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14. 邪魔者はいなくなったね?

「やはり、カタリーナ嬢に間違いなさそうだ」

「あれは誰かを待っているのでしょうか?」

「どうだろう……。馬車に乗る気配は無さそうだが」


 馬車を見て回る振りをしながら、ヒソヒソと話す。


 客待ちの辻馬車から少し離れた所には、いかにも貴族の送迎で待機しているらしい馬車が数台。カタリーナはそちらを避けるように歩いている。


 辻馬車の御者たちは、今の時間帯暇なのか、互いに情報交換よろしく立ち話をしているようだ。祭りの終わりの時間帯が近づけば、こんな余裕も無くなるだろう。


 カタリーナは、御者に声をかけられない程度の距離から、周辺をウロウロしていた。挙動不審にも程がある。


 誰かを迎えに来たのかもしれないが、令嬢自ら変装してとは怪し過ぎる。それに、大きな鞄は旅行へ行くようにも見て取れた。 

 だとしても、今はロイド家の状況は良くないし、旅行にはタイミングが悪いだろう。

 

「まさか、どさくさに紛れて駆け落ち……いや、家出か?」とクラウス。


「「え!?」」とアダラールとエリーは同時に声を上げてしまう。

 彼女の境遇を考えたら無いとは言えない。


「さすがに、貴族令嬢が一人でどこかに行くのは危ないんじゃないかな?」

「そうだな……念のため、声をかけてみるか」


 幸い、カタリーナが今立っている場所は、人目につきにくそうだ。

 アダラールは護衛に少し離れているように伝え、彼女に近づいた。


「カタリーナ・ロイド侯爵令嬢」

「ひゃいっ!?」


 アダラールが背後からフルネームを呼ぶと、カタリーナはビクンッと肩を跳ねさせ、素っ頓狂な声を上げた。

 それから恐る恐る振り返る。


「――ヒッ! で、殿下!? え、あ…… エグゼヴァルド公爵令嬢……!?」


 顔面蒼白とは正にこのことだろう。カタリーナは今にも倒れそうなくらい血の気を失い、膝から崩れるようにその場で土下座した。


「こ、この度は、誠に申し訳ありませんでした!」

 

 額に土がついてしまいそうな程、平身低頭でエリーに向かって謝る。


「あの、ちょっとこんな場で……カタリーナ様、どうかお顔を上げてください!」

「いいえっ! 私や妹がしたことは、許されるべきではありませんっ」


 はたから見たら、一人の令嬢を寄ってたかって虐めていると勘違いされそうだ。エリーゼは慌てて、認識阻害を発動する。


「その件に関しては、もう大丈夫ですから。それよりも……カタリーナ様はどこかにお出かけですか?」


 なかなか顔を上げてくれないので、話を今の状況へ無理矢理持って行く。

 もう一度ビクンと体を震わせ、ゆっくり顔を上げたカタリーナは、目にいっぱいの涙をためていた。


「わ、私……卑怯者ですよね。侯爵家が大変な時に、自分だけ修道院へ……」


 ヒック……ヒックと、しゃくり上げながら自分がしようとしたことを懺悔していく。これ以上、二人の言う事をきいて、他人を貶めるようなことをしたくないとも。


 やはり、カタリーナは妹に都合がいいように、他でも悪役を演じさせられていた。家族の機嫌を損ねると食事もさせてもらえない。心も体も色々と限界だったそうだ。


 閉じ込められていた部屋で、首を吊ろうとした瞬間――。


「お告げがあったのです」と、祈るように手を組んだカタリーナ。


「お告げ……天啓ということですか?」

「微かにですが『……愚かだな。死ぬくらいなら逃げればいい』と聞こえたのです。そして、誰もいないのに、部屋の扉が開錠されました」

 

 息を呑んだアダラール。その話が本当であれば、カタリーナは聖女の可能性が出てくる。

 だが


(……んん?)


 エリーゼは固まった。

 気付かれないよう、チラリと背後のデールを見る。確か、デールは様子を探りに彼女に何度か接触していた。もちろん、姿を隠して。


「ご自分が聖女だと?」


 クラウスは難しい顔をしてカタリーナに尋ねた。


「それはない……と思います。私には何の力もありませんし、悪いことをしてきました。これはきっと、最後に与えられた懺悔の機会です。ですから、修道院へ行き神に仕えたいと。政略結婚の道具にもなりたくありませんし…… 私、男性が怖いのです」


 カタリーナは誰かを待っていた訳ではなく、男性である見知らぬ御者に話しかけられず、右往左往していたらしい。


「では、このまま本当に修道院へ?」

「はい。もしも……見逃していただけるのなら」

 

 懇願するよに皇子たちを見た。


「神の思し召しなら、従うべきじゃないかな」


 迷うアダラールに、クラウスは言った。こういう時、神聖帝国の皇子の一言は重い。


 無理に連れ戻したら、カタリーナはどんな罰を受けるか分からないのだ。婚約者でもない令嬢に、皇子が下手に肩入れするわけにもいかない。腹を決めたアダラールはクラウスを見た。

「それなら!」とクラウスはニコリとする。


「どうせなら、私の知っている良い修道院を紹介するよ。紙とペンはある?」

「え、は、はい! この中に」


 カタリーナから渡された紙に、クラウスは紹介状を書いた。


「じゃあ、アダラールは少し護衛たちを引き離してくれないか? エリー嬢が気分が悪くなったことにして、休める場所の手配を。その間にベンジャミンは、カタリーナ嬢を信頼できそうな御者の馬車に案内して。ベンジャミンは、そういったの得意だよね? エリー嬢とデールは、ここで私と待機だ」


 テキパキとクラウスは指示を出す。

 学友だったせいなのか、アダラールは指示をすんなりと受け入れた。クラウスをかなり信頼しているらしい。


 アダラールがこの場を離れると、何度もお礼を言いながら、カタリーナはベンジャミンについて行った。




「さて。これで邪魔者はいなくなったね」


 残ったエリーとデールに向かって、クラウスは微笑んだ。

 

 


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