13. 交流会前日の対面
「エントリー者はこちらへ!」
剣術大会の実行委員でもある生徒会の一年生が、大きな声で呼びかける。
明日から始まる交流会の準備日。
剣術大会参加者は、放課後に訓練場の外へと集められた。訓練場は会場設営でごった返しているので、邪魔にならないよう中には入らない。
今朝の登校時に引いたくじで、トーナメントの対戦相手が決められ、それが掲示板に貼り出されたのだ。
全学年が入りまじる、忖度一切なしの真剣勝負。喜ぶ者、ガックリしている者、様々だった。
一戦目から優勝候補と当たるのは、皆避けたいらしい。
優勝すると、魔法学園で行われる『魔法の技と令嬢としての美しさを競うコンテスト』の優勝者、『白薔薇姫』から月桂樹の花冠を貰えるのだ。
白い薔薇の花言葉は「純潔」「深い尊敬」。
もう一つの意味、「相思相愛」になぞらえてか、そこで恋が芽生える場合も多いらしく、どちらの生徒も婚約者のいない者は必死になるらしい。
エリーゼとデールにしてみたら、どうでもいい話だが。
「あ、デールとはブロックが離れちゃったね」
「そうだな」
「んー……私は、このまま進むと結構早くにラインハルト先輩に当たるわね。デールは?」
「最終的に……アルだな」
「そっか」
エリーゼは、集まった生徒をぐるっと見回すが、アルの姿はなかった。
(デールとアルの対戦、兵士学校以来よね。……デールはちゃんと戦うのかしら?)
以前はアルの剣術をわざと真似して、ギリギリ勝つようにしていたが。今回は、アルは魔法も使うだろうし、ルークの目もある。
デールの性格から、本気で勝ちに行くとも思えないが、果たしてアルにそれが通用するか。
(ま、デールなら心配いらないか、悪魔だし。それよりも……)
決勝戦は、ブロックで勝ち進んだ者同士の対決になるのだから、エリーゼとアルが残ればそこで対戦することになるだろう。
(私は、魔力を使わないのだから全力で行けばいい)
勝っても負けても、その方がスッキリする。
ユリウスも来賓としてやってくるだろう。後援してもらっているのだから、お祭りの一環でも成長を見てもらいたい。
(そういえば、私に多少魔力があるのは知っているのかしら?)
ルークが、オーラを確認して報告しているかは分からない。敢えて言ってはいないが、両親の知り合いなのだから、どちらだとしても不思議には思わないだろう。
「――それでは、確認頂けました方からお帰りいただいて結構です! 明日の集合時間は、開会式が終わったすぐ後になりますので、くれぐれも遅刻はしないようお願いします!」
実行委員の解散の合図で、皆一斉に動き出す。
すると
「エリーゼ! デール!」と声を掛けられる。
「ラインハルト先輩。同じブロックですね」
「ああ。どうせなら、違うブロックで最終戦で当たりたかったがな」
「勝つの前提なんですね」
「当たり前だろ? 去年の優勝者だからな!」
「え……そうなのですか?」
(全く知らなかった)
「へえ」とデールも適当に言う。
「お前ら……先輩を敬う気持ちって無いのか?」とラインハルトは嫌そうな顔をするが、怒っているわけではない。
最近、軽口をたたける仲になってきたのだ。
「まあいい。この後、時間あるか?」
「私達はありますけど、先輩は役員で忙しいのではないですか?」
「少しだけ、休憩時間を貰ってある。紹介したい者がいるんだが」
「もちろん大丈夫ですが。紹介って、どなたですか?」
「魔法学園に通っている私の従妹だ。彼女も学園の方の役員だから、打ち合わせの為にやって来る」
「従妹さん……」
エリーゼは以前耳にした、イングリッドという名を思い出した。
「多分、エリーゼとは前に……会ったことがあるかもしれないが」
「いいえ、魔法学園の生徒さんと面識はないです。訓練場の外に来ていた方なら、どことなくは見覚えがあるかもしれませんけれど」
エリーゼは首を横に振った。訓練場の黄色い歓声の方には、極力近付かないようにしているのだから。
「……そうか。やはり何か勘違いが……」ラインハルトは一人で納得した様な顔をする。
エリーゼとデールは何となく予想がつき、顔を見合わせた。
「いや何でもない。彼女は、白薔薇姫の最有力候補でもあるんだ。導線確認の実行委員と一緒に、会場を見ておきたいと言っていたからな。せっかくだから案内を頼みたい。女性同士なら、話も弾むだろ?」
「はは、そうですね」とエリーゼは答えておく。
(……女性同士ならって。侯爵家の人間なのに、社交界の凄まじさを知らないの?)
エリーゼの考えが分かったのか、『やっぱり、剣以外はポンコツだな』とデールは声に出さず毒づいた。
◇◇◇◇◇
掲示板の前から人集りが減った頃、魔術学園の生徒が数名やって来るのが見えた。
「イングリッド、こっちだ!」と、ラインハルトは笑顔で手を振って呼ぶ。
名前を聞いて、エリーゼはやはりかと思う。
やって来たイングリッドは、純情、可憐、清楚という言葉がピッタリの、守ってあげたくなるような美少女だった。
「ラインハルトお従兄様。お待たせして申し訳ありません」
「いや、そんなに待っていないから大丈夫だ。紹介しよう。先日話した私の後輩、エリーゼとデールだ」
「魔術学園一年生、イングリッド・ボワイエと申します」
平民相手とは思えない丁寧な挨拶。周囲からは、感嘆のため息が漏れる。
エリーゼとデールも挨拶をすると、イングリッドは輝くようなプラチナブロンドを揺らし、戸惑いの表情でコテリと首を傾げた。
「見事な青い髪ですね……。こちらの学校には、青い髪の方が多いのかしら?」
「いいえ。たぶん私だけだと思います」
エリーゼがラインハルトを見れば、「その通りだ」と頷く。
「そんな筈はっ……。わたくし、エリーゼさんではない青髪の方に――」
急に泣きそうな顔で青褪めるイングリッド。
「やはり、そう言うことか」とラインハルトは、イングリッドの肩を抱き心配するなと慰めた。
――すると、突然。
「誰かがエリーゼの振りをして、イングリッドに嫌がらせをしているらしい」
ラインハルトは名推理とばかりに、突拍子もないことを言い出したのだ。




