21. 再会
「ここがそうなのね」
エリーゼとデールが降り立った場所には、ドーム状の結界があり、その中心には微々たる光を放ち、辛うじて形を留めている魔法陣があった。
このドームのおかげで、ほぼ消えていた魔法陣が可視化できるようになっているらしい。この結界を解除すれば、すぐに消えて無くなってしまうのだろう。
森の中には、同じようなドームが幾つもあった。
痕跡が視えるルークだからこそ発見することができ、こんなたくさん結界を次々と張れたのだ。
最も大きなドームから少し離れた場所に、調査隊の野営テントはあった。
ただ、魔術師達は各々の研究室に帰っているようで、見張り程度の人数しか残っていない。あまり外を好まない魔術師は、騎士団員と違い野営が苦手な者も多そうだ。
これなら鉢合わせの心配もない。
「今まで見た中で、ここが一番小さいみたい」
「だな」
デールは短く言って、翼をしまうと人の姿に戻る。
(あれ? なんで執事姿に?)
エリーゼは首を傾げたが、万が一がある。確かに外では、人の姿でいた方が安全かもしれないと思い直す。
「でも、ここは形が綺麗に残っているのね」
「ああ、最後に魔法が発動した場所なんだろ。報告書と地図に印があったからな」
森の奥深く。
討伐隊が、なかなか遭遇しない魔物を探して、ここまでやってきた。そして、モハメドが魔物が消える瞬間を見た場所だ。
調査隊が、大きい魔法陣の方から始めたのは、先に消えてしまう可能性が高いかららしい。
「ねえ、この中って入れるのかしら?」
「ちょっと待って」
エリーゼが結界に触れようとするのをデールは止めると、ポンとエリーゼの額を突く。
「これで、結界をすり抜けられるから大丈夫だ」
「ありがと」
エリーゼが、魔法陣を近くで見ようと近づいた刹那、放射線状の光がドームを消し去った。
(――えっ!?)
咄嗟に飛び退き身構えたエリーゼの目には、信じられない光景が映った。
「ま……さか、アル?」
急に発動した転移陣から現れたのは、未だに連絡が無く、約束を違えてしまったアルフォンスその人だった。
しかも、黒髪の偽りの姿じゃなく、夜でもハッキリわかる美しい金髪だ。瞳は金でなくヘーゼルに落ち着いている。
「……エリーゼ」
アルはすぐにエリーゼの存在に気づき、大股で向かってくる。息を呑んだエリーゼを、アルはくしゃりと顔を歪ませ徐に抱きしめた。
「会いたかった……」
間近に聞こえるアルの声。
エリーゼは戸惑う。
(ど、どうしてアルがここに!? え、魔法陣からでてきたわよね。それに……私、アルに抱きしめられてる!?)
考えが纏まらず、エリーゼが身動きしようとすると、アルの腕に力が入り全く離してもらえない。
心臓が早鐘を打ち、全身が脈打っているみたいだ。
(ダメ……頭が混乱して、クラクラする)
「あ、あのー。いいところなのに、すんません」と、いきなり背後から聞き慣れない声がした。
(デールの声じゃない!)
一瞬だけアルの力が弱まり、エリーゼはバッと体を放し距離を取った。
そして、エリーゼの視界に入ったのは、アルの背後に立つ、アルと同じ隊服の見知らぬ男。少し離れた所で、大きな石の上に座って頬杖をつくデールが居た。
「おい、アル。そいつ誰だ?」と、デールは不服げにアルに向かって言う。
(……え? デールはアルが出て来るって知っていたの!? だから、人の姿に戻ったの?)
さっきとはまた違う意味で混乱する。
「ああ、こいつはジャノ。俺への元刺客だ。味方だから、心配しなくてもいい」
アルは事もなげに言う。
(いま、刺客って――)
「ふーん。まあいいけど」と、どうでも良さそうなデール。
「ちょっと……二人とも! 一体どういう事なのか説明して!」
うんうんと、なぜか初対面のジャノと呼ばれた男もエリーゼに同意する。
アルはチラッとだけジャノに目をやってから、エリーゼを見つめ話し出す。
「俺の元に、デールから連絡が来たんだ。近くで魔物の暴走が起こるかもしれない――と」
バッ!とデールを見ると、素知らぬ顔をしている。
(デールったら、魔法陣を仕掛けたのが誰か知っているのだわ!)
アルのことを見守るよう頼んだのはエリーゼだが――まさか、ちゃっかりやり取りしていたとは想像もしていなかった。
「あ、わかった。彼は殿下の諜報員すね!」と、ジャノは口を挟んだ。勝手に勘違いをしてくれたようで助かった。
「……ああ。まあ、そんなところだ」
「俺らにも気づかせずに、やり取りしていたなんて……さすがだなぁ」と、なぜかデールにもキラキラした視線を送った。
デールは無言で執事然とした笑みを浮かべる。執事のふりをした諜報員で通すようだ。面倒になれば記憶を消すつもりだろうが。
「んで、ここはどこなんですか?」
ジャノの言葉にエリーゼはハッとした。
「魔物達は、まさかプロイルセン国に?!」
「現れたのは廃村地区だから問題ない。殲滅したしな」
よく見ると、アルは卒業式の時より随分と逞しくなっている。騎士団の隊服は、魔物の返り血でかなり汚れていた。
「そう……無事で良かった、本当に」
「俺の実力は知っているだろ?」
「そうだったわ、アルは強い」
エリーゼはクスッと笑う。
「でも、なぜ廃村地区に魔物を……」
「目的は、俺だろうからな」
「あっ……」
エリーゼも誰の仕業か解った気がした。
アルを第一騎士団に入るよう仕向け、廃村地区へ向かわせた人物――アルの偽の母親ソフィアと、神官になりすまし洗脳していた魔術師。
(つまり、あの魔術師は公国へやってきていたってこと? 一体誰の手引きで……)
エリーゼが考え込んでいると、突然アルの手が頬に触れた。
ビクッとエリーゼは顔を上げた。
「……ごめん」
「えっと、何が?」
「最初のダンス、約束守れなかった……」
アルの瞳が切なく揺れた。
こんな大変な状況だったにも関わらず、アルはエリーが社交界デビューをしたことを知っていたのだ――。




