24. ダンスパーティーのお誘い
「先輩が卒業しちゃうの寂しいね。せっかく仲良くなれたのに」
ブランシュは脱いだ服を軽くたたみながら、しみじみと言った。
一緒にランチをしたあの日から、ブランシュもラインハルトと自然と話せるようになったが、三年生はもうすぐ卒業。ブランシュは残念そうだ。
「あ……もう、そんな時期かぁ」
返事しながら、エリーゼはバサっと結っていた髪をほどき、汗をかいた頭皮をスッキリさせるようにワサワサと掻き上げる。
更衣室で、エリーゼとブランシュはおしゃべりしながら着替えていた。
女子は少ないので、スペースに余裕がありテーブルやソファーも置かれていて、ちょっとした休憩室みたいになっている。
やはり貴族の学校は、一つ一つの仕様が違うなとエリーゼは常々思う。
先に着替え終えたブランシュは、ソファーに座って長い足を組む。
「先輩はダンスパーティー、誰を誘うのかな……。って、まあ決まってるか!」
「ダンスパーティー?」
「え……まさか、エリーゼ知らないの?」
「ダンスパーティーはわかるわよ。平民には縁のないものだけどね」
「そういうことじゃなくて。卒業式の後、卒業生メインのダンスパーティーがあるのよ」
「え?」
カチャッと制服のペリースを留めるとブランシュの方を向く。
「その顔は、騎士学校にはそんなの無いと思っていたわね」と、ブランシュは見透かしたように言う。
図星を突かれ、エリーゼは「あはは………」と誤魔化す。正直、男女比が歴然としているこの学校には、そんな行事は無いと思っていた。
「まさか、また合同?」
「そうよ」
ブランシュは笑いながら、会場は魔法学園の大ホールで行うのだとエリーゼに教える。
「在校生はあまり関係ないけど、卒業生は強制参加よ。パートナーは卒業生同士でも、そうじゃなくても構わないの。外部の婚約者でもいいしね」
ダンスは貴族の嗜みということもあるが、この学校では平民でも知っておくべきことだと言う。
近衛騎士団や、国の主要騎士団に入るなら、そういった場での警備にあたることもあるからと。
「じゃあ、私も卒業までにダンス覚えなきゃなのね」
と、踊れないていでエリーゼは言う。
(ダンスは得意だったけど、今の私が踊れるのはおかしいものね)
「まあ、三年になれば補講でダンスは教えてもらえるはずよ。それじゃエリーゼには遅いかもしれないけど」
「なんでよ? 運動系ならすぐ覚えられるわよ」
「え……鈍感。まあ、すぐに分かるわよ……色々と邪魔も入りそうだけどね」
ブランシュはニヤニヤと意味深長な笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇
「エリーゼ、ちょっと話があるんだが……」
放課後の訓練後、エリーゼはラインハルトに呼び止められた。
「なんですか?」
汗を拭いながら、エリーゼはラインハルトに返事する。
「いや……ここじゃちょっと、な」
しどろもどろになるラインハルトに促され、訓練場から少し離れた場所までやって来た。
「エリーゼに頼みがあって」
「はい」
「その、なんだ……卒業のダンスパーティーのパートナーになってほしいのだが」
初対面でのグイグイさはどこへ行ったのか……と首を傾げたくなるほと、ラインハルトの声は小さい。
「先輩の婚約者は来られないのですか?」
「……は? 婚約者?」
「ええ。学校の後輩といっても、私と踊ったらお相手に悪くないですか?」
「ち、ちょっと待て。私はいつ婚約したんだ?」
「知りませんけど?」
「確かに兄には婚約者がいるが、私にはいない!」
「え!」
次男とはいえ、侯爵家の令息なら婚約者はいるだろうと思っていた。
(見た目も家柄も悪くないし、早計だが人となりを知れば結婚相手としては申し分なさそうだけど)
「おい。そんな同情するような目で見ないでくれるか? 私は、剣が恋人だからな!」
(どこかで聞いた言葉ね)
「でも、何で私なのですか? 平民ですよ?」
「この学校で身分なんて今更だ。いや……、本当はいつもパートナーはいたんだ」
「あ……」
ラインハルトは、いつもイングリッドのパートナーをしていたのかもしれないと思った。
「正直、ダンスパーティーには出たくないんだ。だが、そんな訳にもいかなくてな。エリーゼとなら、なんて言うか……」
「ああ、私となら訓練みたいなものですもんね!」
なるほどとエリーゼは納得する。
「え、いや違……」
「そういうことでしたら! 私で良ければパートナーやりますよ」
「……うん、そ、そうか。ならば、よろしく頼む。ドレスは」
「あ。ドレスはブランシュに借りられるようお願いするんで、心配しないでください」
ドレスは一枚も持っていない。
ユリウスに頼めば用意してもらえそうだが、滅多に着ない物にお金はかけたくなかった。
取り敢えずはブランシュに借りることにしておく。最悪、ブランシュがダメでも、デールに頼めば出してくれるだろうから問題はない。
「いや、せめてドレスは用意させてくれ」
「いえ。ドレスは剣以外の恋人ができたらプレゼントしてあげてください。私には着る機会は殆ど無いと思うので」
キッパリと断るエリーゼに、ラインハルトは小さく肩を落とすと、残念そうに頷いた。
◇◇◇◇◇
「全く気がついていないな」とデールは笑う。
「……ラインハルト先輩に同情するんだけど」
ブランシュは溜め息を吐く。
「まあ、相手はエリーゼだからな。簡単にいくものか」
エリーゼは自分のことには疎いから、当然な結果だと思いつつもアルの口元は緩む。
「そうなのよね! エリーゼったら、いつもは鋭いくせに変なところで鈍感ていうか……」
「エリーゼらしくていいじゃないか」とデールはクツクツ笑う。
木陰から覗くように見守っていた三人は、好き勝手に言っている。
「……でも、私のドレスじゃサイズ合わないわよ。子供の頃の物ならエリーゼも着れそうだけと、デザインが幼くなっちゃう」
「問題ない」とデール。
アルはチラリとデールを見た。
「あ、そうよね」
ブランシュは、エリーゼの後見人ともいえる存在が誰だか思い出し、ホッとする。
「じゃあ、ダンスは私が特訓するわ」
意気込むブランシュの背後で、デールとアルは静かに火花を散らした。




