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僕は今度は決して失敗しないから


ハニエル伯爵家の家宝には様々なものがある。


中でも時戻しの香炉はその性質から、持ち主の精神をむしばみ、狂気にとしたとして、かつての当主の手により屋敷の奥深く、人目に触れぬ場所に秘密裏にしまい込まれ、長年その行方は分からなくなっていた。


 ルカ・ハニエルは聡明そうめいだった。彼は自身のふわふわの金髪にみどり目という甘いルックスに似合わぬどす黒い狂気を胸の内に秘めており、先々先々代の思考回路を読み取り、そのいわくつきの香炉の隠し場所をついに突きとめてしまった。


 ほこりを被った古い蔵の匂いの染みついた香炉は、布で軽くふくと鮮やかな色をしており、使用に耐えることを思わせた。この香炉に火をともし、きのぼる胸やけのする甘い香りをかげば酩酊めいていの中、人生をやり直せるのだという。


 ルカ・ハニエルにはやり直したいことがあった。


 彼の恋人、メアリ・ジェーンについてだ。


 彼女との仲は悪くないものの、こちらの甘い言葉や熱のこもった瞳に対して、時折ときおり見せる彼女の恐怖にかげる眼差しに彼の心は痛んでいた。


 それもこれも、二人の出会いの時に彼が彼女に優しくできず、彼女の心に消えない傷を作ってしまったからだ。


 ルカはこの香炉の力を使ってメアリの心を手に入れたかった。


 そもそも眉唾物まゆつばものの香炉だ、時戻しとは名ばかりで練炭のように命を失う可能性もある。 


 もしそれによって心中になるとしてもルカには構わなかった。


 メアリの心がこのまま手に入らないのならば、いつか彼女を殺して自刃を選ぶのだと彼にはわかっていたのだから。


 メアリをさりげなく自宅に呼び、お茶をふるまうふりをして時戻しの香炉をきしめる。閉め切った室内でメアリの体はぐらりと傾き、彼女の伸ばした腕は宙を切った。


 その姿を恍惚こうこつと眺めるルカもまた、動かなくなる体に、混濁こんだくする意識に、身を任せる。





嗚呼ああ、僕は今度は決して失敗しないから)


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