表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/147

27. 攫われたのは

お読みいただきありがとうございます。

本日二話目の投稿です。



 エリーゼとラインハルトが一歩会場に踏み入れると、その場は響めき包まれる――なんて事態にはならなかった。


 会場に入る前に、エリーゼはさっさと自分の存在感を消しておいたのだ。

 ラインハルトも、一曲だけ踊れば十分だと言っていたのだから、当初の予定より早めに発動させても問題無いだろうと。


 両親譲りの容姿に加え、ユリウスが用意したドレス姿では目立つことこの上ないと、エリーゼ自身もわかっていた。何度も経験した人生あるからこそ、客観的に自分を見ることができる。

 けれど――。

 その妙に冷めた感覚が、恋愛の機微に疎くなってしまう原因でもあるのだが。

 


 楽団によって音楽が奏でられ、一曲ラインハルトとのダンスが踊り終わると、エリーゼは壁の方へと移動する。

  

 ラインハルトは同級生との交流があるだろうからと、エリーゼは邪魔にならないよう、用意された食事をおとなしく楽しむことにした。

 だが、すぐにラインハルトはエリーゼの所へやって来てしまう。


「もういいのですか?」

「ああ、十分だ」 


(やっぱり、あの件があとを引いているのね)


 特にパーティーを楽しむつもりも無いのか、ラインハルトに促され熱気のあった会場から外へ出る。


「何か飲み物を取ってこよう」


 エリーゼがベンチへ座ると、ラインハルトは飲み物を取りに会場へ戻っていく。

 主役である卒業生に気遣ってもらうのは気が引けたが、ラインハルトも外でゆっくりしたいと言うので素直に甘えた。


(少し寒いけど、気持ちいい)


 冷たい夜風が頬を撫でる。


 コルセットは苦しかったが、慣れてくればどうにかなるもので、食事も少しはできた。


(まあ、この苦しさも懐かしいかな。ダンスも踊ったしね)


 久しぶり……というか、エリーゼとして初めて履いたヒールのある靴は、さすがに靴擦れができてしまった。

 辺りを見まわし、こっそりと脱ぐ。

 ベンチの背凭(せもた)れを使い、コルセットで伸ばされた背筋をぐーっと反らせた。


(今日は月がよく見えるわ。紅くて綺麗……ん?)

 

 一瞬、紅い月の色を受け入れてしまいそうになるが、ハッと気付く。


(なんで月が()()の――)

 

 何かがおかしい。エリーゼは、慌てて体を起こす。

 その刹那、エリーゼの正面の景色が歪み、人の姿が現れた。


「まさか……」


『あら、エリーゼさん。身分もわきまえないドレスを着て、さぞ気分もいいのでしょうね?』


 真っ黒なドレスにかかる、プラチナブロンドの長い髪。可愛らしい顔立ちに、不自然さのある真っ赤な唇。


「なぜここに……?」


 居るべきではない人物。アンバランスな姿のイングリッドが立っていた。エリーゼは戸惑いに目を見開く。

 そんなエリーゼ向かって、イングリッドは楽しそうに近付いて来る。

 

 裸足のままエリーゼはベンチの後ろへと飛び退く。過去にもこの禍々しさを感じたことがあった。

 そう、デールと初めて会った時と同じ感覚。


(ううん……あの時よりもっと強い。彼女は――イングリッドだけど、イングリッドじゃないっ)


 エリーゼの中で警鐘が鳴る。


 腰に手を回し、帯剣していないことを後悔した。イングリッドを切るつもりはないが、取り巻く()()にマナソードは有効だったはず。

 

「デー……」


 仕方ないとデールを呼ぼうとして、エリーゼは躊躇した。アルの聖石を使って作った空間に、デールが入れなかったことを思い出す。


(この状況で、デールが現れないのはおかしい。アルの時とはどこか違う……)


 呼べばデールには届きそうだが、呼んではいけない気がした。エリーゼはキュッと口を結ぶ。


『嫌な人ね。相変わらず無駄に勘がいいのだから。さっさと()()を呼べばいいのに……』


 イングリッドの声は、性別不明の籠った声に変化していく。

 エリーゼは手首を隠すように反対の手でギュッと握った。

 だが、イングリッドは印の場所を知っているのか、片手でエリーゼの手を捻り上げ、反対の手でエリーゼの首を絞める。

 人とは思えない力で。


『ほら、早く起こすのだ……』


「……っく……」


 自由な手で、絞めてくるイングリッドの指を離そうとするが、びくともしない。


(起こすって、何を?)


 息が出来ず意識が持っていかれそうになるが、どうにか堪える。


『私の眼を見るがいい』


 言葉に導かれるように、イングリッドの瞳を凝視した。


 そこに見えたのは――。


「!? ……あ……なた、デールに何を……?」


『裏切りものには……それ相応の罰が必要だろう?』


 イングリッドはクックッと笑い出す。


『起こさぬのなら……お前を連れていくだけだ』


 次の瞬間、イングリッドから噴き出した魔力にエリーゼは巻き込まれていた。

 


 

 ◇◇◇◇◇




 両手にジュースを持って、会場を出たラインハルトは、異様な空気感に全身が粟立った。


 一人で待つエリーゼが心配になり、急いで戻るが……。遠目に見えたものは、ドレス姿の二人の女性。


(なんだ……喧嘩か?)


 女同士で揉み合っているのかと思ったら、首を絞められ木に押し付けられているのがエリーゼだと気付く。


「なっ!? エリーゼ!」


 持っていたグラスをガシャンと落とし、ラインハルトは駆け寄る。だが、すでに遅く――二人の姿は闇に消えた。


 ベンチの前に、エリーゼが履いていた靴だけが落ちている。


「今の、見間違いではない……」


 エリーゼの前に立っていた女。

 自分とよく似た髪色だった。ラインハルトは息が止まりそうになる。


 落ちていた靴を胸に抱え、青褪めた顔のまま無我夢中で走り出した――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ