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31. デールの戸惑い

 エリーゼが姿が変わった理由を知りたがると、デールに躊躇いの表情が浮かぶ。


「うーん。オレ自身にも……わからない」

「でも、あの繭みたいな物もデールが作ったんでしょ?」

「まあな」

「じゃあ、翼はもともとあったの?」

「……ああ」


 エリーゼの質問攻めに、デールはどこまで答えたものかと迷う。

 自分の変化の理由を知りたいのはデールも同じ。


(一か八か……少しだけ話してみるか)


 念のため、結界でこの場を覆う。


「本来……エリーゼは、人間界(ここ)にいるべきではないんだ」


「え? それはどういう……」


 込み上げてくる感情に顔を歪めたデールは、重い口を開く。とても信じがたい、遥か遠い昔の話をしようと。


「むかし、人間界に豊穣の加護を与える……」と話し出した矢先。


「――いっ!!」


 とエリーゼは短く叫び、頭を抱えてよろける。


「エリーゼ!!」


 デールはエリーゼを支え、すかさずその痛みを自分に移す。

 鋭い痛みに顔を顰め、天井のずっと先に視線をやると、キュッと唇を引き結んだ。結界は無駄だった。


(やはり()()無理か……)


 デールは、エリーゼの顔に掛かっていた前髪をそっと払い、顔色を窺う。


「大丈夫か?」

「ええ……急に頭が痛くなって。でも治ったみたい」


(さっきの会話は忘れたようだな)


「ならいいけど。詳しくは話せないが、これが本来のオレの姿だ」

「へえ! まるで物語の堕天使みたいね」

「……まあ。悪魔っていっても、みんな色々な姿をしているからな。天使よりカッコいいだろ?」


 見た目は大人なのに話し方は変わらない。いつもの調子のデールに、エリーゼは内心少しだけ安堵した。

 

「それより、時間がない」

「え?」


 デールはパチリと指を鳴らすと、ぼろぼろになった地下牢を元に戻し、黒魔術の痕跡を一部消す。残ったのは先代伯爵が行ってきた悪事が書かれた走り書きや、黒魔術に関与した証拠の数々。

 

「彼女は大丈夫かしら?」


 さっきまでエリーゼが閉じ込められていた牢の中に、意識を失い横たわるイングリッド。


「問題ない。もうすぐ、奴らが着くからそっちでどうにかするだろ」とデールは肩をすくめた。


「奴ら?」


 エリーゼが聞き返したところで、急に上から騒がしい音が聞こえてくる。


「ま、とりあえず……エリーゼは気を失っていたことにしておけばいい」

「わかった」


 エリーゼは、さっさとイングリッドの隣の牢にはいると横になる。


「じゃあ、お願い!」

「は?」

「私、寝不足なのよ。どうせなら、気絶より眠らされていた方が自然でしょ?」


 デールはプハッと笑うと、エリーゼの額をポンと突いた。

 牢の中で気持ちよく寝息を立て出したエリーゼを、愛おしげに見下ろす。

 鍵を閉め、ルークと共にアルとラインハルトが飛び込んでくる直前、デールは姿を消した。




 ◇◇◇◇◇



 

 デールは伯爵邸をしばらく空から眺め、クルッと回転しそのまま宙で仰向けになる。

 翼は消え、今は元の悪魔の姿に戻っていた。



 瞳を閉じて思いを馳せる。

 エリーゼに伝えるか迷った遠い過去に――。



 天界には様々な神がいて、その中でも人間界の生活に直結し、人間との関わりが深い女神がいた。

 それが、人として生まれ変わる前の……好奇心旺盛な幼き女神がエリーゼの最も古い過去だった。

 幼いといっても、他の神々に比べたらだが。見た目は美しい女性の姿。


 ある日、女神は天界の水瓶から人間界を覗いていた。


 そして、竜族と人の間に生まれた一人の少年に目を奪われてしまう。

 最初は、ただ見守ることが楽しかったのだろう。一緒に遊びたいが、人間界に降りることは禁止されている。

 だから、ずっと我慢していた。


 けれど――。


 水瓶の中の彼が成長していく姿に、一目でいいから会ってみたいと思うようになってしまったのだ。

 人間の世界で例えるならば、まるで初恋みたいな感覚なのかもしれない。


 そんな中、何百年かに一度やってくる混沌の時代が訪れてしまった。

 混沌の時代とは、魔界が人間界に最も接近する時期にやってくる。人間の悪感情が膨れ上がった時、魔界を呼び寄せしまうのだ。


 世界にはそれぞれルールがあり、神々は直接人間に手を出すこは許されない。

 にも関わらず、女神は人間界に降りてしまった。

 ずっと見守っていた、成長した竜族の血を引く青年が、人間の手によって生贄にされてしまうのを知って。


 人間としても竜人としても認められなかった青年は、魔界に捧げる贄として恰好の存在だったのだ。


 その行為は――人間の思い込みで行われ、魔族に喜ばれたとしても何の意味もないことだと、天界の者は知っている。

 だから、女神は彼を助けに行ってしまったのだ。


 とはいえ、人間界で女神の力は使えない。

 一人の女性のふりをして、青年を支えることしか出来なかった。二人は恋仲になり、彼女のために青年は竜族として覚醒をしたのだ。


 それを機に、女神は天界と人間界の狭間、自分の秘密の場所へと二人で逃げた。自分が女神であることを隠して。

 だが、幸せな時間は続かなかった。

 生贄に逃げられた人間は神に祈り、神々に女神の行いがばれ、二人は引き裂かれた。

 青年は人間界、そして魔界へと堕とされたのだ。


 青年は、人間であると信じて疑わない自分の恋人の幸せだけを願い、魔界の力の源――人間界にもたらす厄災を、自身の中に閉じ込めた。


 そうして、混沌の時代は終わったが、青年を哀れに思った神のひとりが、魔界から彼の魂だけは回収したのだ。

 せめて、また生まれ変わることが出来るようにと。


 だが、謹慎中でそれを知らない女神は、ショックから自分の加護(しこと)を放棄してしまった。

 人間界には雨も降らず、大地は干からび生活と糧となる植物は枯れ、何も育たず人々は飢えに苦しんだ。


 あまりの状況に、怒ったのは生命を司る神と、運命を司る神。


 女神の力は没収され、罰として人間界に落とされた。

 それでも、消滅ではなく人間としての生命()を与えられたのは、神々の慈悲だったのだろう。


 女神の懇願を受け、彼女を愛するが故に手助けしてしまった愚かな天使は、魔界の悪魔に身を堕とされたのだから。



(悪魔として生きる道しかないオレが、なぜ半分だけ昔の姿を取り戻したのか。あの一撃だけだが、聖なる力も使えたし……)

 

 デール自身が一番戸惑っていた。


 



お読みいただき、ありがとうございます!


※神様の数え方は日本では『柱』と言いますが、こちらではあえてデールは『ひとり』と表現しております。

気になる方がいらっしゃったら申し訳ありませんが、異世界ということで大目に見てください。

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