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25. クラウスの騎士団見学

「さっそく明日、公爵邸(ここ)に来るなんて」


 公宮から戻ったユリウスに呼び出されたエリーゼは、自室に戻るや否や、ぼふんっとベッドに前のめりに倒れ込んだ。

 フェレットの小さな前足が、エリー色の青くない艶やかな髪を梳くように、ぽぷぽふと優しく動く。


 デールの気遣いと後頭部に感じる可愛らしい感触に「ふふっ」と、エリーゼはうつ伏せのまま笑いをこぼした。


「うん、大丈夫よ」


 ゴロンと仰向けになり、デールを自分のお腹に乗せる。  

『そうか?』と、デールはエリーゼに撫でられ目を細めた。


 クラウスはあの後、公王夫妻に晩餐に招待されていた。

 話が盛り上がり、オードリックから公爵家の騎士団が素晴らしいといった話題が出てしまったそうだ。エリーゼの二役を知っているのは公王のみ。


 だから、仕方ないと言えば仕方ないのだが――。


 晩餐会が終了したタイミングで、ユリウスが挨拶に向かったところ、クラウスは是非とも公爵家の騎士団の訓練を見学したいと言ってきたのだとか。

 逡巡したユリウスは、調査隊がまだ戻って来ていない今の方が幾分()()だと考え、招待することに決めた。

 

エリーゼ()の存在をバレないようにしないとよね……」

『いや、逆じゃないか』

「どういうこと?」

『エリーゼとして会えば、本当に匂いで分かるのかハッキリするだろ』

「エリーゼとエリーが同一人物だと認識できるかってこと?」

『あと、もう一人いる』

「……ラニア?」


 コクンとデールは頷く。


『どうして、初対面のエリーに執着するかを考えれば――。あいつの言った、匂いが同じってことが原因かもしれない』

「そんなことあるの?」

『…………稀に、な』


(今の間は何かしら?)


「悪魔にも似た能力があるとか?」

『……まあな』

「でも、リスクが高すぎるわ。母さまと父さまの娘だとバレてしまったら……」

『前世のレイか確かめたいんだろ?』

「それはそうだけど」

『もし違ったら、オレが記憶を消せばいい』


 フェレット姿のデールは、さも任せておけと言うように赤い目を光らせる。

 

『それに……。オレも確かめておきたいからな』


 ぼそっとデールは呟いた。


「やっぱりデールも気になるのね」


 エリーゼは、やはりデールも悪魔であることを、これ以上誰かに悟られたくないと思っているのだと納得する。

 デールはそんなエリーゼにチラッと視線をやると、肯定も否定もせず、そのまま力を抜いて眠る態勢をとった。




 ◇◇◇◇◇




「やはり、迫力がありますね」


 体躯のいい騎士たちの本気の打ち合いに、クラウスはニコニコすると、傍らに立ち説明をする公太子に話しかけた。


 午前中の訓練から見学を希望したクラウスは、オードリックの案内で公爵邸にやって来ていた。見学を終えてからユリウスとの昼食会で、エリーとも会う予定になっている。体の弱いエリーを長時間、外での見学につき合わせるわけにはいかないとのオードリックの配慮だ。


「我が国で、最も強い騎士団だと言っても過言ではありません」


 公城で護衛にあたっている近衛騎士団とは違い、王弟である公爵が筆頭の騎士団は、魔物討伐に特化しているといってもいいと、我が事のようにオードリックは胸を張って言う。

 それもこれも、オードリックが叔父であるユリウスを、心から尊敬し慕っているからだ。


「おや? あの騎士は、女性ですか?」

「ええ。彼女はこの団の唯一の女性騎士で、平民ながら優秀な成績で騎士学校を卒業し、エリーの専属騎士となった者です」

「優秀なのですね」

「確か執事のデールと同期です。そういえば、マージ帝国にも彼女は護衛で同行していたはずですが」

「へぇ……そうでしたか。残念ながら、私には会う機会がなかったようです」

「ああ、パーティーには護衛は入れませんからね」


「なるほど」と、クラウスは護衛として二人の少し後に立つベンジャミンを、視界の端でとらえると形の良い薄い唇が弧を描く。


「ではぜひ、彼女ともお話したいものですね。帝国のお祭りで、私はデールとも仲良くなったので。ね、ベンジャミン」


「……はい」とベンジャミンは、当たり障りなく返事した。


 クラウスがやって来ると知っている筈なのに、なぜエリーゼがこの場にいるのか、ベンジャミンは内心では戸惑っていた。エリーゼの事情やミトス出身のベンジャミンについて、何も知らされていない公太子に、もう喋ってくれるなとヒヤヒヤしながら。

 

「では、もう暫くしたら休憩が入るはずなので、声をかけましょう」

「迷惑ではありませんか?」

「問題ないでしょう。叔父上に、クラウスの見たいところを案内するよう言われていますから。神聖帝国の聖騎士団との違いなどあったら、私にも教えていただきたいくらいです」

「私の主観でよろしければ」


 オードリックは興味深そうに、クラウスの話に耳を傾ける。

 育ちのせいか、口調こそまだ砕けてはいないが、オードリックとクラウスは確実に距離がつまっていた。ベンジャミンはクラウスの護衛になり、相手の興味を巧みに引き出していく手腕に舌を巻くばかりだ。


「ああ、そろそろ休憩のようです。行ってみましょう」


 クラウスはオードリックの背後から、青い髪の女性騎士を見つめながら歩く。

 ――そして、クンと微かに鼻を動かした。




 モハメドから呼ばれたエリーゼは、剣を仕舞うとオードリックが案内してきたクラウスの元へ行き、騎士の礼をとり「お呼びでしょうか」と声を掛けた。


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