5. アルじゃなくてアルフォンス
アルは、隣国からの留学生として紹介されていた。
「アルフォンス・ プロイルセンです。よろしくお願いします」
教室がざわりとする。
名前から、プロイルセン国の王子であると、その場にいた全員が察したのだ。
「皆も知っている通り、この学校では身分は関係ありません。立派な騎士になるために、互いに刺激し合って良い関係を築いてください。いいですね」
「「「はい!」」」
担任の言葉に声を揃えて大きく返事した。声が小さいとやり直しさせられるのだ。
(アルはもう、王子であることを隠さないで大丈夫になったってこと? 幼い頃に匿った時も、平民の生徒と過ごした時も、身元がバレないようにしていたのに)
何の変化があったのか――。
エリーゼの記憶にあるアルとは、まるで別人の表情。もとより整った顔立ちが、更に精悍になっているせいなのか。
どこか冷たく、近寄りがたい雰囲気になっていた。初めて会った時よりもずっと……。
「では、アルフォンス君はあの席に」
「……はい」
担任が指示したのはエリーゼの隣だった。
無表情のアルは、エリーゼに向かって真っ直ぐ歩いてくる。すると、自然と目が合う。
「えっと。よろしくね、ア――」
「はじめまして」
小声で話しかけたエリーゼの言葉を遮るように、アルは冷たく言って顔を逸らした。
『アル』とは呼ばない方がいいだろうと、迷いつつ声をかけたのだが、その必要は無かったようだ。言葉は交わしたはずなのに、アルフォンスの態度はエリーゼを拒絶していた。
平民のフリをしていた過去を、秘密にするのは理解できる。ただ――
(アルに何があったんだろう……)
早期卒業もそうだったが、寂しさよりもエリーゼは心配になった。
◇◇◇◇◇
「ねえ! アルに何があったのか知っているんでしょ?」
エリーゼはデールを問い詰めていた。
屋根の上、デールはフェレット姿になり、エリーゼの隣に腹を出してコロンと横になった。
『まあな』
「また……言えないの?」
『いや。何が起こったのかは知っている。少し前にアルは魔力暴走を起こしたんだ』
デールは短い足を組みながら言うが……結局、上手くできなかったのか、諦めて大の字になる。
「魔力暴走って……どこで」
アルの魔力なら大事になっただろう。
無意識に抑えている普段とは、比べものにならない力が働いてしまうのだ。
実際、デールはその現場の跡を見て来たが、エリーゼには伝えるつもりはない。
チラリとデールはエリーゼを見た。
『アルは早期卒業してからずっと魔塔に居たから、そこでだろ』
「それって、魔力をコントロールするため?」
『さあな』
「アルは、魔力があるのを隠していたと思うけど。どうして魔塔へ行ったのかしら?」
エリーゼは、アルはてっきり自国へ帰ったのだと思っていた。
魔塔は学校とは真逆の場所にある。森から離れられたのは正解だったかもしれないが、目的が分からない。
まさか、この公国に残っていたとは想像もしていなかった。
(それに……)
アルは無詠唱で魔法を使えるくらい扱いに慣れていて、マナソードもすぐに扱えた。
(もっと上達したかったってこと? だからといって、急に居なくなるのは変だし。やっぱり、ちゃんと説明しなかったから……)
エリーゼは、手首のブレスレットを触る。アルの態度は、仲良くなった過去を否定しているかの様だった。
見かねたデールは口を開く。
『アルはエリーゼを守れるくらい、強くなりたかったんだろ』
「そうかしら……」
『魔力暴走の原因は他にあるからな』
「え、どういうこと?」
『アルは、王国に帰ってまた魔塔に戻った。それが原因で暴走を起こしたみたいだ』
デールが盗み聞いたのは、そんな内容だった。
「みたいだって……」
デールは悪魔だから、何でもお見通しなのだと思っていた。エリーゼの考えを察したデールは鼻で笑う。
『言っとくが、悪魔は全知全能の神じゃないからな。過去や未来を透視できるわけじゃない。ま、ある程度の範囲ならわかるけどな』
それに、単純な相手がいれば操って喋らせればいい。ガードが弱ければ意識を覗くことも出来る。
「……そうなんだ」
少し驚いた。デールが自分の能力について、真面目に話すとは。
いつもなら、適当におちゃらけて誤魔化すのに……と、エリーゼはまじまじとデールを見た。
それを感じたのか、デールはまた喋り出す。
『ルークは、アルの監視のためにやって来たんだ。アル自身も知っている。それが、エリーゼに関心持つとはな』
侮れない奴めとデールはぶつぶつ言う。
『一度、ルークの授業が休講になったろ?』
「うん、覚えてる」
『あれは、暴走を抑える結界に閉じ込められていたアルが、逃げたというか……居なくなったんだ』
「居なくなった?」
『理由はわからないが、また王国に行って戻ってきている』
エリーゼには、アルの行動が全然理解できない。
しいて言うなら、留学する為の手続きに必要だった何かがあって、取りに戻ったと考えられないだろうか。
今回は、王子として留学したのだから。
(アルの王子としての立場は、問題ないのかしら?)
とてもそうは見えなかったが。
もしかしたら、金の瞳について陛下に明かしたのかもしれない。だとすれば、王位継承権の順位はトップになっただろう。
(でも、なんか違う気がする)
本来なら関わるべきじゃない。向こうが拒絶するなら、その方が安全なのに。
お節介だとは思いつつも、エリーゼはアルに何が起こっているのか放っておけなくなっていた。




