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8. 過去の告白と頼みの綱

「エリー。デ……ラニアはどうしたんだ?」


 ティータイムに、エリーの宮にやって来たアルが尋ねた。エリーゼが答える前に、給仕していたミラベルがきょとんとする。

 それを見たアルはすぐに状況を察し「いや、何でもない」と言って、ミラベルを下がらせ遮音結界を張った。


 二人だけになると、穏やかなエリーの表情を消したエリーゼが話し始めた。


「デールは、ラニアの存在を消したみたいなの。もう三日になるわ」

「ああ、だからか」


 アルは納得したように、準備されたお茶に口をつけた。

 気ままに自身の存在を消して、色々と動くのを知っているせいか、いつものことだと思ったようだ。


「ちょっと神殿を探るって……」

「あの神殿の者が逃げたせいだろう」

「やっぱり誰かが手引きを?」


 首肯したアルは、じっとエリーゼを見る。


「それしか考えられないからな。だが、デールと一緒に牢を確認した時に、少し様子がおかしかった」

「逃げた状況がってこと?」

「いや、デールの様子がだ。地下牢には常に騎士が配置されていたし、鍵が開けられた形跡もない。逃げるなら転移が使える魔術師が関わったと考えたが……そうではなさそうだ。たぶん、デールは何かを知っている」

「……そう」


 エリーゼはティーカップに視線を落とす。


「エリーゼ。俺は……デールと違って、頼りにならないか?」


「そんなこと!」とエリーゼは顔を上げた。


「王妃陛下とエリーゼが、俺を神殿から守る方法を探しているのは知っている。だが、俺はもう誰かに守られて生きる気はない。王太子になったのは、()()()()()なってほしくなさそうだったからだ。戦うなら、俺自身がやる」

「アル……」


 デールの行動は、全てエリーゼに繋がっているとアルは気づいているのだ。真剣なアルに、どう言ったらいいか迷ってしまう。

 手首を見れば、まだたった数日しか経っていないのに、更に印が薄くなっている。エリーゼは、きゅっと口を引き結んだ。


(だけどデールは、アルを絶対に関わらせるなと言った。私自身にも……。せめて私たち以外に、神殿に関わっても問題がない人がいれば)


 リリアーヌなら内部まで入れるが、どこまで信用していいか判断も難しいうえ危険も伴う。王家に関わる者は、下手をすれば洗脳され足元を掬われ可能性だってある。

 かと言って、詳しいことを知らない人間や公国の間諜を使うわけにもいかない。


(いっそ、全く関係のない国の使者とか来ないかしら……ん? あっ、一人だけいるじゃない。ただ、それには、アルがちゃんと納得できる理由も伝えないとよね)


 エリーゼには話せることと、話してはいけないことがある。

 自分自身については、アルと勝負し負けた時に話すつもりだったのだから……と、エリーゼはアルの瞳を見つめ、口を開いた。


「アルに頼みがあるの。ある人と連絡が取りたい。その理由をちゃんと話すわ。でも、デールについては話せない。それでも良ければ、私自身の話を聞いてくれる?」


「もちろんだ。ちゃんと話してほしい。エリーゼのこと。これから何が起ころうとしているのか」


 アルはキッパリと言った。


「私はね、前世の記憶があるの」

「……前世?」

「そう、私は転生者。それも、一度や二度じゃないの。様々な生死を繰り返してきたのよ」


 突拍子もない話にアルは目を見開くが、真剣な面持ちのまま、エリーゼを話を黙って聞いた。




 ◇◇◇◇◇


 


「そういう事だったのか……やっと腑に落ちた」


 アルはエリーゼの話を疑うどころか、今までの言動に得心いったという表情だ。


「それで、神聖帝国のクラウス殿下が、エリーゼの前世だったラニアの義理の息子ってわけだな?」

「ええ。しかも彼は前世の記憶があるし、すごく勘がいい。口にはしないけど、デールについても気づいているわ。その上で、協力をしてくれると思う」

「だが、彼は皇子だろ。神聖帝国と関わる事になるかもしれないぞ?」


 両親のことを考えると、エリーゼも迷うところだが。


「それでも、今は……レイの力が必要なの」

「ただ、あの国は閉鎖的だ。あのパーティーの時ならまだしも、()()呼ぶ理由がない」


(確かに、アルの立太子のお披露目パーティーなら、招待してもおかしくなかった。本人も来たそうだったし。パーティーねぇ……)


 パーティーという言葉に、エリーゼはある人物の顔が浮かんだ。


「そうよ! マージ帝国だわ!」

「は?」

「ねえ、魔物の転移の件はどうなっているの?」

「ルークと調べているが……マージ帝国の魔術師に間違いなさそうだ。それが何の関係が?」


 今までの会話から流れが見えないアルは、怪訝そうな顔をする。


「マージ帝国のアダラール殿下とクラウス殿下は、親しい友人なの。だからアダラール殿下を通じて、クラウス殿下に連絡してもらうことは出来ないかしら?」

「確かに、それなら……」

「アダラール殿下になら、私から手紙を出してもおかしくはないわ。皇帝陛下も私たち三人が友人だと認めているし、元ロイド侯爵令嬢について、近況を聞きたいといった内容なら問題ないはずよ」


 アルはじとりと、エリーゼを見た。

 

「え、なに?」

「べつに……」

「帝国の魔術師の件も、探りを入れられるチャンスだと思うのだけど。ダメかしら?」

「はぁぁ……わかった。じゃあ、少しだけ時間をくれないか。ルークの所にも行って話を詰めたい。魔物の件は、お義父上(ちちうえ)にも報告すべきだからな」

「お義父上?」

「エリーの……いや、エリーゼの父は、いずれは俺の義父だからな」


 アルは手を伸ばし、スルリとエリーゼの頬を撫でた。


(ひえっ!?)


「……エリーゼは、何度も人生繰り返しているんだよな?」

「うん、そうだけど」

「結婚もしたんだよな?」

「そりゃね。私だけどエリーゼ()じゃないわ。婚約やめたくなった?」

「いや、俄然燃えてきた」

「はい?」

「全部ひっくるめて、エリーゼはエリーゼだからな……」


『過去も今も誰にも負けるつもりはない』と続く言葉は声には出さず、アルはエリーゼに微笑んだ。

 



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