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10.

 私はオーウェンとの結婚を回避すべく、色々と考えていた。



 お父様が乗り気である以上、どんなにお願いしても無理だろう。何せ、元凶はこの私なのだから、そんな話が通るわけがないわよね…。



 となると、家ではなく個人的な理由による破棄、解消しかない。


 経済上の理由は遥か上空を飛び越えてきてしまったから、一番手っ取り早いのは……やっぱり修道院かしら?好きな人が居るって言うのは……微妙よね。

 後は病気や怪我、身体的理由で結婚が不可能だと思わせる事くらい……



「そうね……」

「お嬢様、何かおっしゃいましたか?」

「よし、片っ端からやってみましょうっ!」

「あ、あの??」

「私、とりあえず神様に嫁ぎますわっっっっ」



 私は胸の前で手を組んで祈りを捧げるポーズを取ると、シェリは無言で額を押さえていた。



 こうしちゃいられないわと、早速我が家が寄付をしている修道院へと手紙を認めると、2日後に返信が届いた。




 [ご訪問、心よりお待ち申し上げております]




 やった!


 これで私は難なく回避出来るかもしれないっ!そう思ってウキウキと訪問の日程と感謝を綴った手紙を再び送ったのだった。







 修道院訪問日。


 王都郊外にあるセント・クレバンス女子修道院は、きっちりとした戒律が敷かれていて、一度入った者は身分関係なく、世俗から離れて神へと奉仕することが求められる。

 祈りと労働だけでなく、認められた修道女は学問を学ぶこともできるのだとか。


 ここに入る貴族の娘は、色々と問題があると判断された令嬢か、信心深い特定の家、またはこの学問が目的であることが多い。




「ようこそいらっしゃいました、バーミライト侯爵令嬢様。本日は私、シスター・オハラがご案内いたします」

「ありがとうございます。私の家が寄付しているという修道院を一度見てみたかったのです。お困りごとなどはございませんか?」

「ご配慮感謝申し上げます。皆様のお心遣いにより、恙無く過ごすことが出来ております」

「そうですか……」



 賄賂を渡して、生活の安寧を図る作戦は失敗のようだ。仕方なく、思い切って本題をぶつける事にした。



「私、色々ございまして……神様へ祈りを捧げる道に興味を持ちましたの。是非皆様の生活をお教えいただければと……!」

「な、成程。お気持ちは大変よくわかりました。ですが、侯爵令嬢様が耐えられるかどうか……」

「私、我慢強く、努力は惜しまない質なので、大丈夫です!」

「そこまで仰るなら……ご案内いたしましょう」



 シスター・オハラと共に、私は呆れ顔のシェリを引き連れて修道院の中を静かに歩く。



 清廉な空気、年代を感じさせるけれど丁寧に清められた荘厳な建物。

 私が求めていたのはこれなのですわっ!


 望んでもいない妃教育に明け暮れ、バカ王…ゲフンゲフン…元婚約者の尻拭いに奔走し、奴の侍従に泣きつかれて、押し付けられた公務代行に忙殺された日々。


 長年耐え続けて抜け出た先に待ち受けていた落とし穴(※自作)に嵌った日。


 この清廉な空気で荒んでいた心が、綺麗に洗い流されるようだわ。



「こちらが礼拝堂です。早朝に清掃を行い、皆で祈りを捧げます。昼食後と夕食後にも同じく祈りを捧げます。その後にまた清掃を行います。年に一回、8日間の黙想もここで行われます」

「なるほど……!とても素敵な礼拝堂ですね。神様を身近に感じるようですわ…」



 早起きと徹夜には自信があるわっ!掃除はしたことないけれど、余裕よね?きっと。

 8日間の黙想って、黙って祈る事でいいのかしら……



「続いて此方が個別の祈祷室です。入信したての修道女が、先程の礼拝とは別に一日3時間ほど、監督生に見守られながら祈りを捧げます」

「……な、成程。祈り方までご指導いただけるのですね」

「ここでは主に今まで浸っていた俗世と別れを告げるため…でございますね」



 俗世とのお別れに一日3時間。しかも別で?お祈りが1時間ずつとして計3時間あるから、合わせて6時間?


 祈りすぎじゃ……ダメ、ダメよアデレイズ!神様の花嫁を望む私がそんな事では……!




「続いて、此方が農園と奥に見えますのが工房になります。敷地内で育てた作物をあちらの工房で加工や調理を行います」

「…………なる、ほど。力作業も修道女の皆様でなさるのです……よね」

「えぇ、もちろんです。此方は男子禁制となりますので」

「余った食材は、近くの孤児院や病院と言った施設に身を寄せる方へお配りしております。工房二階では、教会でお配りする聖書の写本作業なども行っております」


「素晴らしいですわ!」



 書類仕事なら慣れているわ!写本も似たような作業よね?きっと。偶には聖書以外の書き写しも出来たりするのかしら?麦とかの収穫とか加工よりもずっと私向きだと思うわっ。



「続いては食堂でございます。宜しければ本日のメニューなどをご覧になりますか?」

「まぁ!是非お願い致しますわ!」


「こちらが本日の夕食のメニューでございます」

「………………えっと」



 夕食と見せられたのは、ワンプレートに、サラダ、丸パン1つ、小さなカップに入れられた人参ジュース(?)と野菜を固めて焼いたお団子の様な何かが乗っていた。え、少なくないかしら?



「…………えっと、肉類は」

「殺生は厳禁でございますので、全て野菜となっております」

「……と言うことはチーズとかも」

「ございません。卵もです」

「な………………るほど」



 彩はとても良いのだが、今までの食事からすると、とても満ち足りる量と質とは思えないのだけれども。あ、清貧だから、満ち足りちゃダメなのね。



「美食でストレス発散をしていたお嬢様には、菜食主義は難しいのではないでしょうか」

「慣れればなんとか…シスター・オハラ、入信についてはどの様な手続きが必要でございますか?」


「お気持ちが変わらないと言う事であれば。まず洗礼を3年以上前に受けている事、健康体である事、私財全ての放棄。そして神様への献身が本物であるかでございます」

「献身が本物か……ですか?」


「はい。色々な事情で入信する人は多いです。なので、神様への思いが真実であるか見極めるために、志願期で入信体験を1年致します。次に2年の修練期を経て、初誓願として1年かけて清貧、貞潔、従順を誓います。そして1年ごとに誓いを更新する有期誓願期の後に、全てを神に捧げる一生の誓いを立てて、終生の誓願を宣立します。つまり、5年は見習いと言う形となります」


「ごっっ、5年っ」



 わ、私に出来るのかしら。

 私はまるで聳え立つ壁の前で、その果てのない高さを呆然としながら見上げる気持ちになっていた。


カトリック修道女の一日を参考にしておりますが、実際のルーティンではもっと祈っておられる様です(驚愕)


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