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9.⭐︎ハイデリウスの事情

※ ハイデリウス殿下視点です。

 (読み飛ばし可)

 ちょっと暴力シーンがあります。

 苦手な方は読み飛ばしてくださいませ。

 僕はこの国の第三王子ハイデリウス。


 兄上達には悪いけれど、僕は一番王妃であるお母様や国王であるお父様に愛されている。


 寝ている時に、頭を撫でに来てくれたり、抱きしめて添い寝をしてくれてたり。

 きっとお母様に似た容姿のおかげかな?濃い金髪はくるくるっとしていて、サファイアのような緑の瞳はいつも褒め称えられた。いつもニコニコと微笑む僕は、天使のようだと言われていた。


 僕に比べて兄上達は、お父様に似て厳ついからなぁ~。


 そんな僕は小さい頃から頭も優秀だったようだ。


 兄上達と違って、教育係に叱られることはないし、なんであんなに机に齧り付いているのかが不思議になるくらい、僕は齧り付かなくても出来ていた。


 そっか、僕の頭の出来が良いんだなぁ。こればっかりは仕方ない。恨まないでおくれ。兄上達。



 幼い日の僕は、教育係が持ってきた絵本が一番の気に入りだった。


 虐められていた女の子が、魔法使いに助けられて綺麗になって王宮の舞踏会に来て、王子と出会うお話だ。その絵本の王子は僕みたいだったし、女の子は可愛く描かれていた。


 いつかこの絵本の様に、僕は女の子と出会って恋に落ちたい。国中探し回ってでも一生涯の愛を捧げる相手を見つけるんだ。僕だけの妃を見つけなきゃ……!



 だって僕はあの絵本と同じ、正真正銘の王子なんだから。



 だけど、少し成長した時にお母様が連れてきた「婚約者」は、あの絵本の様な可愛い子ではなかった。


 赤みがかった茶髪に、濃ゆい紫色のちょっと吊り目は生意気そう。




 ………………可愛くないよ?




 ふわふわの金の髪の、守ってあげたくなるような子じゃないよ?大人みたいに挨拶しちゃってさー。


 きっと将来アレになるんだ。お母様に言ってあげなきゃ!



「オニババー!」



 お母様に訴えたら、すぐにでも別の子になると思ったのに、あろう事かそいつは僕の手を叩き落とした。信じられない!王子である僕を叩くなんて!



 僕はお前なんか大っ嫌いだ。絶対認めてなんかやらないっっ!



 そうして僕はあいつを認めないと示すために徹底的に無視し続けた。手紙も読まずにプレゼントも一緒に捨てたし、誘いも断ってやった。贈り物をしろと言われたけれど、絶対に贈らなかった。



「殿下がお決めになったことが全て正解であり、従って当然でございますれば」



 僕の教育係もそう言う。ほら、やっぱり間違っていない。僕は正しいんだ。


 お母様が、あいつのドレスをお針子に作らせていたのを知った時は、優しすぎるのも困りものだと思ったものだ。



 こんなに無視し続けているのに、あいつはめげずに王宮へとやってくる。

 時折合わす顔は、成長してもやっぱり好みじゃない。式典で隣に立った時に、腕を組んだ時に尚更思った。


 もっと小動物みたいに目がクリッとしていて、儚げで華奢な娘がいいのに。



 その時僕は閃いた。



 お母様が他の娘を見つけられないんなら、僕が見つけに行けばいい。あの絵本の王子様だって、舞踏会で国中の女の子を呼んだじゃないか……!



 だけど僕の名案はすげなく却下された。「馬鹿を言うな」と王太子になった兄上が。僕のこの閃きを理解しないとは、凡人だからだろう。仕方ない。


 よし、集められないなら、僕が探しに行けば良いんだ!


 何やら仕事?と言われたけれど、そんなのいっぱい文官が居るんだからやらせとけばいいじゃないか。

 知った事ではない。取りすがる侍従を振り払って教育係が推薦してきた側近候補を引き連れて、あちこちの夜会や王都へと繰り出した。



 そこで出会ったのが僕の運命の相手、男爵令嬢のヘザーだ!

 ふわふわ金髪、ぱっちりとした目は晴れた空の色。小さくって細い肢体。



 僕の理想が城下町の食事処に居た。



 話を聞くと、家の為に働きに出ているとか。

 なんて健気なんだ!こんな小さくって華奢なのに働かせるとは……もしかして家族に虐められているのでは?!



「もう安心していい。僕が君を守ってあげるよヘザー」

「殿下……!でも、あのっ」

「気にしなくていい。どうかハリーと呼んでくれないか?」

「は、ハリー、様…いけませんわ、婚約者がいらっしゃるのでしょう?」



 涙を溜めて僕を見上げるヘザーは、なによりも愛しくって。引き寄せて抱き締めると、おずおずと背中に回される弱々しい手。



「大丈夫。婚約は破棄して、君を妃にするから」

「ハリー様!う、嬉しいっ」



 あぁ、可愛い!我慢ができなくって、僕は胸の中のヘザーを少し離して覗き込むと、口づけを落とす。



「ハリー様……」

「ヘザー……僕の唯一の姫」

「殿下、宜しければここの2階は粗末ですが宿泊できる客室となっております。ここでは何ですから、是非ご利用ください」



 僕の側近候補はとても気が利く。その勧めに従って、僕は二人で客室へと向かった。


 ソファーもないその部屋で、硬い寝台の上に並んで座って、時間を忘れてお互いのことを話し合った。



 夢のようなひとときだったよ。



 真実の愛を手にした僕は、この愛を貫くために忌々しい婚約者との婚約破棄を考えた。



 いつも僕の考えに賛同する側近候補は「まだ時期が早いのでは」と焦った様子で止めてきた。どんな時期だ?


 僕が決めた事は全て正解なのだろう?

 理解出来ない奴は置いていくとしよう。


 僕はヘザーの手を取って、普段あいつがうろついていると言う文官棟を目指した。



 久しぶりに見下ろした婚約者は、顔色が悪くて見窄らしく、どことなくやさぐれている印象を受けた。


 まぁ、初対面で僕を叩く様な女だ。こんなものだろう。なのにあの女、俺を貶し、貶めてヘザーをも貶めた……!許せんっ!!


 そう思っていたのに、あいつはその場の男を見繕うと悠然とした態度で去っていった。



 ふ、不敬罪だ!



 僕は直ぐにお父様とお母様に面会を求めた。

 あいつを罰する為に。



 だけど返ってきたのは



「この馬鹿者!!!」

「ぐぁっっ!!!」



 頬に突き刺さる様な、強烈な一撃だった。

 厳つい見た目ながらも温厚だったお父様が、怒りも露わに僕を殴りつけた。



「なんて事……!!」



 お母様は殴り飛ばされて地べたに這いつくばる僕に声をかけてくれる。お母様だけは何処までも僕の味方



「何故破棄など、あの様な場で言ったのです!!」




 ………………え?お母様?




「あぁ、レイ……申し訳ないわ」

「我が忠実な臣下の集まる棟で、よくも私の顔に泥を塗りたくってくれたものよ。病弱だから、末っ子だからと甘く見たのが悪かったか……」

「私も、公務と次期王妃、王子妃教育に忙しくてハイデリウスの教育を任せきりでしたわ。申し訳ございません」

「ハイデリウスは部屋へ軟禁しろっ。それとなんだそこな娘は……?」


「ゎっ、はい、あ、、、私はっ」



 一緒に連れてきていたヘザーに、やっと気づいたお父様が問うと、ヘザーは僕が目の前で殴られた恐怖でか、青い顔で震えながらすくみあがっていた。



「お父様、ヘザーは僕の真実の愛の相手でっ」



 僕が床にへばりつきながら言えば、睨みは一層鋭くなった。



「衛兵っ、この娘を牢へ入れておけっ!取調べは迅速にしろ!」

「えっ、何、なんでっきゃっっハリー様!」

「ヘザー!!」

「ハイデリウス殿下、自室へお連れします」

「やめろ離せ!!僕を誰だと思っている?!お父様、お母様っっ!!!ヘザー!!」



 どうして……王族である僕は全てにおいて正しいのでは無いのか。だってそう言っていたじゃないかっ。



「ハイデリウスの身辺を改めて調査しろ。あの場で破棄を言ってしまった以上、継続は難しい……穏便に済むようにまずは情報収集を急げ」



 力づくで両腕を抱えられて引きずられる様に連れ出される中で、お父様の指示が遠くで聞こえた。




 僕は間違っていたのか?どこから間違っていたのだ……?





 軟禁された翌日には婚約は破棄ではなく解消となったと知らされた。僕は療養という名目で小さな離宮へ移された。


 そこで色々聞かれた。


 自分が認識している立場と置かれている状況。

 皆からどう思われていると思うか。

 どうしてそう思うに至ったのか。



 暫くして、1人の厳しい目つきの中年男性と、騎士が2人やってきて、中年男性が言った。



「ハイデリウス殿下。貴方様は確かに王族であり尊き方々の一員ではございますが、それ以外は全て間違って認識しておられます」



 僕は小さい頃病弱で、お父様とお母様に心配されていた為に寝床を共にすることがあった事。

 病弱であるが為に勉強は、兄上達とは違って帝王学は免除されていた事。

 皆貴方様の健康状態に安堵して、見つめていただけである事。

 王族であろうと全て是とするものではない事。



 僕の信じていた全てが、根底から崩れ去っていく。



「だって……そう教えて、賛同してくれていたじゃないか……」

「貴方を傀儡として手中に収め、甘い汁を吸おうとしていた輩が居ましてね。教育係、勝手に推薦して傍に侍っていた側近候補、侍女数名全て捕らえました」


「えっっ」



 僕はどうしたら?何を信じたらいいんだ……?



 何が正しくて何が悪いかわからない。だって僕はいつだって全て肯定されて、敬われて生きてきた。




 ……いや、1人だけ居た…………僕を否定した奴が。



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