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26. 探り合いから核心へ

かなり期間があいてしまい申し訳ありません。

本日二話目の投稿です。



「まさか()()、こうしてエリー嬢から二人きりになれるよう時間を取ってもらえるなんて。驚きましたが、嬉しいですね」


 温室の真ん中に用意された、ティーセットと甘く香る多種多様なお菓子。丸いテーブルにエリーと向き合って座ったクラウスは、湯気のたつ紅茶を一口飲むと顔を綻ばせた。

 デールとベンジャミンは、『二人きり』の数には入っていないらしい。


 午前中、訓練場にやって来たクラウスは、エリーゼと対面し軽い会話をすると、それだけで満足したかのように公太子と一緒に去って行った。

 予想通り、()()()確かめる為の接近だったのだろう。あの場で深い話をすることは不可能なのは分かっていた。だからエリーゼは、前もってデールにこの場を用意してもらっていたのだ。


 昼食会を終えると、ユリウスは執務室での仕事に戻った。オードリックは公宮から急ぎの書簡が届いたと、絶妙なタイミングで連絡が入った為、クラウスを残し先に帰って行った。

 そして、オードリックにあとを頼まれたエリーは、公爵邸と庭園、温室の順に案内し、程よい休憩時間にとお茶の席を用意しておいたのだ。


「せっかくです。ベンジャミン、先程お会いしたエリー嬢の護衛騎士を呼んで来てほしい」


「え? 彼女は、本日は訓練日だと……」と、さっき一緒に聞いた話をベンジャミンは口にする。


「うん、聞いたよ。でも、()()ぜひ彼女も誘いたい。騎士団長に確認し、連れて来てくれ。これは、命令だよ」


 クラウスは、有無を言わせない笑みでベンジャミンをこの場から引き離そうとする。エリーは、困った微笑を浮かべるが、止めはしない。クラウスが、エリーゼを本気で呼んでいるとは思わなかったから。


 騎士としてのエリーゼは今、ユリウスに用事を頼まれ、公爵邸を離れていることになっている。ベンジャミンは、結局ユリウスに会いに行くことになるだろう。

 

 ベンジャミンが温室を出ると、エリーは遮音結界を張った。いつかと同じように、中にはクラウスとエリーとデールだけが入っている。

 お互い探り合っている微妙な空気。


 クラウスは、フッと笑う。我慢できなかったのはクラウスの方だった。


「さっきのエリーゼが、()()あなたの本当の姿なんだね」


 核心をついたクラウスは、口調を和らげる。


「最初から、これに気づいていたのですか?」と、耳たぶのピアスに触れたエリーゼは、クラウスをじっと見つめた。


「まあ、そこから強い何かを感じたから、魔道具だってことはね。――で、何かを思い出したのかな?」


 クラウスは、焼き菓子の上に飾られたフルーツを指で摘んでパクリと食べた。「うん、懐かしい味だね」と、指先に残ったフルーツのベタつきをペロッと舐める。 

 皇子なら絶対にしないマナーの悪さ。それが当たり前のような仕草に、エリーゼは瞠目する。


 デールに用意してもらった、異国のフルーツ。レイとラニアの住む森に、たくさん実っていてレイの好物だ。敢えて()()を選んだ意図――。


「……レイ、なの?」


 エリーゼはポロリと言ってしまった。


 クラウスは、くしゃりと泣きそうに笑う。それが答えだった。


「私からは……話せない()()()なんだよ。だから、思い出してくれて嬉しい」

「ルール?」

 

 エリーゼはクラウスに言われたことを思い出した。


(だから、いくらでも待つって言ったの?)


「ベンジャミンの誓約みたいなものかな」

「……え」


 驚くエリーゼに、クラウスは苦笑する。


「国は違えど、影の存在とは似たり寄ったりだからね」と、誤魔化すように言ったクラウスは、チラッとデールに視線をやる。


「まあ、デールとは……少し違いそうだけど」


 デールは無言でクラウスを見ていた。

 エリーゼが、どこまで事情を知っているのかと戸惑っていると――。

 

「今は幸せ?」


 と唐突な質問が投げかけられた。

 きっとクラウスではなく、レイとしてなのだとエリーゼには分かった。


「ええ、幸せよ。でも、レイと暮らした日々も幸せだった。忘れたことなんて、一度もなかったわ」


 ラニアとして答えると、クラウスはビクリと肩を震わせ、「おれも……」と俯き呟いた。


(レイは本音を言う時は、絶対こっちを見ないのよね)


 エリーゼは目頭が熱くなる。レイにもう一度会えたら、訊きたいことが沢山あった。でも、よく分からない『ルール』があるなら、訊いてはいけないのかもしれない。

 でも、レイはラニアといた日々を幸せだと言ってくれたのだ。ずっと胸につかえていた物が取れた気がした。


 エリーゼは、自分より年上になっているクラウスの頭に手を伸ばすと、そっと撫でた。昔のように。しばらく時が止まったようだった。

 けれど二人の世界を割るように、冷静なデールの声が響く。


「で。今のお前はエリーゼの味方か?」


「その話し方が素か?」と、顔を上げたクラウスは、皇子の笑みを貼り付けて言った。


「ああ。オレには身分なんてどうでもいいからな。それより、質問に答えろ。お前はただの獣人の子供ではなかったのだろう? それに今は神聖帝国の皇子だ」


 獣人という言葉に、僅かにクラウスは眉を上げた。デールは全てを知っているのだと理解する。


「まあね。でも――味方だよ。()()の敵はおれの敵だ。それに、今の()()きっと役に立つ」


 あえてクラウスはエリーゼを『彼女』と言った。それが、ラニアと呼べないせいなのか、全てをひっくるめているのかは分からないが。


「だから、ちゃんとエリーゼとエリー嬢について教えてほしい。神聖帝国を警戒している理由があるのだろ? そのために、無理矢理ここまで会いに来たのだからな」


 クラウスは、最初から自分が警戒されていると分かっていたらしい。

 そして、かなり強引な計画をしている自覚もあったのだ。


 




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