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28. クラウスと招待状

更新、大変遅くなりました。

今年もよろしくお願いいたします。



「それで、クラウス様はまだ公国に居ても大丈夫なのですか?」


 クラウスの滞在期間も、残すところ後七日あまり。


 公爵邸でのお茶会も、日課のようになっていた。参加者は、エリーとクラウス以外に、オードリックやレティシアが交互にやって来る。ユリウスは様子見に、たまに顔を出す程度だ。


 最初の頃は、オードリックが公都などを安内していたが、一緒に行けないレティシアが拗ねてしまったため、エリーが提案したものだ。レティシアも喜ぶし、今はクラウスとなったレイと過ごせる時間は、エリーゼにとっても貴重なものだった。


(レイが神聖帝国に帰ったら、きっと会うのは難しくなってしまうでしょうね)


 あれほど警戒していたのが嘘のようだと、エリーゼは可笑しくなる。

 今日は珍しく、オードリックもレティシアも抜けられない公務や授業があり、エリーとクラウスのみだった。もちろん、ベンジャミンはクラウスの後ろに控え、デールとロザリーが給仕している。


 エリーの質問にクラウスは悩む素振りを見せた。


「大丈夫……ではないけど、どうせ怒られるのは避けられないしね。私の側近は心配性だから。優秀すぎるのも困ったものだよ」


 肩を竦め眉尻を下げてはいるが、本気で困っているわけではないのだろう。帰る気など更々無さそうだ。黙って話を聞く、ベンジャミンの方が微妙な表情をしている。


 クラウスになったレイが、以前のレイとは違うのだと、転生を繰り返してきたエリーゼだからこそ、よくわかっていた。


 前世の年齢を訊けば「天寿は全うしたから、それなりだよ」と答えるクラウス。精神的にも幼く、ヤンチャで勉強嫌いのレイから出る言葉ではない。

 時たま垣間見える落ち着いた雰囲気は、今のクラウスよりもかなり年上だったのだろうと感じさせた。


 クラウスが神聖帝国に残してきた、側近に居場所がばれてしまった今もだが、多少の事では動じなさそうだ。


 どうして公国に来ていると知ったかは、元ロイド侯爵令嬢カタリーナに紹介した修道院の院長が、クラウスの側近イグナーツの親戚だったらしい。クラウスはその側近を信頼しているようで、今回の出来事を話し、彼に状況の報告をさせることにしたのだ。


(信用できる修道院っていうのは、そういう事だったのね)

 

 仕事の早い彼は、すぐに情報収集すると、マージ帝国の使節団に連絡を取った。普段なら、直接クラウスに連絡するのだが、何かの勘が働いたのかもしれない。敢えて第三者にクラウスの様子を訊いたのだ。

 そして、マージ帝国に自分の主人(クラウス)が居ないことを知ったらしい。


 それはもう、通信魔道具に映し出された側近が、怒り心頭でもの凄い形相だっと、クラウスは楽しそうに話した。

 エリーゼはその側近の苦労を思うと、つい申し訳ない気持ちが湧いてくる。今は親代わりではないのに。


 とりあえず報告では、カタリーナは貴族の令嬢だったとは思えないほど人当たりもよく、楽しそうに日々のお勤めに精を出し過ごしているようだ。

 エリーゼも気にはなっていたが、こんなに早く、直接クラウスから聞くことになるとは思っていなかった。


「そういえば。レティシア殿下に、祝賀パーティーの招待状が届いていたそうですよ」


 クラウスの一言に、エリーゼはドキリとする。

 エリー宛にも招待状が来ていたからだ。プロイルセン国の王太子が決定した、お披露目のパーティーの。


「どうしてそれを?」


 クラウスがもう知っていることに驚いてしまう。

 エリーに届いたのも、つい先日のこと。あの日の討伐を終え、一気に流れが変わったのだ。


「レティシア殿下が行きたくないと、こぼされていたので。他国の、王太子妃候補になりそうなご令嬢にも招待状を送ったのでしょうね」


 レティシアはクラウスが好きだから、本当は行きたくないと知ってほしかったのだろう。


「本当に、クラウス様は勘が良いのですね」


「これは勘といいうより経験値ですが」と、クラウスは笑みを浮かべた。

 含みのある言い方だが、さすがにベンジャミンもロザリーも、深い意味まではわからないだろう。

 

「それで、エリー嬢は行かれるのですか?」


(時々、レイの面影が全く見えなくなるわね……。まるで、先を見越しているお義父様のようだわ)


 デールが注いだばかりの紅茶を一口飲み、頷く。


「ええ、行くつもりです」


 エリーの返事に、クラウスよりもベンジャミンの方が動揺しているみたいだ。


(ベンジャミンは仕事だったけれど、アルとは兵士学校で仲良くしてきたのだから感慨深いわよね)

 

「……そうですか。たしか、立太子されるのは第一王子のアルフォンス殿下でしたね。エリー嬢も彼に興味が?」

「興味といいますか、私の護衛のエリーゼとデールが騎士学校の同期だったそうです。それもあり、私が行けば、二人も()()()素晴らしい姿を見られますから」

「なるほど。エリーゼとデールの、ね」


 当たり前だが、今までクラウスにはアルについて話したことはない。というより、話題にすら出なかった。

 周囲に聞かれても問題のない会話を続ける。エリーゼとエリーが同一人物だと知ったクラウスには伝わっただろう。

 

「妃候補にはご興味は?」

「私は、体が弱いので……荷が重すぎて難しいかと」


 その設定はブレてはいけない。

 たとえ、ガスパル譲りの体力で剣を振りまくっていても、それはエリーゼであって公爵令嬢エリーではないのだから。ダンスも、二曲が精一杯のスタンスは崩すつもりもない。


(だから、エリーが候補に選ばれることは無いわ……。アルの晴れ舞台が見られたらそれで満足よ)

 

 王太子妃は、いずれ王妃になるのだから。

 

「……へぇ。私も、プロイルセン国になんだか興味が湧いてきました。神聖帝国(こちら)にも招待状が来ているといいのですが」


 クラウスは不敵な笑みを浮かべた。

 


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