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24. クラウスがやって来た

 エリーゼはデールと相談し、魔物が転移させられた魔法陣からアルがやって来たと、ルークには伝えることにした。


 アルが壊したドームは、デールが元の状態に戻しておいたのだが、取り敢えずそれを解除する。これで、ドームを形成したルークは、破壊されたことに気がついたはずだ。


 エリーゼとデールは、確かめにやって来るだろうルークを森で待ち伏せする。



「なっ! なんで、二人がここに居るのさ!?」


 やはり、すぐに転移して来たルークは、目の前に居た二人に気づくと声を上げる。


「すみません、ちょっとお話がありまして」と、エリーゼは転移陣があった場所を指差す。


 ルークは勝手に森へ入ったことにも驚いていたが、消し去られたドームがあった場所を見遣ると、もの凄く嫌そうに顔を顰めた。


「……で、これはどういうこと?」


 さっさと話せとばがりに、ルークは促してくる。

 エリーゼは、アルに会った経緯()()を話した。ルークは口には出さないが、デールが人ならざる者だと薄々わかっている。だからか、あまり深くは突っ込まれず、エリーゼはホッと胸を撫で下ろした。


 以前ルークは、エリーゼとデールにプロイルセン国に潜入を依頼したのだから、アルの状況も知っている。だったらデールに誤魔化してもらうより、魔物が消えた原因を把握してもらった方がいいとエリーゼは考えたのだ。

 公国が、これからどう動くかを左右することだから。


 ユリウスには、ルークから上手く伝えると話はまとまった。もちろん、エリーゼとデールが関わったことは伏せて。

 



 ◇◇◇◇◇




 そんなこんなで、あっという間に二晩が過ぎ、クラウスが公城へやって来る日になった。


 エリーとしてマージ帝国に入国した時は、大臣の一人であるロイド侯爵が、()()()()()待ち構えていたが――それはあくまでも、彼が国外の要人を迎える担当だったからだ。

 ロイド侯爵は、あの失態で確実に肩身が狭くなっただろう。役職を追われたかまではエリーゼにはわからないし、無事に長女が逃げられた今、正直気にもならない。


 今回は、大勢の要人が公国にやって来るわけでもなく、神聖帝国の皇子によるカジュアルな訪問。

 とはいえ、他国の皇子を気軽に迎えるわけにはいかない。ゲート前で公太子と公女がきちんと待つなら、十分な対応といえる。

 

 ただ、マージ帝国の皇帝直々のメッセージを受け取ってしまったエリーは、当然この場に居なければならない。

 多忙なユリウスは、改めて挨拶にやって来る予定だ。急な話で、調整が難しいのは仕方のないことだろう。

 

 そして、ゲートが出現する場所の前にずらりと並んで待機していた。立ち位置は決まっているので、正面の公太子たちの後方でエリーはその時を待っている。


 輝きと共にゲートが出現し、扉が開くと高貴さを纏ったクラウスが、ベンジャミンを連れて優雅に歩いて来るが――。

 その場にいた全員が、戸惑いの表情を浮かべた。


(え、まさか……二人だけ!?)


 一国の皇子が、護衛だけで側近も従者も連れずにやってくるなんて、あり得ない事態だ。


 しかも護衛のベンジャミンは、公国(こちら)側の人間……というか、密偵。誕生祭の時、クラウスは何も言わなかったが、エリーとベンジャミンを会わせたことを考えると、知っている気がしてならない。確信とまではいかないが。

 

(信用を得たいのかもしれないけど、無謀すぎるわ……)


 クラウスは、戸惑うエリーたちを前に、それすらも楽しむかのように笑みを浮かべた。

 ハッとした公太子オードリックは、迎えの挨拶と自己紹介をし、次いでクラウスも正式な挨拶を済ませる。


 形式的なものが終わると、年齢も近いことから自分には気楽に接してほしいとクラウスは言い、オードリックも同意し自分にもそうしてほしいと伝えた。

 二人とも人の懐に入るのが上手いタイプなのか、すぐに打ち解けてしまう。


「クラウス殿下。こちらでの滞在は、お一人でよろしいのでしょうか?」


 迷ったが、オードリックは直接クラウスに尋ねることにした。滞在中は、公宮の使用人の配置も抜かりなく準備してはいるが、本当にそれでいいのかと皇子自らの口から聞かないと安心できないのだろう。


「ええ。護衛はおりますが」と、クラウスはベンジャミンを見る。


「私の側近は、もともと今回の視察には参加していないのですよ。マージ帝国には長く留学もしていたため、向こうには慣れた使用人もおりますが……さすがに我が国の者ではないので、勝手に連れてくるのもどうかと思いまして。使節団の者は、マージ帝国(あちら)ですべき事がありますからね。だから、彼らには私が公国へ行くとは言っておりません」


「え!?」と、オードリックをはじめ皆が固まった。


「問題はありませんよ。皇帝陛下はご存知ですし、わざわざ自国に報告する必要もありませんから」


「そう……なのですか?」


 オードリックは半信半疑の様子だ。どう考えても、自分だったら絶対にしないだろうと思っているに違いない。


「はい。問題ありません。それに、公国(こちら)には()()()()()エリー嬢もいるので、何も心配はないかと。ね?」


 と、なぜかクラウスはエリーに同意を求めた。


(たった二回しか交流していないのに……)


 やはりクラウスの言動は何かがおかしい。

 エリーとしては、引き攣らないように笑顔で曖昧に受け流す他なかった。


「そうでしたか。ならば、我が国で有意義な日々を過ごしていただけるよう、最善を尽くします」と、オードリックは胸を張って言う。


 それから妹である公女や、担当になる上級使用人をざっと紹介すると、公城の案内も兼ねクラウスが滞在する宮に向かって歩き出す。


「エリー嬢、()()()


 すれ違い様、クラウスはエリーに声をかけた。


 クラウスに必要な物は全て、ベンジャミンが持っていた魔道具の中に収納されているらしく、それを担当者に渡すとベンジャミンも急いであとを追う。

 受け取った担当使用人たちはセッティングのため、最短ルートの廊下に向かって急ぎ足で散って行った。

 

 残された公女レティシアは、頬を染め、クラウスの後ろ姿を放心状態で見つめている。


「レティシア様?」

「ねえ、エリー。一目惚れって、本当にあるのね」

「…………え?」  


 クラウスがやって来るまでは、チラチラとデールに視線を送っていた人物とは思えない発言だ。

 そんな考えを察したのか、クイッとエリーの腕を引き、レティシアは言い訳するように耳元でこっそり囁く。


「デールのお顔も素晴らしくて好きだけど、クラウス殿下はまた違うのよっ。なんて言うか、こう胸がキュッとなってしまって。私もお友達になりたいから、エリーも協力してくれない?」


 公女でありながら、平民であったエリーをすぐに受け入れてくれたレティシア。キラキラした瞳で言ってくる、可愛い従姉妹のお願いを断ることもできない。


「私ができることでしたら」


 と、エリーゼはつい答えてしまった。





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