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15. 難題

「……え?」


 突然何を言い出したのかと、エリーゼはクラウスを凝視する。


(聞き間違い? でも、今たしかに邪魔者……って言ったわよね)


 アダラールやカタリーナのことを指しているのか、それともやはり、公国との繋がりに疑いを持たれたベンジャミンに対してなのか。ここにはデールも残っているし、エリーと二人きりになりたかった訳ではないのだろう。

 ベンジャミンにこっそり会わせようとしたこともだが、未だにクラウスの言動が読めない。


(一緒にお祭りをまわってみて、悪い感じはしなかったのに)


 信用したわけじゃないが、二人の皇子の学生時代の話を聞き、正直見直していた。


(それなのに……目的は違ったのかもね)


 今まで見せた顔が、神聖帝国によって公国を探る策略だったのかと思ったら残念でしかたない。 


 ここは皇宮ではない。

 しかも、エリーゼはこっそり認識阻害を発動し、周囲からは関与されない。クラウスより、デールといるエリーゼの方が優位な状況だ。


 警戒しながらも、クラウスの次の言葉を待った。


「どうしても、訊きたいことがあってね。――二人はどんな関係なの?」

「え?」


 またしても意味不明。

 柔和な話し方ではあるが、デールを見るクラウスの瞳には感情が無いみたいだ。まるで、マージ帝国の皇帝のように。


「主従関係ですが。それが何か?」


 エリーゼが答える前に、デールがエリーを庇うように前に出て言う。

 公爵令嬢と執事の立場は事実であり、それ以外に答えようもない。


「どんなに徹底した訓練を受けた者でも、多少なりとも感情によって()()があるんだ。例えば体温の上昇や汗、視線の動き――纏う魔力とかね」


「何が仰りたいのでしょうか?」


 クラウスはデールに向けていた視線をエリーに戻す。


「デールからは何も()()()()。本当に、彼は人間なの?」


 いきなりの核心に、デールはクラウスを冷ややかに見据えた。だがクラウスは動じない。


「あの……仰っている意味がわかりません」


 エリーゼは知らぬ存ぜぬを押し通す。


「まあ、デールが何者であっても構わない。エリー嬢に害なす存在でなければ、ね」

「は?」


(本当に意味が解らない!)

 

 クラウスと直接会ったのは、マージ帝国でのたったの二回。なのに、長い間エリーを見守っていたかのようなセリフではないか。


 悪魔のデールよりクラウスの存在の方が、今世のエリーゼと、大切な家族にとっては危険な存在なのだ。

 そもそも、デールに魂をあげるのは、エリーゼの望みであるからこその契約。クラウスは知る由もないだろうが。

 

 アンジェリーヌを助けてくれた関係者ならまだわかるが、クラウスについてはユリウスやイザック……誰からも味方だとは聞いていない。

 ベンジャミンがクラウスの側にいるならば、ユリウスは報告を受けているはずだ。だが、そんな話も無い。


「デールは()()()()信頼できます。絶対に、私を裏切ることもありません。なぜ殿下がそんな風に仰るのか、理解致しかねます」


 エリーとしては、こんな強い言い方をすべきではないと分かっている。

 ただ、デールが人間ではないと感じたクラウスには、下手な演技は通じない気がした。勘と言っていたものも含め、ルークのように何らかの能力があるのかもしれない。


「そう、か……。そんな顔しないでほしいな」

「あのっ、私は怒っているわけではありません」


 予想外にクラウスは傷ついたような顔をする。


「デールは信用されているんだね。ちょっと妬けてしまうよ」

「妬け……ですか?」


 エリーに一目惚れでもしていたのかとも思ったが、もっと奥深い悲しみが宿っているような気がした。


「本当はね、そっと見守るつもりだったんだ」

「私を、ですか?」


「なぜ?」と言う問いに、クラウスは笑うがそれに対して答えようとしない。


「どこにいても、貴女の為なら何でもしよう。たとえ負担に思われても、いつかきっとその意味がわかるから」

「私は……殿下に以前お会いしたことでも?」


 一応、エリーゼとクラウスは従兄妹になるが――。

 エリーとしてもエリーゼとしても、今回以外で神聖帝国の人間には会ったことなど無い。

 

(クラウスは、どこで私の存在を知ったのだろう?)


「うん、それは自分で答えを見つけてほしいな。私は、いくらでも待ち続けるから」

「いつまでも、ですか?」

「ふふ、私は辛抱強い方だからね。ああ……もう時間切れみたいだ」


 エリーが振り向くと、アダラールとベンジャミンがそれぞれ急ぎ足で戻って来る姿が見えた。


「デール」とクラウスは呼ぶ。


「何でしょう、殿下」

「エリー嬢が信頼するなら私も君を信じよう。何があっても()()()()守ってくれ」

「もちろんです」


『ハッ、言われなくても!』という副音声がエリーゼに届くと、クラウスはプッと笑う。

 エリーゼは、念話が聞かれてしまったのかとギョッとするが、どうやらそうではないらしい。


「匂わないが、君が不愉快なのは感じたよ」と、クラウスは言った。


(……匂い?)


 聞き返そうとしたが、残念ながらもう無理そうだ。


(クラウスは本当に味方みたいだけど、何者なんだろう? これは、母さまに訊いてみないと……難題だわ)



 それから、エリーの具合が悪くなったという理由で、皇都のお祭り見学は終了となった。


 アダラールはカタリーナの件で思うところがあったらしく、ロイド侯爵家での家出騒ぎが起こる前に、色々と根回しに動き出した。

 



 ◇◇◇◇◇




 ――後日。


 カタリーナが無事に修道院に到着し、生き生きとした日々を過ごしていると聞かされた。

 手紙での報告でなく……何故か、クラウス本人の口から、それも公国で。

 




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