すっかり安心していたというのに
メアリには前回の記憶が残っていない。
それはルカにとって嬉しい誤算だった。
前の人生のメアリだってもちろん好きだったけれど、今回は格別だ。
伯爵家を通してでないルカを見てくれたのは今回のメアリが初めてだったのだ。
あの可愛らしい表情を思い出してルカは悶えた。きっと何度でも彼女を好きになれる、と。
時は流れ、学園の入学の時が訪れた。ルカはあくまで自然にメアリに近づくつもりだった。
メアリが七時三十分ごろ校門を横切るのが分かっていたので、時間を合わせて登校する。
メアリの姿を目で探すと信じられない光景が広がっていた。
(は?)
レオ・ギルベルトだ。
メアリの幼馴染、レオ・ギルベルトがメアリに纏わりつき、あろうことかメアリも笑顔で……二人並んで仲良くおしゃべりしながら歩いてくる。
濡れ羽色の黒髪をもつレオ・ギルベルトは暁のような橙の目を恋情に染め、ぺらぺらとなにやらまくしたててはメアリの笑いをさそっていた。
メアリはひどく嬉しそうで二人の間には親密な空気が漂っている。
(はああああ?)
なんということだ。すっかり安心していたというのに。
ルカが呆然として足を止めていると、ルカの友人ジョー・マーカスがやれやれといった様子で肩をすくめた。
「ルカは意外と不器用なんですね。声をかけにいかないんですか」
「いや……どうしたものかな」
ルカはぴきぴきと引きつった笑顔でジョーの方をゆっくり振り向いた。
彼の鉄壁の仮面が崩れるのはわずかでも珍しい。
(ああ、なんてことだ!)
ルカは天を仰いだのだ。