19. 男の友情?
次の対戦相手を探そうにも、開始早々だったため、まだ他に終わった者は居なかった。
教師によるチェックも、試験というわけではないので、エリーゼ達が終えたことに気付いていない。
というより、皆の視線は別の場所に集まっていた。
剣を合わせつも、チラチラと横目で見る者。完全に動きを止めて食い入る様に見る者。二人の教師に至っては、仲良く並んで真剣に見入っていた。
これまで、アルには本気でやり合える生徒がいなかった。そんなアルの、初めて見せる実力。
デールもまた――。
エリーゼに合わせ、他の生徒よりちょっとだけ強い生徒……。そんな立ち位置をとってきたのに、アルと対等にやりあっているのだから、驚かれるのも当然だ。
近付けば、激しくぶつかり合う木剣の音が、より一層大きく響いてきた。
どちらも一歩も譲らない攻防。皆、固唾を呑んで見守っている。その、少し出来つつある輪の中にエリーゼも入った。
(う……デールったら。本当にアルの太刀筋を真似しているわ)
エリーゼは頭が痛くなってきた。
あれだけ自主練をのぞいていたのだから、アルの癖など把握済み。アルの担任ですらまだ見たことのないそれを、デールはよく知っているのだ。そうでなくとも、悪魔にとったら完コピなど余裕だろう。
(でも、アルの真似をしてどうするのかしら?)
勝敗が決まらなければ終わらない。授業なのだから、時間がくれば教師からストップがかかるだろうが……それまで続けるのか、エリーゼは疑問に首を傾げた。
しばらく観戦していると、エリーゼにヘコヘコとついて来た生徒が、隣で真っ青になっている。自分が、どんな相手を陥れようとしたのか、漸く理解したのだろう。歯がカタカタと音を立てていた。
(……ん?)
何気なく視線を戻すと、デールの口元が動いた気がした。すると、カッ――とアルの顔が高揚し、剣撃が強くなる。
(デールったら、煽ったのね)
エリーゼはため息を吐く。
すると、白熱した対戦に、観戦していた生徒達から声援が飛び出し始めた。アルはアルのクラスメイトが。デールにはもちろんエリーゼのクラスメイト。教師まで夢中になっている。
やれやれと思ったところで、エリーゼはハッとする。
(え。このままだと、特待生がアルとデールになってしまうんじゃ……)
サー……とエリーゼまで青くなると、頭にデールの声が響く。
『終わりにするぞ』
次の瞬間、デールはアルの真似を止め、カーーンッと小気味よい高い音と共に、アルの剣を打ち上げた。
―――シーン……。
静寂が広がるとすぐに、教師が慌てて声をかける。
「勝者、デール!」
うわぁーー……と、クラスメイト達が二人に集まり健闘を讃え出した。
思いのほか、負けたのにスッキリとした表情のアルは、デールに手を差し出しす。
「次は絶対に負けない」
「……オレもだ」
固く握手する二人に、拍手が巻き起こった。まるで青春の1ページ。
感動にエリーゼもウルッ………とは、残念ながらならなかった。
(これ、なんなのかしら?)
デールには違う意図がある。そんな風にエリーゼは感じていた。
◇◇◇◇◇
――その後。
授業は通常に戻ったが、生徒達の興奮は冷めないまま一日が終わった。
「ちょっと、デール。あれは……どういうつもりだったの?」
ベッドでコロコロ回転しているデールに、エリーゼはじとりとした目を向ける。
『え、何が? アルに合わせてやっただけだぞ』
(うっ)
目を細めて笑う、可愛いフェレット姿に誤魔化されそうになるが、ぶんぶんと顔を横に振る。
「嘘よ」
『嘘って……心外だなぁ』
「誤魔化さないで。途中で、アルに何て言ったの?」
『ああ、見えてたのか』
「見えたわよ」
ぷりぷりしたエリーゼは、デールの脇を両手で抱えて視線を合わせた。
デールはそんなエリーゼを面白がっているのか、ビヨーンと伸びた足と尻尾をぷらぷら揺らす。
『少し煽って、本気を出させただけだ。で、人間の友情ってやつを作ってみた』
「は? 作る?」
『そっ。最後、いい感じだっただろ?』
「待って。じゃあ、わざわざアルの真似は?」
『アルの弱点を教えてやっただけだ。あの時、オレにできた隙は、アル自身にできる隙だからな』
(本当にデールは親切心で……んんん? 契約者でもないのに?)
「でも、何か変だったわ」
何かがしっくりこない。
(確かに青春もので、本気の喧嘩して友情が芽生えるとかあったけど。煽りから突然友情なんて。それに、デールは悪魔。そんな青春ストーリーなんて知らないはず……)
「ねぇ、何て煽ったの?」
『う……ん?』
エリーゼに見詰められたデールは、チラッと視線を逸らした。
「誤魔化さないでね。じゃないと、デールを嫌いになっちゃうから」
『えっ!?』
デールはビクッと、小さな耳を後ろに倒した。
『なっ、本当に嫌いになるのか!?』
「私、嘘つかれるのって嫌いなの。デールは特別なんだもの。ちゃんとした信頼関係でありたいわ」
『特別……。まあ、そうだな……オレたちは特別な仲だしな』
ヒゲをひくつかせ、ヘヘッとデールは笑う。
「で、何て言ったの?」
『魔物を倒したことのない奴にオレは倒せない。もちろん、エリーもな。って言った』
「は、魔物? それじゃ、私たちが魔物を倒したことあるみたいじゃない!」
『倒してるだろ』
デールの言葉にエリーゼはジロリと睨む。
『えっと……そうだ、言葉の綾だ。まさか、本当に倒したとは思ってないさ』
「………。で、なんでそれで友情が?」
スルッとデールはエリーゼの手から抜けると、ポンッと悪魔の姿にもどり浮遊する。
「そんなのは、いつものことだろ?」
「まさか、意識操作……」
「そっ」
「だったら、最初から煽る必要ないじゃ――ま、まさかっ」
デールは美しく口角を上げると、不意に窓の外を見た。
「おっ。アルはもう動きだしたな。エリーゼ、アルの訓練見に行くぞ」
「―――!?」
そう言われた時には、エリーゼはもう夜空に浮かんでいた。




