13. 友だち何人できるかな
教室の中は、ザワザワと落ち着きがなかった。
生徒たちはユリウスを間近で見た興奮と、これから行われるテストに対する不安を、顔見知り同士で語り合っている。
ぐるりと教室全体を見回したが、昨夜の男子生徒は居ないようだ。
(……よかった)
なんとなくエリーゼは、同じクラスになるのではないかと思っていた。それは杞憂に終わり、ホッと胸を撫で下ろす。
「なあなあ、エリー。あいつは違うクラスみたいだな」
騒ついた教室のせいか、デールは気にせず普通のトーンでエリーゼに話しかける。
「うん。そうみたいだね」
エリーゼは、女っぽい言葉使いはやめて、デールに答える。デールには呼び方を、愛称のエリーに変えてもらったのだ。そう、男の子に付けられていても、おかしくない名前に。
デールに貰った、意識操作の力を使ってみていた。
とはいえ、頭に思い浮かべただけで、エリーゼの身体には何の変化も無い。
(本当に発動しているのか、いまいち実感がないのだけれど……)
幸い、家から遠く離れた土地で、クラスメイトに知り合いはいない。エリーゼを知っているのは、学校長とユリウスだけ。それなら、滅多に顔を合わせることもないから問題はないだろう……と試してみたのだ。
(わざわざ、性別を発表する必要もないしね。この中で、一人だけ女子って。やっぱり浮きそうだもの。それに……)
昨夜の彼が、どんな人物かも分からない。その目的によっては、エリーゼと知られては困る場合がある。
「おい、お前ら余裕そうだな〜」
唐突に背後から声をかけられた。
エリーゼが振り返ると、短髪で赤茶髪の少年が前のめりに話しかけてきた。
やんちゃそうな顔は、物怖じしなさそうだ。
「えっと、君は……?」
「ああ、おれはベンジャミンだ! 青いお前は、エリーって言われてたな。で、そっちは?」
「デールだ」
ベンジャミンは、ちゃっかり会話を聞いていたらしい。遠慮なくグイグイ来るが、嫌な感じは受けない。
「ベンジャミンも余裕そうだけど?」
「はっ! わかんないもん勉強したって、できるわけないしな。エリーとデールはどうなんだよ?」
「まあ、それなりにかな」
適当に濁しておく。
「ちぇっ、何だよ〜。本当に余裕かよ」と不服そうな顔する。
「だけど、ここじゃ頭じゃなくて腕っ節が必要だからな。エリーはちょっと、細過ぎだぞ」
むんっ! とベンジャミンは、力こぶを作って見せる。
「凄いね。でも、見た目で侮ると痛い目みるよ。これでも特待生狙っているからね」
ニヤリとエリーゼが笑うと、ベンジャミンは胡乱な目を向けた。
だが、ベンジャミンと体格の同じデールが「エリーは強いぞ〜」と加勢すると。
「まじか!」ベンジャミンは驚きつつ、嬉しそうにする。
「強いやつは好きだ! おれだって特待生狙ってやる! エリーにデール、負けないからなっ」
「「望む所だ!」」
そんなやり取りをしていたら、自然と友達になった。エリーゼは、久しぶりに子供らしい感覚を味わっていた。
それが伝わったのか、デールもベンジャミンを気に入ったようだ。
その後、担任がやって来ると、名簿を見ながら出欠をとり始める。
が! エリーゼは「エリー」と呼ばれた。
チラリとデールを見れば、ふふんと笑う。
(まったく、頼りになるわね)
◇◇◇
――テスト終了。
あまりにも簡単なテストだったので、エリーゼはわざと間違えるようなことはしないで済んだ。
ユリウスは、エリーゼとデールを優秀だと聞き、受け入れてくれたのだから。
けれど。
「ぐはぁっ! さっぱりわかんね〜!!」
テストが回収され、休み時間に入るやいなや、ベンジャミンはバタッと机に突っ伏した。
エリーゼとデールは顔を見合わせる。あれだけ居直っていたくせにと、笑いを堪えた。
「まあまあ」
「最初から、分からないって言ってたんだから、想定内だろ」と呆れ気味のデール。
「これからちゃんと勉強すれば、すぐに覚えられるさ」
平民の識字率が低いのは当たり前なのだ。勉強する機会がないのだから。エリーゼは、それをよく知っている。
この学校で、ちゃんと学びさえすれば、読み書きくらいは難なく覚えられるだろう。
ふと、教室が静かになったことに気付いた。
これから、おのおの食堂で昼食を取り、午後はオリエンテーションになるのだ。他のクラスメイトは、友人同士でさっさと移動していた。
『ベンジャミンて、同じ出身地の子が居ないのかしら?』
『だな』
耳聡いベンジャミンに聞かれないよう、声に出さず会話する。
エリーゼは、ベンジャミンを食堂へと誘ってみた。
「そうだ、飯だ!」
テストのことはもう忘れたのか、エリーゼとデールの手を掴み、人混みを掻き分けて食堂へ向かう。
早めに入寮していたベンジャミンは、慣れたもので空いている席を見つける。先に席を取らないと、外で食べることになるらしい。
奥に誰かが座っているみたいだが、ここでは相席は当たり前のようだ。
「あっ、ちょうど良かった! 一緒に食べようぜ」
ベンジャミンは、奥で一人で食事していた生徒に、そう声をかける。どうやら、知り合いのようだ。
「それとも、誰か来るかここ?」
「……いや、来ない」
「じゃ、いいよな!」
「……まあな」
明らかに微妙な返事なのに、ベンジャミンはお構いなしだ。
「紹介するよ、アル。クラスメイトのエリーとデールだっ」
「よろし……く」
食事の手を止め、顔を上げた男子生徒は、一瞬だが驚いた表情をした。
(――えっ!?)
ベンジャミンが紹介したのは、エリーゼが避けたかった、昨夜の男子生徒だった。
『ぷっ……やってくれたな、ベンジャミン。こうなったら、コイツの正体を探ったらいいんじゃないか?』
まさかの事態に、デールは面白そうに呟いた。
『それしか、ないわね』
『オレが居るんだから、心配するなって』
エリーゼは、小さくため息をつく。
そして、自分たちの食事を取って来ると、微妙なランチタイムが始まった。




