1. アルの行方
だいぶ期間が空いてしまいました。
すみませんm(__)m
第二章よろしくお願いいたします。
「ルーク……! 何故それを報告前にアルフォンスに伝えたっ!」
ユリウスは執務室の机にドンッと拳を落とした。
『いや、だって。知っていると思っていたから……』
バツが悪そうに、首をすくめたルークは言う。
普通であれば――公王弟であるヴィルヘルム・ユリウス・エグゼヴァルドに対する無礼なこの口調は不敬罪に値するが、魔塔のアルフォンスの師となったルークには許されていた。
三十歳にも満たないルークは、魔塔主よりも優れた能力を持っている。
だが、最年少で魔塔へ入ったとはいえ、ルークの欲は自身の魔法の研究に没頭したいだけ。国や地位には全く執着しない性格だ。
ルークの存在は公国に必要だが、ルークにとってはユリウスが……恩人のユリウスが出す条件と人柄が気に入っているから国に留まっているだけと言える。
つまり、ルークが感じる魅力がなければ、さっさとこの国を出て行くだろう――それが容易くできる程の実力があるのだ。
だからこそユリウスは、身分を気にせず純粋に魔法を教えられるルークにアルフォンスを任せた。定期的な報告も含めて。
ルーク自身も、アルフォンスの持つ魔力に興味を示していたので丁度よかった。
(――何かがおかしいと思った時点で報告すべきだろうが!)
今度は口に出さず、ユリウスは掴んだ報告書を握り、通信魔道具から実体化しているルークを睨んだ。
『だってさ、最初にアルに会った時からわかっていたから、殿下も知っていると思ったんだよ〜』
確かに、ユリウスはアルフォンスが隣国の王子であるとルークには伝えていたが――。
『プロイルセン国っていえば、竜の血を引く国だし。オーラは嘘をつかない。それにアルは王子だから、普通に純血だと思うじゃないか……なのに違ったなんてさぁ』
十代の少年に間違えられそうなルークの童顔が、しょんぼりと眉を下げる。
(――私のミスだ。ルークには、アルフォンスの事情を全て伝えておくべきだった)
「確かに、な」
顰めた眉間に手を当てながら、ユリウスは言った。
『側室の母親が心配だって言うからさ……。王妃の間違いだろって』
ルークの能力の一つ、他人のオーラが見える。魔量や属性が判断ができるのだ。それは戦いにおいて、大きな力となる。
欠点として、ルークは自我が強い。特に、魔法や研究に関しては絶対に折れないし、ましてや空気を読むわけがない。
「……で、正直に言ったのか?」
『うん。どう考えても、王家の血筋じゃない側室からアルは生まれない。王と……薄くなっているとはいえ、直系の血筋の王妃からしか生まれないオーラの色だってね』
ユリウスはますます眉根を寄せる。
(まさか、アルフォンスが正妃の子供だったとは……。同時に産まれたわけでもないし、そもそも宮も別だろう。取り違えなどおこるはずはない……となれば、故意か――)
アルフォンスを内密に公国へ送ったのは、父親である国王だ。学生時代に交流があった公王に直々に頼み、友好国としていくつか出した条件のもと交わした契約だった。
正妃から側室の子を守る為、のちに王太子とする第二王子の剣になるよう育ててほしいと。
(兄上に、あの国王が嘘をついたとは思えない。ならば、子供を入れ替えることが可能なのは――)
ユリウスはバサっと報告書を投げるように置くと、背もたれに体を預け天井を仰ぐ。
しばらく、そのままの体勢でいると
『殿下……?』
ルークは心配そうに呼びかけた。
『アルの黒髪、誰かがかけた変装用の魔法だよね?』
「な……んだと!?」
ユリウスにすら気付かせない王国の魔術師。
(そいつが手を貸したのか……唆したのか)
王家の事情にユリウスが首を突っ込む必要はないが、友好国が悪い方へ変われば、公国に悪影響がでないとも限らない。
(ならば、こちらも慎重に動かなければ)
「アルフォンスが魔塔を出てからどのくらい経った?」
『いつもの時間に来なかったので、半日くらい……かな』
「アルフォンスは戻るのか?」
『うん、それは絶対。母親の……えっと、正妃と側室の髪の毛を取りに行ったはずだから』
ルークの最近の研究で、体の組織を分析し自身のルーツを明確にする魔術。オーラが見えなくとも、自分の血縁を辿ることができるようになった。
アルフォンスも最終段階で助手として携わり、有効性を知っている。
(……真実を確かめるつもりか)
アルフォンスに魔力があることを隠すように言った人物――。
それを知った時、アルフォンスの心がどうなるか。
「ルーク、アルフォンスの今の実力は?」
『うーん。能力でいえば三番目かな。僕、魔塔主、アルの順。力はあるけど、主のじいさんのが狡賢い』
「つまり、魔法使いとしては十分か……」
『だね。僕にはまだまだ及ばないけど』
ユリウスは、菫色の髪を揺らしヘラッと笑う公国最強の魔術師に苦笑する。
(たった二年でそこまで育てるとは)
覚悟を持って、魔法を教えてほしいとユリウスに訴えたアルフォンスも、必死でルークについて行ったのだろう。
「イザック」
「はい、殿下」
エリーゼの卒業と同時に、学校長を辞したイザックはユリウスの執事に戻っていた。
引き出しから書類をだしたユリウスは、サラサラと滑らかにペンを動かす。最後にサインをするとイザックに差し出した。
「アルフォンスを騎士学校へ編入させる」
「エリーゼ様と同じ学年ですね」
ユリウスは頷く。
「ルーク、アルフォンスが魔塔へ戻り次第イザックのもとに送れ」
『はい。あ、でも先に結果を出すようですよね? それが終わってからですか?』
「いや、その前だ。騎士学校へ入ることを伝えてから結果だ」
先に結果を知ったら、アルフォンスは暴走するかもしれない。
隠していくつもりだった魔力を使えるようになりたいと望んだのは、エリーゼがきっかけだとユリウスは踏んでいる。
(絶対とは言い切れないが……だが)
エリーゼの存在がアルフォンスの救いの道になるかもしれない。
ユリウスは一縷の望みをエリーゼに託すことにした。




