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5. やって来ましたマージ帝国

(さあ、気を引き締めないと)


 ユリウスがビリッとスクロールを破ると、煌々と輝く転移陣が浮かび上がり、壁面にペタリと貼りついた。

 このタイプの転移陣を初めて見たエリーゼは瞠目する。変形した陣は、まるで壁に大きな門が描かれたかのような状態になり、眩しさが少しずつ弱まっていった。


(すごい…… 薄々は感じてはいたけれど、帝国の魔法はかなり発展しているみたいね)


 各国の魔塔で、魔力が少なくても使える魔道具研究しているという話は有名だ。

 公爵邸にある生活魔道具も様々だったが、スクロールに描かれた魔法陣には、複雑な模様がいくつも組み合わさっていた。

 ルークのように稀有な能力を持つ者は珍しいだろうが、大きなマージ帝国では研究者も多く、他国から手に入れた技術もたくさんあるのだろう。

 

 エリーゼ自身が平民のまま、貴族に関わらなければ知ることもなかったかもしれない。

 

「では、行こう」

「はい」


 エリーゼはユリウスにエスコートされ、先に門に入った。その後から、ロザリーとデール、護衛のエリーゼ(幻影)に、荷物を積んだ馬車がゆっくりと門をくぐる。




 光の(ゲート)を抜けると――。


 そこはだだっ広い庭園で、背景には立派な宮殿がそびえ立っていた。落ち着いた雰囲気の公城とは違う、眩しいくらいの豪華さだ。

 ずらりと並ぶ使用人が丁寧に頭を下げて、エグゼヴァルド公爵一行を待ち構えていた。


「ようこそお越しくださいました」


 いかにも高位貴族らしい出立ちの人物が前に出て、ユリウスに挨拶を済ます。

 ただ、一緒に居るエリーの方は見ようともしない。


(なるほどね。平民上がりに挨拶は必要無いってことね)


 マージ帝国の貴族は、公国のように好意的ではないだろうと、ある程度は予想していたが。


(わかりやすいわね。パーティーでもきっと……)


 エリーゼは、ユリウスの背後に控えめに立ちながら、この貴族の男を観察する。

 もともと知り合いなのか、互いに名乗らないのでどちらが上なのかは分からない。

 だが、ユリウスがエリーを紹介しないということは、取るに足らない人物なのだろう。


 二人は、和やかな雰囲気で談笑していたが――それも束の間。

 男がユリウスにそっと何かを耳打ちすると、一瞬だけユリウスの纏う空気がピリつく感じがした。眉根を寄せたユリウスはチラリとエリーを見る。


(どうしたんだろう?)


 不思議に思っていると、エリーゼたちが泊まる宮を統括している執事が声をかけてきた。


「それでは、ご滞在いただきます宮へご案内いたします」

 

 先ずは部屋に通され、暫くしてから謁見の間に案内されるようだ。


「エリー、悪いが先に向かっていてくれ。私は会わねばならいない者がいる」

「承知しました、お義父様」

「ああ、それと……。見知らぬ者に声をかけられても、相手にする必要はないからな」

「はい」


 とりあえず返事はしてみたものの、見知らぬ者が誰なのか検討もつかない。

 けれど、ユリウスの言った「相手にする必要はない」人物が、目の前でエリーを見下している貴族にも当てはまるのだと察した。


(だから、わざと私を紹介しなかったのね)

 

「お義父様、それでは後ほど」と、ドレスを摘みお辞儀をすると、先を歩く執事の後について行く。

 エリーゼは、周囲の使用人に気付かれないよう、デールに視線を送り念話する。


『お義父様の言った、見知らぬ者って誰かしら?』

『さあな。ただ、ユリウスが気に入らない奴が居るんだろ』

『まあ、そうよね。近くに誰か居そう?』

『ああ……居るな。あの噴水の向こうから、こっちの様子を窺っている』

『面倒な人じゃないといいけど』

『無視していいってことだから、放っておけばいいだろ』

『そんな簡単にいくかしら?』


 警戒しながら噴水までやってくると、その先にある薔薇のアーチの下に人影があった。

 さも、今やって来たばかり……といった感じで、こちらに向かって歩き出す。


『あの人よね?』

『だな』


 スラリとした体型に、柔らかそうな髪を後ろで結いた美青年。薔薇に囲まれた姿がとても様になっていた。


「あれ……君は?」


 美青年は、澄んだ声でエリーゼに向かって話しかけて来た。

 執事はこの人物の登場が予想外ではなかったのか、ごく自然に「これは、皇子殿下」と頭を下げる。


(皇子……って! 無視しちゃマズい相手じゃない)


 しかも、こちらから名乗らなけばならない流れだ。エリーゼは仕方なく、丁寧にお辞儀する。


「皇子殿下にご挨拶申し上げます。私は、エリー・イブ・エグゼヴァルドと申します」

「ああ……君が! エグゼヴァルド公爵の養女になったという令嬢だね」

「さようでございます」


 皇子は、美しい笑みを浮かべ「本物の妖精が居たのかと思ったよ」と冗談めかして言う。


(妖精……)


『キザだな』と、小馬鹿にしたようなデールの声が頭に響く。


「僕はこの国の第三皇子、アダラールだ。こうして出逢えたのも何かの縁だね、エリー嬢」

「第三皇子殿下、光栄なお言葉をありがとう存じます」

「そんな堅苦しくしないで、名前で呼んでほしいな。これから()()()してほしいから」


 サラッと言うと、エリーゼの手を掬い上げ、甲にチュッとキスを落とす。


「あ、あの……殿下っ」


「アダラールだよ。次に会う時は名前呼んでね」と軽くウインクする。


 戸惑うエリーの姿に満足したのか、「またね」とひらひらと手を振って去って行く。


 エリーゼは確かに戸惑ったが、ぽわんとした表情は作ったものだ。アダラールが、それを望んでいたようだったから。

 普通の令嬢ならイチコロだろうが――エリーゼの内心は冷え冷えとしていた。


『何なのよ……あれ』

『ユリウスが相手にするなって言う訳だな』

『また、彼とパーティーで会うのよね……絡まれる予感しかしないわ』

『だろうな』


 無視できるものならしたかったと、エリーゼはしみじみ思った。


(偶然をよそおってまで、私に近付いた理由は何かしら……)



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