6. 深夜の会話
本日二話目の投稿です。
デールは、外に声が漏れないようにしてあるから、安心して話していいと言った。
「なんでガスパルが選んじゃダメなんだ?」
ガスパルの様な実力者の眼鏡に叶う学校なら、確実だとエリーゼ自身も充分わかっている。
「多分だけど……父さまはきっと、家から近い所を選ぶわ」
「すぐ帰って来られるし、いいじゃないか」
「良くないわ。母さまと父さまは、身分を隠しているのよ。もしも、私が学校で目立ってしまったら……」
「あー、エリーゼは二人に似ているからな」
万が一にも、ガスパルとアンジェリーヌを追っている者がいるのなら、エリーゼの出生を探るかもしれない。
かと言って、ガスパルはエリーゼの身を一番に考えて、ふさわしい学校を選ぶに決まっている。
それがエリーゼに重くのしかかっていた。
(自分のやりたいことの為に、家族を危険に晒すことはできないもの……)
特待生を目指すのだから手は抜けないし、目立つのは覚悟しなければならい。
だから、遠くの学校を選ぶつもりだったのだ。
(残念だけど、諦めるしかないかな)
エリーゼは、キュッと布団を掴んだ。
「デール、せっかく願いを叶えてもらったけど……」
「まあ、もともとエリーゼが女の子だと知っている者には、効きにくいからなぁ」
「近場だったら、使わないわよ。私が男だなんて噂が立ったら、父さまショック受けそうじゃない」
先日のやり取りを思い出して、デールとエリーゼは顔を見合わせた。
プッ……と、どちらともなく笑い出してしまう。
「ああ、まさかの衝撃的な姿だった!」
「ええ。私も父さまが涙もろいとは知らなかったわ」
「でも、アンジェは知っている様だったな」
デールはアンジェリーヌを略して呼ぶ。愛称でもなんでもなく、ただ長ったらしいのは面倒だからだと。ガスパルが聞いたら激怒するだろうが。
三十歳の父親と二十八歳の母親は、未だにラブラブなのだ。きっと、アンジェリーヌはガスパルのそんな所も好きなのだろう。
「母さまは、多少の事じゃ動じないからね。ま、人のこと言えないけど」
「そうだな」と妙に実感がこもった返事をするデール。
「少し話したらスッキリしたわ」
「そうか?」
「うん。悩んだところで変わらないもの。だったら、状況に合わせて次を考えればいいわ」
「いざとなったら、まだ願いは叶えられるから安心しとけ」
「そうね……でも、そこはまだまだ慎重に考えるわ」
「そうしろ」とデールは笑う。
エリーゼは、まだ言うつもりはないが――最後の願いは決まっていた。
「ねえ。デールって、人以外の姿にもなれるの?」
デールはエリーゼの言わんとしていることを察する。
「当然! 今夜はオレが癒やしてやるよ」
子供の姿のくせに色っぽく言ったデールは、ポンッと煙に包まれ消えた。
「え!?」
キョロキョロと姿を探していると、ズシッとお腹の上に重さを感じた。
「デール……!!」
白い布団の上には何と、黒い全身に顔には白い模様のはいったフェレットが乗っていた。
(いつか、ちょっとだけ変身してくれたらいいな、と思っただけだったのにっ……)
エリーゼは懐かしく愛らしいそれを抱き上げると、クンクンとニオイを嗅ぐ。
『わっ! バカ、近い! そんな場、嗅ぐな!』
「だって、フェレットってちょっと臭うのよ。デールは臭くないのね?」
『臭いのはオレが嫌だ!』
「あら、残念」
『それくらい我慢しろ……今夜は、一緒に寝てやるからさっ』
「ありがとう、デール」
チュッとエリーゼがキスをすると、デールは手から飛び降りサササッと布団へ潜って顔だけだした。
『お子様は寝る時間だ!』
(て……照れてるっ)
ふふっと笑ったエリーゼは、懐かしい家族と一緒にぐっすりと眠った。
◇◇◇◇◇
――その頃。
「ガスパル、まだ寝ないの?」
キッチンで、一人で晩酌しているガスパルにアンジェリーヌは声をかけた。
「アンジェ……すまない。起こしてしまったか?」
アンジェリーヌが眠ったのを確認して、ガスパルは布団から出てキッチンへやって来たのだ。
「ふふ。ガスパルのことだから、眠れないんじゃないかと思っていたわ。私も貰おうかしら?」
コップを手にアンジェリーヌはやって来ると、ちょこんとガスパルの膝の上に乗った。
そして、注がれたお酒を一口呑む。
「エリーゼが……まさか騎士になりたいなんてな」
「さすが私達の娘だと思わない?」
「……アンジェは騎士じゃないだろう?」
ガスパルがそう言うと、アンジェリーヌは「あら!」と言い返す。
「あなたが私の護衛騎士だったから出逢えたの。そして、こうして愛しい人と生きていられるのよ?」
アンジェリーヌは、見下ろすガスパルの頬に手を添えて微笑む。
「それは……まあ、そうだ」
「もしも、あなたが皇女で私が騎士だったとしても……きっと同じ結果だったわ」
「アンジェ……」
ガスパルは、アンジェリーヌのふわふわと美しい髪に顔を埋める。
「俺にドレスは似合わないだろうがな……」
「あら、私はそれでもあなたを愛すと思うわ」
アンジェリーヌを支えていたガスパルの腕に少し力が加わり、ぎゅっと抱きしめた。
「アンジェ、少し留守にしてもいいだろうか?」
「もしかして……?」
「あいつに会って来ようと思う」
「ええ、いいわ。いってらっしゃい。大丈夫、あなたが居ない間ちゃんと結界を張っておくから」
「ああ、頼んだぞ」
アンジェリーヌはガスパルの大きな背に腕を回し、抱きしめ返した。