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1. 婚約者になる為の道程

 公国へ帰り着くと、見計らったかのようなタイミングで親書が届いた。

 押された印を見ただけで、相手はプロイルセン国の王家の物だとわかる。やはり婚約の打診だった。


 あの日、王太子アルフォンスと公爵令嬢エリーのダンスは会場の人々に鮮烈な印象を残した。


 それは、当人であるエリーゼにもいえること。最初のダンスに選ばれていた曲は、比較的難しいと言われる曲ではあったが、エリーゼとしては相手がアルだったこともあり、動きに無駄が無く踊りやすかった。

 だが、余裕があったせいでダンスにはあまり集中できず、アルの金の瞳にばかり意識を持っていかれてしまったのだ。


 周囲にはたくさんの目があったにも関わらず、そこは二人だけの空間。ただひたすらに、アルに重なった人物を、自分とは違う何かが求めているのを感じていた。そう、エリーゼの中にある悦びに満ちた()()が――。


 踊る前は、知らない過去をデールに訊こうと思っていたが、結局エリーゼは何も言えずそのままになっている。ダンスを終えた瞬間、何故だか解らないが、()()()()()()()()()と思ったのだ。



 王家からの書状を読みながら、婚約について義父であるユリウスと話し合うことにしたが……。エリーゼの気持ちは固まっていたので、自分が決めたことをユリウスに伝えただけだ。

 ユリウスは以前言っていた通り、反対はせずエリーゼの覚悟を最後まで聞き、頷いた。


 その後、エリーゼはガスパルとアンジェリーヌへ手紙を書くと、ユリウスに頼み、特殊な魔道具で送ってもらった。内容はもちろん、アルと婚約すると決めた報告だ。

 すぐに両親からの返事は届き、祝福の言葉と共に『エリーゼが心から望むことをしなさい。離れていても応援している』とあった。 


 アルのことを知っている両親が、反対せずに応援してくれたのは、とても心強い。気持ちが決まれば前に進むだけ。エリーゼは、両親には迷惑をかけないようにやり抜くと、心に誓った。


 


 ◇◇◇◇◇



 

 それから暫くの間、ユリウスはプロイルセン国と何度かやり取りを重ねた。


 ようやく話が纏まり、エリーがプロイルセン国に向かうことになると、婚約者()()として二人の侍女を連れプロイルセン国に向けて出発した。


 エリーが婚約者として、正式に認められるのはまだ少し先になるだろう。義父であるユリウスが、今回同行していない理由もそこにある。婚約式となれば、もちろん出席つもりでいるが――。

 

 婚約式までの数ヶ月、王妃のカサンドラから直々に王太子妃教育を受けなければいけない。その間、エリーは王宮に滞在することになっている。

 エリーが受けるのは、妃としての淑女教育ではなく、竜の血を引く王太子を支える伴侶になるための、伝統的なものだとか。エリーの体調も考え、ゆとりのある日程を組んだそうだ。


(まあ……たぶん建前でしょうけど)


 竜の血を受け継いだ王族がずっと生まれなかったせいで、実際に()()を受けた者はかなり前の代になるらしい。本当に王家にしか伝わっていないものなら、()()()()ではなく後に行うはず。

 もしも、婚約の話が流れてしまえば、秘匿とされる情報が王族以外に漏れる状況になってしまうのだから、尚更だ。王族の一員としての内政や外交に関わるものは、婚約後に学び始めるのだから。


(つまり、王家側の真の目的は違うということ)


 妃教育と称して、公国の元平民の公爵令嬢エリーが、王太子に相応しいかどうかを見極める期間。前世の記憶やエリーゼ自身の努力で、今の時点でも知識や淑女の振る舞いは完璧に近いが――。カサンドラは、それだけではダメなのだと考えているに違いない。

 重要なのは、王妃が必死で守ってきた息子を、エリーが支えることができる人間なのかどうかだ。


 アルフォンスを取り巻く環境は、粛正を行ったので改善しているが、神殿の思惑――不穏因子は残ったままなのだから。

 エリーの覚悟と能力が相応しくないとカサンドラに判断されたら、きっと婚約は無かったことになる。


(他国の令嬢を危険に晒さないためにも、公国へ帰すつもりなのでしょうね。前の私なら、わざと足りない令嬢のフリをして白紙を願ったけれど……今は違う)


 エリーゼには新たな目標がある。友人(アル)を守ることと、自分の覚えていない過去を探ること。

 頭痛が起こらなくなって、あの夢とも向き合うべきだと思ったのだ。漠然とだが……今世の全ての出来事が、僅かであっても、どこかで繋がっている気がしていた。

 

(デールに尋ねるのは、自分でちゃんと考えをまとめてからにしたい……。だから、先ずは両陛下にエリー()を認めてもらわないとよね)


 思考に耽っていると、カタンと馬車が揺れ、徐々に速度が落ちて行く。


「エリーお嬢様、そろそろ到着いたします」と、前の座席に座る侍女が、明るい声で言った。


「公国とは勝手が違うと思うけれど、これからよろしくね。ミラベル、()()()

「「はい!」」


 エリーの言葉に元気よく返事をした二人を見て、ほんのり口角が上がる。


 今回、エリーの同行者に選ばれたミラベルは、公爵家に仕える侍女でロザリーの娘。侍女長のロザリーが、長期で公爵邸から離れるわけにはいかないからだ。若いが、ユリウスとイザックに実力を認められているやり手でもある。

 もう一人の超美少女の侍女()()()は、デールが魔道具で変身しているだけ。


(どうして、デールが私の前世の名を希望したのかは解らないけど……。べつにダメな理由もないしね)


 ユリウスはエリーゼを近くで守れるよう、デールが変身して同行するのを許可した。婚約者候補としての滞在に、男性従者が常に一緒に居るのはさすがにマズいからだ。波風は立てないに越したことはない。


 転移陣の件が未解決なこともあり、ルークの口添えもあったようだ。エリーゼの護衛の他に、プロイルセン国に不穏な気配がないかを探る役目も担っている。

 デール自身は気負うことなく、適当にやるつもりだろうが。というか、知っていても言わないこともある。


(とはいえ、アルとも情報を共有しなくちゃ……)


 デールが悪魔だと知っているアルなら許可してくれるだろう。


(以前もアルはメイド姿のデールに会っているものね)


 そんな風にエリーゼは軽く考えていた――。

 

 


 

 


 

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