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6. 警戒すべき国

 皇帝陛下への謁見は、形式的な挨拶だけで簡単に済まされた。


 普通なら皇帝の前に立つだけでも畏れ多く、その僅かな時間さえ緊張の地獄だが、自分が呼ばれた意図を知りたかったエリーゼとしては呆気なく感じてしまう。 

 誕生祭直前の忙しいスケジュールの合間を縫っての謁見。公国は帝国から独立した国なのだから、無理してまで時間を取る相手ではないのだろう。


 謁見の間を出ると、来た時と同じ広い廊下を通り、泊っている宮へと向かう。

 使用人だけでなく、たまたま皇宮に居合わせた貴族たちの視線を浴びるが、ユリウスは慣れっこなのか全く気にならない様子だ。

 エリーとしてなら、少し怯えて見せた方がいいのかとも思ったが……気にしないことにする。


(ま、もう謁見も終わったしね!)


 皇帝は表情や口調は穏やかだったが、本当にエリーに興味があるのかよく分からなかった。感情が全く見えない瞳は、巨大な国を支配する者ならではの目なのかもしれない。


(今のところ、見下された感じも受けないし。メインは誕生祭での挨拶だものね)


 誕生祭では、招かれた各国の代表者がその場で祝い品を献上し、祝辞を述べる。そして皇帝からお礼の言葉を賜り、代表者はそれを国に持ち帰るのだ。


 そんな外交的な含みのある場面に、エリーはユリウスと共に一緒に前に出るよう言われてしまった。政治的な意味があるのか、エリーを見せ物にすることが目的なのか。


(デールは皇帝をどう見たかしら?)


 戻ったら感想を聞きたいと思った。デールは契約者であるエリーゼと繋がっているから、さっきのやり取りも見ていた筈だ。何らかの力によって阻まれないかぎり。


 ふと、ユリウスが歩く速度を落とす。


「その後、アダラール殿下から接触はないか?」


 人の気配が無くなったので、ユリウスは演技っぽさの抜けた口調で話し掛けてきた。


「特にありませんね。毎日お部屋に……素敵なお花が届くくらいです」

「ああ、それは報告を受けている」


 ロザリーはエリーの状況を、逐一ユリウスに報告する義務を担っている。エリーゼが自分の身を守る実力があっても、それだけではダメなのだ。

 

 帝国にやって来た初日、アダラールに待ち伏せされたことをユリウスに伝えると、ある程度予想していたらしく「やはりか」と呟いた。

 元帝国民であったエグゼヴァルド家が、未だ警戒を怠ってはいけない所なのだ――マージ帝国は。


「メッセージカードには、パーティーで会うのを楽しみしているとだけ書いてありましたが……」


「そう緊張することはない。可愛いエリーには、この父がついている。パーティーでも気分が悪くなったらすぐに言うのだぞ」


 唐突に、娘溺愛モードの話し方に戻るユリウス。


(え?)


 エリーゼは鋭く辺りに神経を向ける。

 近くに微かな違和感を感じた。人の気配や魔物であればユリウスよりエリーゼの方が先に感知できるが、人工的な魔力だとそうもいかないのだ。

 デールの力を纏うと些細なものでも感じられるが、黒いモヤが出てしまうので人前では使えない。


(どこかに……監視用の魔道具でもあるのかしら?)


 パッと見渡したくらいでは見つけられないので、ユリウスに合わせおくことにした。エリーゼは、エリーとしての演技を続ける。


「はい。私はまだまだ未熟なので……正直に言うと不安です。ですが、お義父様が一緒にいてくださるので! 失敗しないようダンスも頑張ります」

「そうか。エリーはやはり私の娘だな」


 目を細めるユリウスに、会話だけではなく姿も見られてるのだと察した。


(もしかして、私の部屋にも監視用魔道具が仕込まれてたりするのかしら……まさか、ね?)




 ◇◇◇◇◇

 



『あるな』

『え……あるの?』

『ああ、盗聴されてるだけだけどな』


 デールはあっさり嫌なことを言う。


『ちょっと、そういう事は早く教えてよね』

『まずそうな時は、ちゃんと妨害してるから問題ない』


 もともとデール以外の人が居るところでは、エリーであることを徹底してる。帝国に来てからは尚更だ。

 デールとの会話は声に出す必要はないので、デールの言う通り問題はない。


『盗撮みたいに、常に見られているんじゃなくて良かったけど……』

『もしそっちなら、先にぶっ壊しとくし』

『頼もしいわね』


 着替えまで覗かれていたら――と思ったら、流石に気持ち悪すぎてエリーゼは顔を顰めてしまう。

 持て余した時間、読書しているよう見せかけてデールと会話していたので、本で顔が隠せて良かったと思った。


「エリーお嬢様、お茶のおかわりはいかがですか?」

「ええ、いただくわ」


 顔を上げロザリーを見上げると、ニコニコとお茶を注いでくれる。


 ロザリーの向こう、デールは扉付近の花瓶の横に立つと『この花瓶の中に隠してあるぞ』と声に出さずに言った。

 エリーゼは小さく頷く。


『気をつけるべきは、お義父様との会話よね』

『ま、ユリウスなら気づいてるだろ。なんならロザリーもな』

 

 デールはニヤリとした。


『わざと盗聴されているってことね』

『だろうな。寝室には無いから安心していいぞ』

『…………それ、あって言わなかったらデールのこと嫌いになるからね』

『だ、大丈夫だって! あったら言うからっ』

『絶対よ』


 とエリーゼはデールを軽く睨んでおく。


(冗談はさておき……)


 毎日、部屋の担当メイドが花瓶の花を入れ替えている。

 魔道具が仕込まれているなら、メイドが回収し新しい物を設置しているのだろう。録音タイプの魔道具なら、誰でも手に入り足もつきにくい。


 初日から飾られていた花は知らないが、毎日届く花は第三皇子アダラールからだ。つまり、盗聴しているのは――


『本当、気分が悪いわ』

『ダンス申し込まれたら、しっかり足に穴でも空けてやるといい』

『そうね。ヒール折れないように補強しておいて』

『任せとけ! ついでに鋭く尖らせておいてやる』


 デールは面白そうに言うと、指で花を軽く弾いた。






 


 


お読みいただきありがとうございます!

だいぶ期間があいてしまいました。

申し訳ありませんm(__)m

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