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19. 棄権

(そんなっ、……どうして!?)


 時間になっても現れない相手に、試合場の真ん中に立ち尽くすエリーゼ。


「不戦勝! 勝者、エリーゼ!」


 審判の声が響き渡ると、歓声と落胆が入り混じった観戦者の声が上がる。


 エリーゼの試合での姿はもちろん、公王弟であるユリウスが一目置いている存在であると皆が知った。

 そんなエリーゼと、もう一つのブロックで圧倒的な力を見せつけた、他国の王子アルフォンスとの戦いを楽しみにしていたのだろう。


 ――けれど、アルは試合を放棄したのだ。


 アルは自分と試合さえしたくないのかと、エリーゼは愕然とした。戸惑いを隠し、誰もいない場所に一礼し控え室へ戻る。


(確かに避けてはいたけど……授業では関わっていたのに)


 ふと、昨日の件でアルの名が出たのを思い出す。アルには直接的な関係も無く、解決もしていたが。


(アルに、何かあった……?)


 居ても立っても居られず、控え室で出欠担当していたクラスメイトの実行委員に声をかけた。アルが棄権した理由を聞くために。


 特に隠すでもなく、アルフォンスは体調不良で念のために棄権した……と残念そうに教えてくれた。


「プロイルセン国の第一王子が病弱だなんて、ただの噂だと思っていたんだけどな。あんな強いしさ……エリーゼとの対決、見たかったのにっ。あ、この話は内緒な!」


 バカ正直なクラスメイトは、喋りすぎたと去って行く。

 学校のお祭り行事に、他国の王子に無理などさせられないのはもっともだ。

 けれど、以前のアルに病弱さは見受けられなかった。やはり、エリーゼを避けただけかもしれないと思う。


(もしかしたら、会場のどこかにいるかしら?)


 本当に具合が悪いのなら、寮で寝ているはずだが。何となく、エリーゼはアルが近くに居るような気がしたのだ。

 

(そういえばデールの姿も無いわ)


 デールのことだから、出店で何か食べいるのかもしれないと思った。悪魔なのに、そういった食べ物が好きなのだ。だから、用事も無いのに呼び出すのは気が引けた。


(表彰式は最後の方だし……)


 華となるイベントだから、閉会式直前の時間帯。まだまだ、時間はある。

 そろそろ魔法学園の『白薔薇姫』も決定している頃だろう。

 優勝候補だったイングリッドは当然、棄権扱いになっているが……盛り下がるどころか、白熱しているらしい。控え室の端で、予想に盛り上がっている生徒が何人も居た。


(うーん。まぁ、ぷらぷら探せばいいか)


 エリーゼも、各クラスが運営する店を見て回ろうと思ったけれど、足は会場の反対……以前ラインハルトに呼び出された裏庭に向かっていた。


 誰もいないと思った場所には、先客が居た。スミレ色の髪をした、ルークの後ろ姿。


 ルークはエリーゼがやって来るのを知っていたかのように、振り向きながら「やあ」と笑顔を浮かべる。


「こんな場所で何をされているのですか?」とエリーゼは尋ねた。


「ここで蝶の魔道具が発見されたんだ。残骸は残っていなかったけどね」

「残骸、ですか?」

「そう、見事に粉々。僕が来た時には塵すら……ね」


(じゃあ、やっぱりあの時に。だとしたら、壊したのはデールね)


「エリーゼは、アルに会いに行きたいの?」

「……え?」

「大丈夫。僕らの周りには結界張ってあるから、誰にも聞かれないよ……たぶんね」

 

『たぶん』とは、例外の存在がいるかもと言いたいのかもしれない。

 デールはルークに気をつけろと言っていた。

 けれど、昨日のこともありルークから嫌な感じはしない。だから、正直に言ってみようと思った。


「はい。アルと会って、ちゃんと理由を訊きたいです」


 そう。今日の棄権も含め、エリーゼには尋ねたいことがある。


「そっか。エリーゼは素直で可愛いね……じゃあ叶えてあげる」


 ルークが近付いたかと思うと、エリーゼの足元に転移陣が現れた。


「僕も行きたいところだけど、アルに怒られちゃうからね」

  

 エリーゼの耳元で囁くとルークはすぐに離れ、「行ってらっしゃい」と手を振る。

 転移陣は起動し、エリーゼの姿は消えた。


「さて、と。僕は楽しい足止めの時間だ」


 ルークは視線を木の上に移し、枝に座って赤い目で見下ろすデールに笑顔を向けた。




 ◇◇◇◇◇

 



 気が付けば、エリーゼは見覚えのない場所に移動していた。


(ここは……闘技場?)


 訓練場とはまた違う、古代遺跡のような闘技場の真ん中にエリーゼは立っている。

 もちろん観戦者などはおらず、作られた魔法空間だと理解した。


「……エリーゼ」


 背後から、久しぶりに聞いた親しみを含んだアルの声。エリーゼは、ゆっくりと振り返る。


「――え?」


 その場に居たのは、金髪金眼のいつもと違う姿のアルだった。


「これが、本来の俺の姿だ」

「そうなの……派手ね」


 エリーゼが率直な感想を言うと、アルはフッと笑う。

 瞳が金になることは知っていたが、髪もとは正直少し驚いた。

 

「エリーゼは、俺に訊きたいことがあるんだろ?」とアルは言った。どうやったのか、アルはさっきのルークとの会話を聞いていたようだ。


 エリーゼはコクンと頷く。


「俺もある。だから……勝った方が負けた方の質問に答える。それで、どうだ?」

「わかった……」


 アルは何も無かった空間から、エリーゼと自分の前に剣を出す。


「手加減は無しだ」


 アルの言葉が合図のように、エリーゼとアルは同時に宙に浮いた剣を取ると、硬い床を蹴った――。


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