18. 合同練習
目の前で剣を構えるアルの真剣さ……その、静かだけれど内に秘めた気迫に、エリーゼは少しだけ戸惑っていた。
あれからアルは、あからさまにエリーゼを避けていた。変に関わるより好都合だと、エリーゼもまたアルに近付かないようにしていたのだが。
『――合同練習の授業でもあったら、ちゃんと相手になるよ』
エリーゼがアルに向かって言った言葉を思い出す。
(あー、余計なこと言わなきゃよかった)
まさか、間合いに入らせなかったくらいで、こんな風な表情をされるとは思わなかったのだ。エリーゼにとっては、些細なことだったが、アルには違ったのかもしれない。
デール曰く、自主練も相当な気迫でやっていたらしい。また、うっかり見つかったらと、エリーゼは見に行くのをやめていたのだが……。
(本気でやらなきゃかしら? この分じゃ、手を抜いたらきっと怒りそうだわ)
完全にアルの視線にロックオンされていた。
◇◇◇◇◇
――もうすぐ、一学年が終わろうとしていた。
八クラスあった一年生も、クラスによって違いはあれど、トータルの人数で言えば半分になってしまった。この分だと、二年になれば四クラスにまとめられる。
情報通のクラスメイトの話だと、成績順にクラス編成されてしまうらしい。カリキュラムもそれなりに変わるのだとか。
そのせいか、最下位のクラスは避けたいという風潮が出てきている。
そんな矢先、教師陣で決められた他クラスとの組み合わせで、校外で合同訓練をすると担任から伝えられた。
どうやら、人数の近いクラスで決めたということらしいが、完全にクラス編成に関わるものだろう。
そして、初っ端からエリーゼのクラスは、アルのクラスと当たってしまった。
「各々、別のクラスの者と対戦するように!」
「「「はいっ!」」」
担任の声が合図となり、それぞれが対戦相手を選び出す。
アルの噂は皆知っていた為、興味はあるけれど、遠目では見るが近付かない。
年度末の今、成績に響く惨敗は避けたいのは皆同じ。程よく対戦し、自身の成果を発揮できる相手を探す……そんな状況だった。
ベンジャミンですら、アルをチラチラ見つつ迷っているくらいだ。
だが、当然アルは、エリーゼしか目に入らないといった感じで真っ直ぐに歩いてくる。
(あ。やっぱり、そうなるよねぇ……)
デールは楽しそうに、エリーゼの肩に手をポンと置く。
「まあ、程々にぶちのめしたらいいんじゃないか?」
そっと顔を近付け耳打ちするデールに、はは……っとエリーゼは乾いた笑いがでてしまう。
すると、エリーゼの実力を見たことのない、隣のクラスの生徒たちはザワザワとし出す。
見た目が可憐な少女のようなエリー。同情と、心配そうな視線が注がれた。
逆にエリーゼのクラスメイトは妥当だと頷き合う。アルに対抗できるのは、エリーかデール以外考えられない。
ただ、ふとした時にデールの存在を忘れてしまうことが、クラスの中で時々起こる。もちろんデール自身の仕業だが。
「俺と組め」
アルは正面で剣を構え、有無を言わさない表情だった。
威圧的なアルの物言いに、思わずベンジャミンが飛び出す。
「お、おいっ、アルどうしたんだよ?」
「どうもしない」とアルは前を見据えたまま返事をする。
「本気でかかってこい! ……デール!」
「わかっ……ん? は、デール?」
エリーゼは、きょとんとする。
どう見ても、アルはエリーを見据えているし、剣もエリーの肩を指している。デールの手が乗った肩を……。
「「――んっ??」」
デールとベンジャミン、クラスメイトもポカン。
その一言で、アルのクラスメイトは「そりゃそうだよな」と納得している。
『あははっ! ……まさか。そうか、こう来るかっ』
デールの楽しそうな笑い声が、エリーゼの頭に届く。
『ちょ、ちょっと。本気でやらないでよ』
『わかってるって。あー、そうだな。じゃあ、アル自身の能力の再現といくか』
『それじゃ、決着つかないじゃないっ!』
『まあ、任せとけって』
肩から手を離すと、ポンポンッとこれ見よがしにエリーゼの頭を軽くなでる。
一瞬、周囲に「えっ!?」と変な空気が流れた。
「デール、さっさとその手で剣を取れ!」
苛立ちを含んだアルに動じず、デールはのんびり腰の剣を手に取った。
◇◇◇◇◇
「始めっ!」
教師の号令がかかると同時に、エリーゼは自分の相手の生徒の――隙だらけの場所に剣を軽く打ち込むと、最後に脇に一撃くらわせる。
「クハッ!」と、その生徒は膝をついた。
「それで、何だったかな?」
「………な、なんでもないです、すみません……」
以前、アルを校舎裏に呼び出した生徒は、自分よりだいぶ小柄なエリーに見下ろされている。
「ま、参りました」
「じゃあ、君の舎弟になる必要はないよね?」
「も、もちろんですっ」
エリーゼはちょこんと座ると、その生徒にニコリと微笑む。
「んー、余計なことかもしれないけど。相手をバカにする前に、相手の力量を把握できるくらい、研鑽しなさいよね。……じゃないと、命いくつあっても足りないよ」
「は、はい! 研鑽、がんばりますっ!」
平身低頭して許しを乞う生徒は、アルとデールが離れた瞬間、エリーゼの元にやって来た。
さっきのやり取りを見ていて、アルがエリーに興味を持っていると思ったのだ。そして、エリーを使ってアルに仕返しを考えたのだろう。
(まったく、懲りないわね)
だから、少しだけお灸を据えてあげた。
もう少し、謙虚さと見る目を養えれば、いい策士になれるかもしれない。そんな感じがしたのだ。
なんだかんだ学校も辞めずに頑張っているし、剣の素質も無いわけじゃない。
(あとは、努力次第かな……)
先に一戦終えたエリーゼは立ち上がると、アルとデールの方へ足を向ける。
(それにしても……なんで、アルはデールと組みたかったのかな?)
エリーゼはコテリと首を傾げた。




