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12. 二度目のお祭り体験

 祭りに行くと返事してはみたものの――エリーゼが想像していた行き方とは大分違った。



「よし、これで支度は整ったね」


 魔道具で髪と瞳の色を変え、満足そうなアダラールとクラウス。


(上手く、魔道具が機能してくれて良かったわ)


 二重の変装になってしまったエリーゼは、ルークの魔道具との相互作用が不安だったが、問題なく発動してくれホッとした。


 悟られないよう、チラッと皇子たちに視線をやる。


 エリーゼとしてなら民衆に溶け込む自信はあるが。今は姿は変えてもエリーらしさを残さなければならないし、それぞれの国の皇子に至っては、目立つ顔立ちや醸し出される雰囲気は高貴な身分だとよくわかる。

 

(平民ではなく、下位貴族の設定ってことらしいから……まあ、いいのかしら)


 お祭りに行くメンバーは、アダラール、クラウス、エリー、それからエリーの護衛件お付きとしてデール、クラウスの護衛ベンジャミンの五名。

 その他、アダラールの近衛騎士が数名姿を隠して護衛につくそうだ。


 デールとベンジャミンは、外見はそのままで服装だけ合わせてある。

 クラウスの希望で、友人同士でお祭りを巡っていることにした。その方が人混みでも、より近くで自然と護衛も出来るだろうからと。


 様々な設定を作る皇子たちは楽しそうなので、いざとなったらエリーゼはこっそり認識阻害を発動すればいいと、とりあえず発言せず成り行きを見守る。


「せっかくだから、呼び名も変えようかと思ったのだけど。そうそう気軽に我々の名を呼べる立場の者はいないだろうから、このままで行こうと思う」


 皇帝や皇后、皇太子の顔は知らない者はいないだろうが、皇族全員の顔をハッキリと覚えている者は少ない。名前が同じでも、すぐに皇子を連想しないだろうと。


「そうですね」とクラウス。


 神聖帝国のクラウスや、公国のエリーはもっと知られていない。


「それに……エリー嬢にちゃんと名前を呼んでもらうチャンスだからね」


 アダラールはエリーに近づくとニコリとした。

 一瞬、デールとベンジャミンが半歩前に出たが踏みとどまる。

 

(ちょっと殿下たちは面倒だけど)


 友人役とはいえ、久々にデールとベンジャミンが並ぶ姿が見られ、エリーゼは嬉しくなった。自分も昔みたいな態度でいたいが、流石にそれは無理なので仕方ない。


 それから――。


 馬車では目立つので、普段アダラールがお忍びで都へ行く方法を使って祭り会場へ向かった。




 ◇◇◇◇◇




「お待ちしておりました、皇子殿下」


 使用人らしき人物が出迎える。

 スクロールで転移した先は、アダラールの側近のタウンハウスの一室だった。

 慣れたもので、アダラールはかなりの頻度でここを使い、民の暮らしを見に来ているようだ。


「ここからなら、会場のメイン広場が近いから徒歩でいけるよ」


 女性関係が派手そうな第三皇子なら、堂々と豪奢な馬車で乗りつけ、買い物なり何なりしそうなものだが。野心家には見えなし、忍んでやって来る理由がいまいち解らなかった。

 

(なんだろう、少しイメージと違うわ)


 タウンハウスを出て少し歩くと、一気に人が増え、音楽が流れ賑やかで、中央広場に近づくと美味しそうな匂いも漂ってくる。


「お店がいっぱいですね」


 エリーゼは率直な感想を述べる。

 当たり前だが、北部の小さなお祭りとは規模が全く違う。


「ああ、結構な有名店も出店しているんだ。この祭りの時だけは、あまり身分も関係なく皆が楽しめる」


 一時的な露店とは思えないクオリティーの高さの店もあれば、庶民的な店もある。アダラールは自慢げに、エリーとクラウスに説明しながら歩いて行く。

 宮殿でのパーティーより、余程こちらの方が楽しめそうだ。


「へぇ。随分と珍しい国も出店しているんだね」と、クラウスは言った。


 クラウスが足を止めたのは、エリーゼが懐かしさを覚える品が陳列された店だ。


(こっちの世界で見るのは二度目ね)


 今世では一度も目にする機会がなかった、東の国の名産品。漆塗りの、金箔がちりばめられ椀や盆。着物に似合いそうな巾着まで売っている。

 鼈甲(べっこう)の簪を近くで見ようと手を伸ばしたが――胸が苦しくなり、取るのをやめた。


『どうした?』

 

 心配そうなデールの声が頭に響く。

 こんな些細な感情の揺れにもデールは気づくのかと、エリーゼは驚いた。


『何でもない。ちょっと懐かしくて……感傷的になっちゃったみたい』

『ならいいけど、何かあればすぐに言えよ』

『ありがと』


 誰にも知られることのない声無き会話。

 なのに、ふとクラウスの視線を感じた。すぐに逸らされたが。


(気づかれた? まさか……ね)


 エリーゼは気を取り直し、アダラールの説明にまた耳を傾けた。


「誕生祭に呼ばれた国は、申請さえ通れば出店できるからな。他国とのいい文化交流になる」

「こういう所が、マージ帝国はいいよね。うちの国では、とてもじゃないが難しいよ」


 神聖帝国は独特の文化がある。

 クラウスはマージ帝国に留学経験もあるらしく、柔軟な考えの持ち主のようだ。今のところ、エリーに対して変なことも言わず、友人らしい感じで自然に接してくる。


(用心に越した事はないけど。みんな周囲に溶け込んでいるし、認識阻害も必要なさそうね)


 デールとベンジャミンも、友人ぽく会話しているようだ。


「そうだ!」とクラウスは何か思いついたのか、アダラールに耳打ちする。アダラールは頷くと、エリーを振り返って言った。


「ちょっと飲み物を買ってくるから、エリー嬢はあっちで休んでいて。デールとベンジャミンは残ってエリー嬢を護ってくれ」と。


「ですが」とベンジャミンはクラウスの護衛なので、離れることに抵抗を見せる。それなら自分が買いにいくと。


「大丈夫。アダラールが一緒なら向こうの護衛がいる。こっちは、デールだけじゃ心配だからね」


 ベンジャミンは、デールとエリーゼの実力を知っているが言えるはずもなく……。おかしな勘が働く主人が何をしようとしているのかは理解できないが、命令ならば受け入れるしかない。


「何かあればすぐにお呼びください」


 それぞれ防犯用魔道具を持っているので、連絡はすぐにつくようになっている。

 アダラールとクラウスが離れると、隠れていた護衛の気配も遠のいた。


「では、向こうで待ちましょうか」とデール。

「そうですね」とベンジャミン。


 誰が聞いているか分からないから、当たり障りのない会話。それでも懐かしい感覚に笑みが浮かぶ。


「今日は来てよかったわ」

「おれ……私も、です」


 ベンジャミンの目元がほんのり赤くなった。


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