27. お買い物
――ジューッ、ジューッ……
串に刺された肉から滴る油が炭に落ち、香ばしい煙を立ち上げる。
それを、黙って見つめる三人。
「ほら、焼き上がったぞ!」
エリーゼとデール、ベンジャミンは、代金と引き換えに熱々の串焼きを受け取った。
「ぐはぁっ!! うまそうっ」
「だなっ!」
言うが早いか、ベンジャミンとデールは大口を開けてかぶりつく。
「ウマッ! アチッ!」
「でもウマッ!」
「なにそれっ!」
熱いのにがっつく二人に、エリーゼはクスクス笑う。
さっきも、豚油で揚げた芋串を急いで食べて、舌を火傷したばかりだというのに。
エリーゼは、ふう〜ふう〜と冷ましてから口に入れる。
「うわっ、美味しい!」
「「だろ!!」」
間髪入れず、二人は自分たちで作ったかのように、自慢げに言った。そして、おかわりを店主に注文する。
「ひと通り食べたから、エリーが気になるって言ってた露店を見に行こうぜ!」
完全にガイドと化しているベンジャミン。両手の串焼きを頬張りながら、そう提案した。
(あ、覚えていたんだ)
「うん!」と嬉しそうに、エリーゼは頷く。
祭り会場の広場に入った時に見かけた露店。
並んだ商品の横、看板の代わりか小さな木の板に剣のマークが彫られていた店だ。
ペーパーナイフみたいな飾り用の小さな短剣や、アクセサリーのような物がちらっと見えた。
エリーゼは少し気になっていたのだが、朝食を抜いてきたデールとベンジャミンに、先に寄りたいとは言えなかった。店は逃げないし、帰りでもいいかと通り過ぎた。
特に目的の商品があったわけではないので、ちらりと見られたらいいくらいにエリーゼは思っただけだ。
お腹を空かせた子供のような二人に、お預けはかわいそうだから、あとで少しだけ寄りたいと伝えておいた。
「で、小腹が空いたら、締めにデザートなっ!」
「おう!」
(……うん、ただの腹ごなしなのね)
頭には食べ物しかないベンジャミンとデールに、若干残念な視線を向けた。
「あっ! あそこじゃないか?」
「うん、ちょっと先に見てくる。食べ終わったら来て」
そう言うと、まだ手に串焼きが残っている二人を置いて、エリーゼは先に走っていった。
「いらっしゃい」と、そばかすのある薄茶色の瞳の青年が、エリーゼに愛想よく声をかける。
「いろいろあるんですね」と、エリーゼは可愛い細工を眺めた。
「お嬢さんには、こんなのどうかな?」
「………え!?」
服装は普通の少年のようにしてきたし、デールの力も解いていない。なのに、女の子だと思われたことに驚いて、ガバッと顔を上げた。
「ん? え、あれ、男の子? ご、ごめんね!」
青年は、手に蝶の細工がされた物を持ったまま、慌てて謝る。ちゃんと認識阻害が効いていることに安堵すると、エリーゼは笑みを返す。
「大丈夫ですよ。よく間違えられるんで。それ、見てもいいですか?」
「うん、でもこれ髪飾りなんだ」
「あ、本当だ。綺麗……ですね」
羽の部分が透けているかのように見える。特殊な加工をされているのか、はるか昔に見た螺鈿細工のようだった。
細かく丁寧な細工を施されたそれは、裏を見ると髪留めになっていた。
大きなジュエリーショップに置いてあったら、それなりの値段がしそうだ。
「君の髪に似合いそうだと思って。ああっ、ごめんね、男の子じゃそんなこと言われても困るよねっ」
「これって、お兄さんが作ったんですか?」
「うん、そうだよ」
ボサボサの髪にぽやっとした雰囲気の青年だが、相当な感性の持ち主なのかもしれない。
「まあ、趣味みたいなものだけど……親方が、せっかくだから売ってこいって。本当はあっちが専門なんだけど、まだまだで」
と照れくさそうに剣のマークを指さした。
もしかしたら、その親方は青年の才能を見抜いていて、露店を任せたのかもしれないとエリーゼは思った。
「おっ! 何だそれ!」
「へえ、なかなかだな」
すっかり食べ終わった、ベンジャミンとデールがやって来ると、エリーゼの手にある蝶の髪飾りを覗き込む。
「綺麗だよね。ここにあるもの、このお兄さんが作ったんだって」
「で、エリーはそれ買うのか?」とベンジャミン。
「何ならオレが買ってやろうか」とデール。
「え、いや、いいよ! 髪留めだから必要ないし」
ちょっと後ろ髪を引かれるが、ここで髪留めを買ったらベンジャミンに変に思われそうで慌てて断る。
とりあえず何も買わないと悪い気がして、エリーゼは他に気になった剣を模したペーパーナイフを一つ買った。どことなく、ガスパルの剣に似ていたからだ。
「あ! あれ、アルじゃね?」
ベンジャミンの視線の先には、アルがきょろきょろしながら祭り会場に入ってくるところだった。
「そういやアルの奴も、朝から何も食べてないんじゃないか?」
「え!? そうなの?」
「きっと、腹減ってるぞ。じゃあ、さっきの串焼き屋に戻って、それからあっちのフルーツ飴で締めるか!」
ベンジャミンは、さまざまなカットフルーツを飴で包んだ菓子が並ぶ屋台を見た。
「あ! でも、そろそろ馬車の時間だから、エリーとデールでアルを串焼き屋に連れて行ってくれ! おれは飴を買ってくる!」
「ベンジャミン……どうしても、あれ食べたいんだね」
エリーゼ自身も、懐かしいリンゴ飴には惹かれるが。
「当たり前だろ! 最後は甘いものと決まってる」
なぜか胸を張るベンジャミンに、エリーゼは苦笑しつつ自分たちの分も頼むと、アルと合流し串焼き屋に向かう。
それを見送ったベンジャミンは、クルッと振り返るとさっきの蝶の髪飾りを手に取り、青年に声をかけた。
「これください」
「え?」
「プレゼント用に」
ベンジャミンは小声でそう言うと、自信作が売れて嬉しそうな青年から受け取る。腰に下げた巾着袋にそっとしまい、それから甘い香りの屋台へ向かった。
◇◇◇◇◇
ずいぶん離れた位置からベンジャミンの方を向かず様子を見ていたデールは、『ふーん』と声を出さずに呟く。
「デール、どうかした?」
振り返ったエリーゼは声をかける。
「いや、なんでもない」
そして、デールは何事もなかったように、スキップしながらエリーゼとアルについて行った。




