1. 新学期
だいぶ期間が空いてしまい申し訳ありません。
ここから第三章に入りますm(__)m
もう、新しい学年がスタートする時期になっていた――。
卒業式後のダンスパーティー中に誘拐されたうえ、三日間眠り続けたエリーゼ。ユリウスの計らいで、体調が戻るまではと学校を休み、そのまま公爵邸で過ごした。というか、いくらエリーゼが大丈夫だと伝えても、ユリウスが首を縦に振らず、聞く耳を持たなかったのだ。
寮に戻らず、邸から直接通うのなら許可は出そうだったが――。ルークの影がちらつき、さすがにそこまでして、学校へ行く気にはなれなかった。
その間、アルやラインハルトの見舞いなどはなかった。正確には、ユリウスによって面会が許されなかったため、手紙のやり取りでエリーゼは元気になったことを伝えた。
両親より過保護な対応のユリウスに、エリーゼは若干引きつつ、気づけば在校生もそのまま短い春休みに突入していたのだ。春といっても、北部の気候は厳しい寒さが緩んだ冬――その程度なのだが。
結局エリーゼは、新学期が始まるまで学校へは行くことなく、いったん帰省し、実家でのんびり過ごすことになった。
正直、両親……というか、ガスパルが今回の件で騎士学校を辞めろと言い出すのではないかと、エリーゼは内心ビクビクしていた。
けれど、それは杞憂に終わった。
エリーゼの知らないところで、ユリウスとガスパル、アンジェリーヌで話をつけていたらしい。
ガスパルを二人がかりで説得したのだと、デールが言うのだから間違いないだろう。
そして、エリーゼは二年生になった。
◇◇◇◇◇
「エリーゼ、こっちよ!!」
朝食をとりに寮の食堂へ向かうと、先に席を取っていたブランシュが手を振る。
その隣には、アルとデールがもう座っていた。
昨夜遅くに寮へ戻ってきたエリーゼは、久しぶりに会う友人たちに顔を綻ばせた。
アルはそんなエリーゼの元気な姿に、目を細め安堵の表情を見せる。やはり、直接会うまでは安心できなかったのだろう。
「あれ? 私が一番遅かった?」
「私たちもさっき来たところよ。新しいクラス編成が気になって早くに目が覚めちゃったわ。かといって、することもないし」
「あー、訓練場の解放は明日からだものね」
「そうそう! これじゃ、体がなまっちゃうわよ」とブランシュは唇を尖らせた。
ブランシュは、もやもやする時は体を動かして発散したいタイプだ。エリーゼはクスッと笑う。
「それにしても、エリーゼのお母様が回復されて良かったわ」
「ええ、心配かけてごめんね」
エリーゼはダンスパーティー中に、実家の母アンジェリーヌが倒れた連絡を受け、急遽実家へ向かったことになっていた。
ドレスのまま消えるのはおかしいので、その辺はユリウスが上手く手を回してくれたらしい。寮に戻らないようにしたのは、そのためだったのだ。
同室のデジレには「大変だったわね」と気遣ってもらい、片付けもろくにせず帰省したことを謝った。
誰がどう伝えてくれたのかはよく分からないが、ボロを出さないよう詳しい話はしていない。デジレは余計な詮索をしないので、その辺は助かっている。
箝口令が敷かれたくらいなので、事件は徹底的に隠蔽された。
もみ消したということではない。黒魔術も勿論そうだが、偽の光属性の魔力、歴史の古い伯爵家から、他所に嫁いだ者まで徹底的に調べなければならないからだ。
なにせ、残されていた姿絵の人物は、皇族だったのだから。きっと秘密裏に処理されていくのだろう。
「なあ、あれって張り出されるやつじゃないか?」
デールの声にハッとする。エリーゼはつい考えに気を取られ、うわの空になっていた。
教師が大きな筒状に丸められた物を抱え、掲示板に向かって歩いている。
「早く食べて見に行かなくちゃ」
「どうせなら、みんな一緒のクラスになれたらいいね」
四人で顔を見合わせると、急いで残りの食事を平らげ掲示板へ向かった。
◆◆◆◆◆
「母上、お呼びでしょうか?」
柔らかな金髪を揺らし、颯爽と歩いて来たクリストファーは、用意されていたテーブルに向かって一礼した。
ここは王妃所有の温室。中央には、王妃専用のティースペースが設けられている。見事に咲き誇った花々に囲まれた場所には、花にも負けない気品ある華やかな女性、王妃のカサンドラが座っていた。
カサンドラは、自慢の一人息子であるクリストファーに席をすすめた。クリストファーが席に着くのに合わせて、侍女はお茶を出し、そのまま下がって行った。
「もうすぐ、クリストファー……あなたのお誕生日ですからね」
「はい、準備は問題なく進んでおります」
自信に満ちた表情でクリストファーは返事をする。カサンドラは満足そうに美しい笑みを浮かべた。
「母上、神殿に向かったリリアーヌ嬢は……」
「ええ、能力が認められたと連絡があったわ」
「では!」
パァッとクリストファーは相好を崩す。
自分の婚約者である侯爵令嬢リリアーヌが、この国の聖女と認められたのだ。
「リリアーヌの聖女としての発表の後、誕生日を迎えたあなたとの正式な婚約式になるわ」
「いよいよ……僕が、王太子になるのですね」
クリストファーの言葉に、カサンドラは頷いた。
たとえ、アルフォンスが自らクリストファーの剣になると誓っても、第一王子を利用しようとする者は絶対に出てくる。僅かであっても、クリストファーの脅威になるものは排除しなければならなかった。
第二王子とはいえ、王妃の子であり、国に安寧の象徴ともいえる聖女に選ばれた婚約者がいるクリストファー。神殿や国民の支持も得て、完璧な国王への道が出来上がった。
これで、第一王子アルフォンスが王太子に選ばれることは皆無に等しい。誰もがクリストファーを王太子と認めるだろう。
「せっかくですから、母上……。婚約式には義兄上を呼んでもよろしいでしょうか?」
カサンドラはピクリと眉を上げた。
「陛下から、療養で少しずつ義兄上の体調が回復しているとお聞きしました。義兄上にも、僕の晴れの舞台を一緒に祝ってほしいのです」
「クリストファー、あなたは優し過ぎます」と、カサンドラは扇を広げ見えないように渋面をつくる。
カサンドラが守り、立派な王になるようにと日々努力を重ねたクリストファーは、あまりにも純粋で高潔に育ってしまった。
だが、これからもカサンドラが守り続ければいいだけの話。したたかさは、これからしっかりと教えていけばいいのだ。
「わかりました」とパチリと扇を閉じたカサンドラ。
「第一王子を呼び、盛大なパーティーにしましょう」
カサンドラの艶やかな唇は、静かに弧を描いた。




