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14. 気になります

「ここの飯、美味いんだ」

「ああ、なかなかだ」


 まるで、密談をするかの様な真剣な表情。

 ベンジャミンとデールは互いに頷きあい、口と手を同時に動かしていく。


 この食堂は、育ち盛りが満足できるように、自分で量を選べるシステムになっていた。もしかしたら、この食事が目当てで入学した者もいるかもしれない……と思えるほどだ。


(確かに美味しい……)


 ユリウスが、食事まで細かく指示したとは考えられない。ふと、あの執事っぽい学校長の笑顔が思い浮かんだ。


(それにしても、ねぇ)


 てんこ盛りの食事をどんどん平らげていく二人に、エリーゼは少し引く。

 そして、チラリと斜め前を見ると、先に食べていたアルも、エリーゼの半分以下の量になっていた。


「……俺はあんなに食わない」


 アルは顔も上げずに、ぽそっと言った。


(あ、見ているの気付かれちゃったわ)


「あ、うん。そうだよね。ちょっと、デールにベンジャミン、そんながっつくとお腹壊すよ」


「「問題ない!」」と二人は即答。


 ハハッと笑って誤魔化すように話題を変えた。エリーゼは、視線を自分の食事に戻す。


(あの――さっき見せた表情は、急に声をかけられせいかな?)


 ベンジャミンの紹介で、隣のクラスでアルという名前だけは分かった。当たり障りのない話を続け、お互い出身地については触れない。

 というか、アルはエリーゼに全く興味を示さなかったのだ。一瞬、目が合ってもすぐに逸らされる。


 先に食事を終えたアルは、「お先」と静かに席を立つと、自分のクラスへと戻って行った。


「なあ。アルって、いつもあんな感じなのか?」

「ん? ああ、あんまり喋んないな。あれが普通だぞ」


 気にもとめないベンジャミンは、ムグムグと口いっぱい頬張りながらデールに答えた。


「でも、いい奴だぞ! 顔もおれ程じゃないけど、なかなかだろ?」

「……顔」


 ニッとフォーク片手にキメ顔をするベンジャミンに、思わず吹き出す。


「確かに、ベンジャミンほどじゃないけど、アルも綺麗な顔立ちだったね」


『人間の美的感覚は、オレたちとは違うみたいだな』と、ベンジャミンを見ながら言ったデールの言葉は無視しておく。


 顔立ち云々ではなく……正直、アル()平民らしくなかった。作法を知っている人間が、わざと崩しているような仕草。粗雑さを演じている様だった。


 エリーゼは、窓越しに外を歩いて行くアルを、何となく目で追っていた。



 そして――。


 エリーゼとほぼ同時に食べ終わった二人は、満足そうにパンパンのお腹をさする。食器を片付けると、三人は急いで教室へ戻った。


 

 ◇◇◇



 オリエンテーションでは、担任に連れられて校内の施設の使い方や、道具の説明を受けた。

 その都度、質問や疑問がないか聞かれ、丁寧に教えてもらえる。


 学校長から教えられたことと重複していたのだが、他の生徒は初耳のようで「おおー!」と反応していた。


 つまり、あの案内を受けたのはエリーゼたちだけだったのだ。




 ――学校長の言葉を思い出す。



「この学校は、やる気のない者が居るべき場所ではありません。正直、学年が上がるごとに生徒は減っていきます。ご自分で無理だと判断したのなら、学校側は咎めることも引き止めも致しません」


「去る者は追わず……ってことですね」


「ええ、そうです。迷いのある者がいると、周囲を危険に晒す場合があります。特に、三年生からの実践練習では」


 学校長の言葉にエリーゼは、あれっと首を傾げる。


「魔物討伐への参加は、全員ではないのですよね?」


「そうです。その為の、校外学習といったところですね。魔物討伐の際、足手まといになっては困りますから。比較的、凶暴ではない魔物の生息地での実践練習です。その時は……外部の()()()()()が引率しますので」


(ん? 外部講師って、騎士団の人でも雇っているのかしら)


「もしも、素質があれば……」と、学校長は話を続ける。


「――飛び級。そういった進級の仕方もあります。まだ、誰も出ておりませんが」


 エリーゼとデールに向かって、学校長はニッコリと笑みを浮かべた。

 敢えて伝えられたそれが、何を意味していたのか……。



 

「……い、おい! エリー、何ボケっとしてんだ?」


 ベンジャミンの呼びかけに、エリーゼはハッとする。


「あ、ごめん、ごめん。訓練場が立派で見入っちゃった」

「わかる! 本当すごい施設だよなっ!」


 ちょうど訓練場の説明が終わったところだった。


「な、なっ、あっちの校舎の二階見てみろよ」


 ベンジャミンの言葉に、エリーゼとデールは校舎を見上げる。

 エリーゼたちのクラスとは別ルートで回っていた、隣のクラスがゾロゾロと移動していた。その中でも一際目を引くアル。


「アルのやつ、先生の話ちっとも聞いてないぞ。こっち気付くかな?」


 ひひっと楽しそうに言ったベンジャミンは、ブンブンと手を振っている。


「チッ。アルのやつ全然気付かないや」と残念そうなベンジャミン。

「これも授業なんだから、叱られるよ」


 エリーゼは、正面からベンジャミンを睨んでる担任の存在を教えてあげた。


「いけねっ!」と、急に姿勢を正すベンジャミンに苦笑する。


 そして、担任の話に耳を傾けながら、エリーゼはもう一度アルの方を向く。


 アルは、説明している教師とは別方向、学校の塀の外をジッと見詰めていた。

 デールもまた、アルを見詰めるエリーゼを、黙って見ていた。


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