表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/147

29. 始まる粛正とクリストファーの選択

 時は少し遡る。


 プロイルセン国、謁見の間――。


 玉座の前に立つクリストファーは、驚愕の事実に言葉を失った。 



 父と母である両陛下に呼び出され、向かった先は何故か謁見の間で、不自然なくらい人の気配がなかった。そこで初めて、クリストファーは只事ではないのだと理解する。


 両親とは一緒に朝食や晩餐をとることが多い。食事中の会話で、重要ではない話は伝えられる。クリストファー個人や、使用人に聞かれてはいけない話なら、父の執務室に呼び出された。もちろん、遮音結界も張れるからだ。

 

 だが、今は謁見の間。

 ここは、国王が他者に会う場だ。王の安全を確保する為の徹底されたセキュリティーで、より強力な結界を張ることができる。側近や近衛騎士の姿がないのは、王の影たちが姿を消して待機しているという事だ。

 そして、クリストファーは息子ではなく、王子として国王と王妃に一線を引くべき場所だった。


 もしかしたら、いよいよ王太子に――といった明るい希望は、早々に打ち砕かれた。聞かされた話は、腹違いである兄が第一騎士団と共に、魔物の討伐に成功したこと。自分の出生と、これからの処遇についてだった。


 絶望と吐き気で視界がぐらりと歪む。体を支える足に力を入れ、どうにか倒れないようにして玉座を見つめた。


「……つまり、私は母上の子ではないと?」


「そうだ」と言った国王陛下の言葉が突き刺さる。


「……っ」

「だが、それについて公表はしないつもりだ」

「……え?」

「王妃と、私の希望だ。クリストファーの返答次第では、考え直さねばならんが。この国での親子鑑定は神殿が行うが、他国では鑑定魔術が確立されている」


 クリストファーは息を呑む。


 神殿が介入し決定された事柄は、王族であっても覆えすことは難しいが……覆す術をもう手に入れているのだと国王は言っているのだ。

 それなのに、公表しないと言った理由がわからない。


「……どうしてでしょうか?」

 

 疑問を口にするが、扇で隠された母だったはずの王妃の方を見ることができなった。


 王妃が、側室とその息子であるアルフォンスを憎んでいたのは周知の事実。その対象が今度は自分になるかもしれない。息子に与えていたはずの愛情を、騙され、側室の子に与えていたのだから。

 厳しくとも、尊敬し大好きだった母。そのクリストファーに向けられていた愛情が、憎悪に変わってしまう恐怖に震えた。


「それは、(わたくし)が初めから知っていたからです」


 答えたのは王妃カサンドラだった。

 扇を下げた、今朝まで母だった人の顔を凝視する。


「クリストファーとアルフォンス、どちらの命も救うには……私は、そうする他なかったのです」

「っ、何故ですか!? 私の命など、母上……あなたにとっては、どうでもよかった筈です」

「いいえ。クリストファー、あなたに罪はありません。乳母が殺されたあの日――()()二人の息子を守ると決めたのです」


 迷いなく言い切ったカサンドラの表情は、化粧でキツく誤魔化していても、クリストファーだけが知っている、いつもの慈悲深く優しいものだった。


 クリストファーは声を出せず「うぅっ……」と嗚咽だけがもれる。

 国王は、クリストファーを見下ろしキッパリと言う。


「アルフォンスは自分で真実を突き止め、側室の洗脳を解いた。その上で、本当の姿で戻って来るだろう。この国の王として、竜の血を引くアルフォンスを王太子として迎えるつもりだ」


 側室の子のままであっても第一王子。金髪金眼を持ち、魔物の異常発生を食い止めたのだ。国民は英雄としてアルフォンスを受け入れるだろう。

 第二王子派の貴族も、第一王子が王太子になることを表立って反対することは出来ない。


「だが、それと同時に粛正をしなければならん。其方の産みの母である側室と、それに関わった者を」

「……はい」


 本来なら、クリストファーはソフィアの連座になるべき人物。

 この場に影しか居ない理由はそこだった。クリストファーの返答次第で、本当に全てが決まるのだ。


「そなたは一生、第二王子としてアルフォンスを支えるつもりはあるか?」


 クリストファーは瞠目する。


「……許されるのであれば、私の命をかけ兄上をお支えしたいです。魔法誓約書も書かせてください」


 自分から願い出る。

 クリストファーの心は決まった。自身の子を道具として扱う側室に、何の思い入れもない。クリストファーを守り育ててくれたのは、王妃なのだから。


 国王が片手を挙げると、影の一人が姿を現し誓約書をクリストファーに渡す。冷たく強張った手を動かし、サインをする。誓約書はボッと青い炎を上げ、魔法が施行された。


「神殿についても関係を改める必要がある」


 国王の言葉に、クリストファーはハッとする。


「私の婚約者であるリリアーヌは……どうなるのでしょうか?」


 両陛下は視線を合わせ小さく頷く。


「あの子も守らねばなりません。たとえ、クリストファーと婚約が解消されたとしても、聖女である限り神殿と関わり続けることになるでしょう」


 婚約解消という言葉に、クリストファーは唇を噛む。幼い頃に婚約者候補として出会い、お互い一目惚れだった。政略的なものであっても、婚約は二人がずっと望んでいたことだ。

 クリストファーが王太子になれなくとも、リリアーヌは解消をしたいと言わないだろう。


(リリアーヌと離れたくないが……リリアーヌの父である侯爵はわからない)


 クリストファーが連座になるなら、絶対に婚約解消はしておくべきだが、たった今それは回避した。この件が詳らかにされることはないが、もう一つの選択肢が浮上する。


「リリアーヌは――兄上の婚約者に?」


 聖女なら王太子妃になるべきだと言われてしまえば、クリストファーは頷くしかない。


「クリストファーとの婚約については、私が侯爵と話す。だが、アルフォンスと婚約することはない。懸想する相手がいるそうだからな」


「えっ!?」と思わず声を上げてしまう。


「相手が誰かは、まだ詳しくは聞けていないが。どうやら他国の令嬢らしい。身分は問題ないそうだが……なるべく力になるつもりだ」

「兄上に、いつそんな出会いがあったのでしょうか?」


 クリストファーの疑問に、国王は眉根をギュッと寄せた。それから、カサンドラとアルフォンスそれぞれに聞かされた事実を口にする。


 実母に毒を盛られ、側室に洗脳され、療養という名目で王宮から出されていたアルフォンスが、どう生きてきたのか――クリストファーは、ただ呆然と聞き続けた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ