理由はそういうことね)


 クリストファーは人差し指を立てウインクし、冗談めかして言った。チャラそうに演じ、何かを誤魔化したいのかもしれない。クリストファーの背後の離宮が視界に入る。

 

(ま、どうせ私の顔は記憶に残らないから、乗ってあげよう)


 ポッと頬でも染める反応ができれば良かったが、エリーゼには可愛い演技なんて出来ない。

 とりあえず、エリーゼはクスッと笑い「はい」と答えた。




 ◇◇◇◇◇

 

 


 その頃、洗濯場の隅では――。



「ねえ、ねえ! 大神官様のお顔見た?」

「ちょっと、誰かに聞かれたらマズいわよ!」


 興奮した小柄なメイドを軽く嗜める、いかにも神経質そうな同僚のメイド。


「大丈夫よ、今は私たちしか居ないもの! それより、私見ちゃったのよ」


 使用人が王族や客人について勝手に話してはいけない。見つかれば厳しく罰せられる。

 けれど、良い家柄の上級使用人ではなくとも、貴族の娘。出会いを求めて王宮に勤めているのだから、様々な情報を得られる噂話は大好きだ。

 キョロキョロと周囲を気にしつつも、興味津々で訊かずにはいられない。


「え、うそ!? どうだった?」


 神殿の神官はよく派遣されてくるが、今代の大神官は滅多に神殿から出ず、ベールに包まれている存在だった。それでも、嘘か誠か噂は流れた。


「めちゃくちゃ素敵だった!」

「大神官様がお若いって噂、本当だったの!?」

「ええ! 私もビックリしたわ。美しい白髪(はくはつ)に整ったお顔立ち……まるで後光がさしているようだったわ」

 

 両手を組んでうっとりと思い出すメイドに、「羨ましい〜っ!」ときゃあきゃあ盛り上がっている。


(若く白髪の大神官だと?)


 洗濯場をあとにしたデールは、顔を顰めた。


 大神官になれる能力がある者はそうそう居ない。

 高い神聖力を持ち、長く実績を積んだ者がなるため高齢の者が殆どだ。

 稀に、年齢実績問わず、強い神聖力を発現させる者が現れるケースがある。

 特徴としては、どんな容姿であっても――覚醒すると全てを浄化したように、輝くような白髪になる。


(そいつが今の時代に出たってことか……嫌な奴を思い出させる)

 

 チッと舌打ちしたメイド姿のデールは、足早に歩く。神殿からの者たち用に用意された宮へと向かって。

 姿を消しても良かったが、先程の会話を盗み聞いて自分の魔力は使わない方がいいと判断した。




 ◇◇◇◇◇

 

 

 

 礼拝堂にも近く、朝日がより入る東側の宮に神官達は泊まる。

 デールは使用人に混じり、神官御一行の様子を探った。国王との謁見があるせいか、ほぼ全員が同じ斎服のままだ。


「それでは――。私は先に、ソフィア様とアルフォンス殿下の診察に行って参ります」


 と神官の一人が、誰かに挨拶をすると部屋から出て来た。デールは廊下の端に寄り、頭を下げて通り過ぎるのを待つ。

 神官がデールの前を通った時だった。

 

(何だ、この神官?)


 違和感があった。神官でも神聖力が少ない者は居る。けれど、神聖力どころかドス黒い魔力の渦を感じた。


 アルのもとへと向かう神官をつけようかとも思ったが、デールは身動きが取れなかった。

 何故なら、その神官が出てきた部屋の扉が再度開かれたから――。


 覚えのある力の流れを感じた。


 デールは嫌な予感にドクリと全身が強張る。離れた扉の先を魔眼で透視した。

 部屋の最奥に座る、他の者とは違う豪華な斎服を纏った大神官らしき人物。見事な白髪に、薄い笑みを貼り付けていた。


(な、んで……こいつが生きているんだ――)


 デールはヒュッと息を呑んだ。



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