表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/147

20. アルの知りたかったこと

 どれ程の攻防を繰り返したのだろうか――。


 魔法で造られた闘技場は、激しい魔力と剣のぶつかり合いで、見るも無惨な状態だった。

 エリーゼがアルの攻撃をよける度、石の壁には歪な穴が空き、床はひび割れて足場が悪くなる。


(アルの強さがここまでだなんて……以前とは別人だわ)


 エリーゼは言われた通りに、魔力も隠さず本気を出していた。

 けれど、アルの巨大な魔力はそれを遥か上をいく。まるで、人間の領域を超えているかのように。


(敵わない……)


 エリーゼがそう感じた矢先、踵が割れ目に引っ掛かりバランスを崩した。


 ガキンッ――!!


 と鈍い音。

 既の所で、マナが抜かれたアルの剣が、倒れたエリーゼの真横……ひび割れた石の床に突き刺さる。

 その衝撃で、弾かれた尖った破片がピッとアルの頬を掠めた。傷口から血が滲む。

 

 横になったエリーゼの真上。床に突き刺した剣を支えにした状態のまま、アルは身動きしない。

 真下のエリーゼを見ているアルの顔に掛かった髪。金色のままだが、瞳はヘーゼルに戻っている。


(私が負けたのに、どうしてそんな顔を……)


 アルは悔しそうな、今にも泣き出しそうな表情をしていた。


「……アル?」と、エリーゼは声に出す。


「なんでだ……」

「え?」

「何で、本気を出さないっ!」


 エリーゼは意味が分からない。わざと負ける理由なんてないのだから。寧ろどんな質問がされるのか心配なくらいだ。


「私はちゃんと本気でやったわ……。アルの方が実力があった。それだけよ?」


 正直な言葉。もう剣にマナを纏わす力は残っていなかった。


「嘘だ。エリーゼは、一度も黒いマナを出していない……」

「黒いマナ……あっ、あれは私の力じゃないから」


 デールの黒い(もや)のことを言っているのだと分かった。


「アルとの真剣勝負で、自分の力以外を使うのは卑怯だもの。アルだって、私と半端な戦いをしたくなくて――この場を用意したのでしょう?」


 剣術大会では、エリーゼは魔力を使えない。かと言って、アルも使わなければ八百長に思われる。

 多分だが、アルはエリーゼと本気で向き合いたかったのかもしれないと思った。たとえ負けて、自分の秘密を晒さないといけなくなったとしても。


「アルは、私に訊きたいことがあるんでしょ? ()()()()()()()何でも話すわ」


 両親や、デールについては話すつもりはない。

 エリーゼの言った真意を汲み取り、アルは頷いた。


「ただ……」

「ただ、何だ?」

「この体勢で、話すのはちょっと……」


 エリーゼに覆い被さるようにして、見詰めていたアルはハッとする。お互い、ボンッと顔が赤くなった。


 アルはエリーゼの上から飛び退き「す、すまない!」と謝る。


「そ、それでっ! 私に訊きたいことって?」


 んしょ、とエリーゼは起き上がりながら尋ねた。手首でキラリとブレスレットが光る。


「それ……。まだ、持っていたんだな……」


 質問と言うより、ただの呟き。


 アルが母だと思って人から貰ったブレスレットに似せて、お揃いになる様にデザインを頼んだ物。

 魔石は初の戦利品であり、喜ばしい物であったが。複雑な感情が入り混じり、アルはブレスレットから目を背けた。


「うん。あの時……穴を塞げたのはこれのおかげよ。母さまが、アルの魔石に光魔法を込めてくれたの。私や……私の大切な人たちを守れるように、って」


「大切な人……。俺も?」


「当たり前でしょ! だから、使ったの。投げ入れるかたちになっちゃって、申し訳ないとは思ったけど……あの時は他に方法が無かったから。不愉快になって当然よね……。ずっと、謝りたかったの。せっかくプレゼントしてくれたのに、ごめんなさい」


 エリーゼは頭を下げた。


「い、いや! 不愉快になってなんかいない!」とアルは慌てる。

 

「先に俺の魔力が尽きて、血を流したせいで事態は悪化したんだ。感謝こそすれ、エリーゼが謝る必要なんて無いからっ」


「え? 怒っていたから、私を避けたんじゃ?」


 アルは苦しそうな表情をすると、手を伸ばしエリーゼの頬にそっと触れる。僅かだが、その手は震えていた。


「そうじゃない……そうじゃ、ないんだ。早期卒業も、騎士学校で避けたのも、全部……俺に力が足りないから。エリーゼの隣に並べる、資格が欲しかった」


「力が足りない? どこが? それに、友達になるのに資格なんて要らないでしょ」と、エリーゼは本気で意味が分からない。

 

「なら、俺はエリーゼのそばに居てもいいのか?」

「当たり前でしょ? ()()だもの」


「友達……か」


 アルの瞳に急に熱がこもった。


 エリーゼがまさかと思った時には、アルの唇が触れそうなほど近くにあった。


 ――と、突然。空間がグニャリと歪む。


 アルは正気にかえったのか、エリーゼからパッと離れた。


(い、今のは!? もしかして、キ……)


 まるでエリーゼの全身が心臓になってしまったのように、ドドドと早鐘を打つ。

 けれど、ガラガラと崩れていく闘技場が目に入り、冷静さを取り戻す。


「もう、か。エリーゼ、タイムリミットみたいだ」

「ねえ、アルの訊きたかったことって……」


 結局、ブレスレットの誤解を解いただけで、何も答えていない。これでは、負けたくせにズルい気がした。


「じゃあ、一つだけ。エリーゼは、黒魔術を使ったことはあるか?」

「無いわ。誓ってもいい」


 黒魔術は禁忌だ。

 たまたま悪魔のデールと知り合い、契約者にはなったが、エリーゼ自身が黒魔術を使った訳ではない。 


「そうか」とアルは短く言う。


 その表情に、エリーゼは首を傾げた。


(アルは、もしかして――デールが悪魔だと知っている?)


 エリーゼがまばたきをすると景色は一変。転移前と同じ場所、学校の裏庭だった。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ