表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/147

29. 過去の黒魔術とデールのミス

(まさか――。こんな場で捕まるとはな)


 デールは自分の羽根で作った覆いの中で、膝をかかえながら目を閉じ全神経を集中させていた。

 悪魔に染まりきらなかった、体内に残る僅かな破片を集めるために。




 ◇◇◇◇◇




 遡ること一日前。

 

 明日は卒業式ということもあり、訓練場は使えなくなっていた。当然、自主練は休みになる。


 エリーゼは卒業式後のパーティーの準備に追われていたので、デールは別行動をとることにした。


 そんな矢先、デールはたまたま気になる気配を感じ取ったのだ。

 時間も持て余していたので、様子を見に公都から離れたその場所へ向かうことにした。

 デールにとって卒業式はどうでもよく、エリーゼがドレスに着替え終わる頃までに戻るつもりで。




 魔界の亀裂の穴ができた森とは違う、遠く離れた地だった。

 邪気に覆われていたのは、片田舎の大きな屋敷。デールは上から見下ろすと、ゆっくりと屋根へと下りた。


 屋敷の天井からすり抜けて入れば、肖像画の飾られた一室に出る。

 散乱した部屋には誰も居ない。 肖像画を一瞬で修復すると、見覚えのある人物が描かれていた。


(なぜだ?)


 デールは首を傾げた。ここは、()()伯爵領の邸、イングリッドが追いやられた場所だったのだ。

 

 デールは導かれるように、邸内のより強く邪気を感じる場所へと飛ぶ。

 そこは、伯爵邸の今は使われていない地下牢だった。


(こいつが原因か……)


 古の召喚陣。


 愚かな人間は、些細なことから強くドス黒い負の感情に支配されることがある。邪気とは人の悪感情によって膨れ上がるもの。

 そして、ごく稀にその執念のような感情が、闇の力を引き出し、黒魔術を成功させてしまうのだ。


 現に、過去の黒魔術は成功していたらしい。


 魔法陣の周囲を一瞥すると、デールは埃まみれの走り書きの数々を手元に移動させ、内容を読む。


(――そういうことか)


 何代か前のボワイエ伯爵。悪魔を召喚した契約者の手記だった。


 三つの願いうちの一つ。


 悪魔によって手に入れたのは、偽の光属性の魔力だった。心の清らかさの足りない人間には、備わることのない力。

 それが、イングリッドのような者に受け継がれいること自体おかしかった。

 最初から、悪にまみれた力だったのだ。


 同じ悪魔と言えど、各々の契約者と交わされた願いは知ることは出来ない。

 だからこそ、イングリッドの偽の力にデールも気付けなかったのだ。


 走り書きに目を通して行くと、紛れていた姿絵を見つけた。

 微かだが残留する思念をデールは感じ取る。邪な執着。この人物を手に入れたかったのだろうと、容易に想像がついた。

 

(残りの願いは、こいつを手に入れる為のもの……)

 

 デールはポイッと姿絵を捨てた。


 古びて所々消えている召喚陣の横に、真似して描いたのだろう魔法陣が。消えた部分の再現に失敗したのか、未完成の状態だった。

 だが、偽の光属性――悪魔の力を受け継いだイングリッドは、魔界と繋がりやすい。


(さっさと消すか)


 デールがその失敗作を消し去ろうと屈むと、新たな魔法陣が下からパァッと浮き出る。


 失敗作が罠だと気付くのが遅かった。


 新しく現れた魔法陣から、同族である魔界の追っ手の力が放たれたのだ。召喚陣ではなかった。


 邪気の中に蠢く瘴気。追われる中で、覚えのある魔力の気配があった。デールが、竜の亀裂を埋めるために残してた自分の力の残骸が。

 

(しまった! これを辿られたのか!)

 

 デールを逃すまいと飛び出す無数の手。最初からデールを誘き出す為に、魔界の力を放ったのだ。

 過去にデールを閉じ込めた、魔界の檻が行手を阻む。


(このままじゃ……)


 エリーゼと過ごすことで蘇った力や記憶を奪われる訳にはいかなかった。

 デールは心の底からエリーゼを想う。

 すると、ブワリとデールの背から翼が生え、自分の中に悪魔に落ちる前の僅かな力が残っているのを感じた。


 そして、翼を大きく羽ばたかせ、羽根を使ってデール自身を覆う。


 ――それは、悪魔や魔族には手を出すことが不可能な物だった。

  


 

 ◇◇◇◇◇




「あら……籠ってしまったのですね」


 カツンと靴音を響かせ、やって来たイングリッド。黒い手は靄に戻ると、イングリッドの中へと入る。


『まあいい。此奴の契約者はわかっているのだ』

「ええ、エリーゼに間違いありませんわ」

『契約者が願えば、あの中から出るしかなくなる。そうすれば、我が奴の力を奪う』


 詳しくはわからないが、同じ悪魔で力を奪い合うのかと、イングリッドは可笑しくなる。

 そして、悪魔を召喚しなくとも、その力と繋がれる自分の能力にうっとりした。


「あの女が目の前で殺されたら、どんな顔をするのかしら?」


 どうせなら、エリーゼの味方をした者の前で、その姿を見せつけてやりたいと、イングリッドは楽しそうにフフッと笑った。


 一人で会話をしている異様な姿。それを見て騒いだ使用人達はもう居ない。


『いや、其奴には別の使い道がある』

「使い道?」

『我らが王を復活させる、竜のエサだからな』

「では、虫の息だけ残せばいいのですね」

『そうだ』


 ニンマリと口元を歪めたイングリッドは、そのまま邸から姿を消した。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ