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20. 再会の予兆

「これがエリー宛のものだ。読んでみなさい」


 ユリウスから渡された封筒の、封蝋には確かにマージ帝国の皇族印が押されている。エリー宛なので、もちろん未開封だ。

 開封すると、手紙というより短いメッセージカードのようで、エリーゼは戸惑いながら読む。

 クラウス殿下をよろしく頼む的な内容だ。


(え……どうして、他国の皇子を? アダラール殿下じゃなくて?)


 エリーゼは、訳がわからないまま読んだ手紙をユリウスに渡す。


「クラウス殿下が、この国へいらっしゃるのですか?」

「そうなるだろう」


 ユリウスは内容を知っていたようで、難しい顔のまま答えた。


「詳しい要望は、公王陛下の元へ届いている。マージ帝国に使節団が滞在している間、クラウス殿下が公国を訪問したいそうだ。クラウス殿下の希望で、自身の見聞を広げたいと皇帝陛下に掛け合ったらしい」

「使節団として行っているのに、なぜ公国(こちら)に?」

「クラウス殿下は、帝国には留学経験があるからな。パイプ役として同行しただけだ。大使は別にいる」


(だから、使節団とは常に一緒に行動していなかったのね)


 道理で自由にしていたわけだと、エリーゼは納得する。


「エリーとも、せっかく友人になったのだから良い機会だと。まったく……どうやって()()皇帝陛下を丸め込んだのだか」


 ユリウスは、心底嫌そうだ。


「この件は()()、神聖帝国側は知らないらしい。クラウス殿下だけのカジュアルな訪問を受け入れなければ、公国側(こちら)がそれでは不服なのだと取るだろう。そうなれば、使節団としての正式な訪問要請を出してくる筈だ。現状、それは避けたい」


 マージ帝国からの要望という名の命令。

 つまりこれを断れば、向こうは適当な理由をつけ、断れない状況を作ってくるに違いない。

 なぜクラウスに、そこまで肩入れするのか理解できないが。


 もし、使節団として招くことになれば、準備にも相当かかるうえ、勝手に国内を見て回ってくださいという訳にはいかない。

 オプスキュリテの森の件もある。神聖帝国の人間を受け入れるのは、今はリスクが高すぎるのだ。


 ユリウスの言うことは最もだった。


「公王陛下は、クラウス殿下だけなら受け入れるしかないと言っている」

「そうですか……」


 皇帝は断らないと分かっているから、エリー宛にあんなメッセージを寄越したのだ。


(やっぱり断れないやつだったわ……)


 そう考えて、エリーゼはハッとする。


「あのっ。まさかクラウス殿下は、公爵邸に滞在されるのでしょうか?」


「いや、それはない。公宮の方にお泊まりいただく。殿下の対応は、主に公太子がする予定だ。年齢も近い。神聖帝国の皇子との社交は、オードリックもいずれ必要になるからな」


 エリーゼは内心ホッとした。


 クラウスがレイであるかを確かめたいが、公爵邸にとどまられたら、エリーゼとして動けなくなってしまう。

 とはいえ、クラウスはエリーに会いに来るはずだ。メッセージにあったように。

 

 使節団が、マージ帝国に滞在するのは一ヶ月くらいだと聞いている。

 そうなると結構な期間、クラウスは公国に居ることになるだろう。短期間で帰ってくれたらいいが、クラウスの掴みどころのない笑顔を思い出すと、難しそうな気がしてくる。

 

(だったら! クラウス殿下がやって来る前に、デールと一度、オプスキュリテの森に行ってみようかしら)




 ◇◇◇◇◇



「じゃあ、早速行ってみるか」

「え、そんなすぐ!?」

「急がないと、クラウスはゲートで来るんだろ?」


 マージ帝国は隣の国でも、皇都から公国は遠い。しかもクラウスは貴賓だ。こちらから転移スクロールを送り、招待する形になるだろう。


「確かにすぐにやって来そうだわ……。でも、調査隊と鉢合わせしないかしら?」


 外はまだ薄ら明るい。


 デールはじっと窓の外を眺め、何かを考えているようだ。

 執事姿で真面目な表情をしていると、ゴロゴロだらけた格好をするフェレットは、実は別にいるんじゃないかと思ってしまう。それだけ執事としてのデールが、当たり前の存在になっているのだ。


「あー……だったら、今夜遅くにしよう」と、考えが纏まったのかデールは言う。


「調査隊は主に魔術師だろ? なら、安全な場で野営するだろうからな」

「私もその方がいいと思うわ」


 もしもルークが居たら、色々と説明しなければいけなくなって面倒だ。


「――タイミングも良さそうだ」


 デールはボソリ呟く。


「え? 今なんて?」

「いや、何も。とりあえず、いったん仕事に戻ってくる」

「うん。じゃあ、また夜に」


 デールは執事らしくピシッと背筋をのばし、ロザリーと入れ替わりに部屋を出て行った。




 その夜、デールはパッと現れた。


 昼間とは違う悪魔の姿。

 ただ、普段と違うのは背中に翼があるところ。いつか見た、息を呑むほど美しい大人の姿ではない。


(あれは見間違い……それとも、私の夢だったのかしら?)


 デールの力で三日間も眠り続けたせいか、記憶も曖昧だ。

 エリーゼにとってはどちらもデールに変わりないので、寧ろ見慣れている今の姿の方が安心感がある。翼はあるけれど。

 

「準備はいいか?」


「ええ」と答えると、そこはもう公爵邸の屋根の上。


「転移で行くんじゃないの?」

「上から調査隊の野営地と、ルークが見つけて保存魔法をかけた場所をいくつか確認しておきたいだろ?」

「そうね……って、デールはもう分かっているのね」

「まあな」

「ざっと簡単に見てから、副団長が目撃した場所に行きましょう!」

「了解」


 浮遊していたデールはエリーゼの手を取り、翼を大きく羽ばたかせると、勢いよくオプスキュリテの森に向かって飛び出した。


 


 ◆◆◆◆◆



 

「どうやらコイツで最後だな」


 ほぼアルフォンスの独り言。


「なんつーか、さすが殿下ですねぇ……」


 殲滅した夥しい魔物の数に、ジャノはしみじみ言った。

 アルフォンスは、光を放ったままの魔法陣に向かって歩き出す。


「あ、待ってくださいよー!」とジャノは追いかける。


 最後の魔物が現れた場所には、消えかかった魔法陣があった。アルフォンスは別の魔法陣を重ねがけし、消えないように保存しておいたのだ。


「さて、これはどこに繋がっているのか」


 アルフォンスは不適な笑みを浮かべ、魔法陣の中へと入って行った。





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