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3. 過去か予知夢か

 清らかな青空が広がり、辺り一面を埋め尽くした花々は、天を求めるかのように伸びている。

 穏やかな優しい空間に誰かが立っていた。逆光で顔は見えない。

 眩しさの中、私は目を凝らした。


 ――突如。

 青空は一転し、空が怒ったかのように暗雲が垂れ込める。


 とてつもない不安に襲われた。

 立っていたはずの地面がバラバラと崩れて行き、花や土と一緒に目の前の人物は落下する。

 私に向かって伸ばされた手を掴もうと、必死で手を差し出すが虚しく空を切ってしまう。


 その姿はどんどんと、赤黒い闇へと呑まれて行く。


 泣けど叫べど自分の声が響くだけ。

 暗い闇の中、姿は見えなくなりつつも、金の瞳だけはしっかりと私を捉えて離さなかった。

 

 絶望的な状況。それでも渇望が上回る。


「絶対に………を、忘れたりしないわ。必ず、………を見つけてみせる」


 嗚咽混じりに呟くと、苦しい胸を抑える。涙で滲んだ世界が光を失った。

 


 ◇◇◇◇◇



 パチッとエリーゼは目を開く。


(今のは――夢)


 直ぐに自分の状況を理解すると、胸元で強く握っていた手を緩め、ふう……っと静かに息を吐いた。


 窓の外はまだ暗い。

 向かいのベッドでは、一学年上のルームメイトがスヤスヤと眠っている。


 一年生は、必ず上級生と組む部屋割りになっていた。騎士団に入れば、常に誰かしらと行動を共にしなければならない。礼儀も含め、学生のうちからそれに慣れておく必要ある。

 そのうち、野営や自炊の訓練も受けるが、先ずは生活からといったところだ。

 

 ルームメイト起こさないよう、衣擦れの音を立てないように、ゆっくりとベッドから起き上がる。

 椅子に座り、両手で顔を覆い鼓動を落ち着かせるように、ただただ時間が過ぎるのを待った。

 しばらくすると、落ち着いてくる。

 

(いつぶりだろう? エリーゼになってからからは初めてだわ)


 とてもリアルで、最初は夢か現実か分からなくて混乱したほどだ。


(この夢を見るようになる前は……)


 初めて取り戻した、転生する前の日本人としての記憶――そこが転生の始まりだと思っていた。

 何度も人生を繰り返しているが、大まかな事柄はだいたい覚えている。

 

(なのにね……。何度目の人生だったっけ)


 経験したことのない夢を見た。

 もちろん夢ならば、有り得ない内容だとしても不思議なことではない。古くから、夢占いだってあるのだから。


(けれど、これは……)


 夢というより断片的な記憶の様なものだった。毎回、恐ろしいほど心拍数が上がる。

 しかも、あの人物の顔や名前を思い出そうとすると、激しい頭痛も起こってくる。まるで、何か阻まれている様にだ。こうなると、過去の自分に関係しているとしか考えられなかった。


(夢は毎回、微妙に違う。さっきのシーンは、前に見た時の続きのようね……)


 エリーゼはぶるっと身震いした。汗をかいたせいか少し寒くなり、またベッドに入る。


 三つ目の願いに、デールに自分の知らない過去を教えてもらおうと思っていた。

 最後にすることで、後悔や未練が生まれるかもしれない。もっと早く知っていれば、と。

 それでも三つ目にするのは、過去を知った時点で……エリーゼではいられなくなってしまう気がしたからだ。

 目を閉じて、()()両親の顔を思い浮かべる。

 

(どの道、繰り返す転生を終わらせるのだから、全てを抱えて消滅するのも悪くないわ)


 過去に出会った、二度と会えない大切な人たち。会いたくて苦しくなることはあったが、今はもう受け入れられている。

 だから、あれ程の渇望が何なのかが理解できないのだ。


(金色の瞳……。そういえば、一度だけ見たアルの瞳も綺麗な金色だったわ。あの夢が過去でないなら、もしかして予知夢の可能性も……?)


 瞳の色をアルと重ね、そんな風に考えるもやはり違うと否定する。手を伸ばした時、ハラリと落ちた自分の髪はガスパル譲りの青ではなかった。


 あれこれ考えていると、少しだけ眠気が戻ってくる。


(アルにベンジャミン……元気かな……)


 いつの間にか、エリーゼは微睡んでいた。

 

 

 ◇◇◇◇◇



 ――翌日。


 エリーゼは寝不足の目を擦りながら授業を受けた。

 座学中、デールはそんな様子にすぐ気付く。


『眠れなかったのか?』

『うん……夢見が悪くて』

『だったらオレを呼べよ。散歩でも何でも付き合ってやるから』


 昨夜、エリーゼはデールにも悟られないようにしていたのだ。デールならいくらでも付き合ってくれると分かっていたのに。

 デールの言葉に、家にいた頃よく夜中に抜け出して特訓していたなと懐かしくなる。


『そうね、今度はお願いするかも』


 そう言いつつも、あの夢の時はきっと誰にも会えない気がした。気持ち的に。


 そして授業の終わりぎわ。担任から魔法学の教師として、隣の学園からやって来たという新しい先生を紹介された。


「明日から魔術の授業を担当する、ルーク・フォスターです。どうぞ皆さん、ルーク先生と呼んでくださいね」


 スミレの花を思わせる髪色に、甘く懐っこそうな童顔の教師。教師のローブを着ていなければ、生徒にしか見えない。


(あの顔じゃ、ファンクラブでもあったんじゃないかしら……)


 隣の学園と聞き、デールへの熱狂ぶりが凄い女生徒たちを思い出す。何気なくデールの座る方を見た。


(ん?)


 一瞬、デールが不敵な笑みを浮かべ、ルークを睨んだ気がした。


『どうしたの?』と尋ねるが『いや……』とだけしか答えは返って来ない。  


 変だなと首を傾げつつ教壇に視線を戻すと、ルークがニコニコとエリーゼを見詰めていた。

 まるで、面白いものでも観察するかのように。

 



 

 


 

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