表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青き華よ希跡なれ  作者: 溶枸由 佳月
第一章,連星
7/83

新たな意志の芽生え

「……汚しちまったな服」


「え?あぁ、私が無理やりしがみついたから」


「………」


きっと他の人から見ればいくら理由が理由とはいえ、俺が悪く見えているはずだ。幸いここに人はいないが……。

このままではなんだか俺がすっきりしない。


「うわっ……えぇ!?」


ワンピースについた砂を払い落としていく。


「い、いいよ……は、恥ずかしい」


「べ、別に変なとこ触ってねーだろ。足元の方払ってるんだから」


「そ、そうだけど……」


「………」


少し気まずさを感じながらも軽くだが払うことができた。


「見た感じ汚れてはないが……着替えてくるか?」


「ううん、このままで大丈夫。

……ありがとうね」


「……俺が悪いみたいなところもあるから気にすんな」


「素直にどういたしましてを言えばいいのに」


村に向かって歩きながら、軽く仕事内容を話すことにした。


「この島に何か隠されているかもしれないという情報が送られてきた。

それを確かめるために図書館に行く必要がある」


「何かって……?」


「詳しくはまだ分かんねぇ。

とりあえず図書館に亜人の知り合いがいるから、そいつに会って話さなくちゃいけねぇことがあるんだ。

その間にノエルは人間と亜人に何があったか、真実が書かれた本があるからそれを読んでほしい」


「と、図書館に亜人の知り合い!?図書館に何回か通ってるけど亜人なんて見た事ないよ?」


「ややこしいから後でな」


「う、うん……」


それから無言が続き、村が見えてきた。

ふとノエルが口を開く。


「ねぇ、今まで聞く機会がありそうで無かったら聞くんだけど。

アオトって何歳なの?」


「ん?そういえば言ってなかったっけな……。20だよ」


「わ、大人だったんだ。

18くらいかなって思ってたけど。そっか、20歳……か」


そう言う彼女は少し微笑んでいるように見えた……のは気のせいだろうか。


そんなことを考えているうちに図書館に着いた。

図書館は村の奥の方にあり、基本的に人通りは少ない。朝早いこともあって、近くには誰もいなかった。


「図書館が開くのって確か9時くらいだったような……」


「正面から入るつもりはない。ついて来い」


戸惑うノエルを連れ、裏側にやってきた。

壁の下の方にある小さなボタンを押すと地面が割れ、地下へと続く階段が静かに現れた。


「こ、こんな所に……」


「見つかるといけねぇから早く」


ノエルは頷き慎重に中に入っていく。

俺も入ると、壁にあるボタンを押し出入口が閉まったことを確認してから奥に進んだ。


「この扉の向こうが図書館の隠し部屋になっていて、亜人しか知らない。

そんで亜人の知り合いがここを管理してる。

……念の為フードを被ってくれ」


「う、うん……」


コンコンとノックをして扉を開ける。

こちらに気づいた茶色の短髪に気弱そうな顔をした、ライオンの亜人の男性が駆け寄ってきた。


「アオト!今日はどうし……あれ?隣の人は?」


「………なぁ、落ち着いて話を聞いてくれ」


ノエルとの経緯を簡単に説明した。


「はぁ!?に、人間だって!?ほ、本当に大丈夫なんだろうね……?」


「あぁ。俺が村に行ってもみんないつも通りだ。

それにバレてたら今頃大騒ぎだろ?」


「だ、だけど………」


「……ノエル、フード外していいぞ」


「う、うん……」


ゆっくりとフードを外し、恐る恐る顔を上げる。


「……本当に人間、だ」


「あ、あの……ノエルっていいます。

ここには、えーと……」


不安げな顔で俺を見るノエル。

それに対して頷き返す。

伝わったのかノエルも頷き返してきた。


「……アオトの仕事のパートナーとして来ました」


「あ……ぼ、僕はレオっていいます。この図書館の隠し部屋を管理してて……も、もちろん分かってると思うけど他の人にはぜっったいに内緒だからね!?」


「はい!私、口は固い方なので」


「君のことをまだ完全には信じられないけど……と、とりあえずよろしくね」


「こ、こちらこそ……!」


「早速で悪いんだが話がしたい。

色々急で頭が混乱しているだろうが……」


「ほんとだよ!」


「申し訳ないと思ってる……。

と、その前に──」


ある本棚の前まで歩き一冊の本を手に取った。

この国や島では珍しい、真実が書かれた本。

それをノエルに手渡す。


「これを読めば全て分かる。

………だけどな」


* * *


「想像より遥かに辛いことが書かれてる。

……その、俺の口からは……あまり言えないが……詳しく読まなくていい所もあるから」


「え……それって……?」


彼は一瞬黙り、伏し目がちに話を続ける。


「一目見れば分かる……としか言いようがねぇ」


そして私と目が合う。

真剣で……その奥に優しさがあることが伝わってくる。


「とにかく、辛くてどうしても読めない所は読まなくていいから」


「無理しちゃダメだよ」


2人ともさっきより暗い雰囲気で奥の部屋に行ってしまった。

──部屋を出る直前、アオトが心配そうに私の方を見たような気がして。



………この空間に居るのは私1人だけになった。

近くにあった椅子に座り、本を机に置く。

これは私が決めたことだ。例えどんな辛いことが書かれていたとしても、知ることを望んだ。

深呼吸すると、意を決して本を開いた。


──昔から人間と亜人の仲は良くなかった。

人間が堂々と島で暮らせるのに対し、亜人はこそこそと暮らす日々。

それを不満に思う者もいたが、面倒事や家族にもしもの事があってはと考え行動する者はいなかった。


が、技術が発展していき時代が進む中で、人間ばかりが自由に暮らせるのはおかしいという意見が増えていった。

姿が違うからと差別され、力があるからと恐れられ、虐殺されたことまであった。今まで散々な扱いを受けてきた不満が爆発寸前だった。

この事実を知らない人間、亜人の存在すら知らない人間も現れ、酷いことをしておきながら無かったことに、更に我々亜人の存在までも無かったことにするというのか。


ついに不満は爆発し、今まで溜まっていた憎しみが溢れ出した。そもそも力がある我々の方が上だと言う者もいた。

それを見せつけるかのように罪の無い人間を惨く殺し、自分の大切な人が殺されたのと同じ方法で人間たちを殺していった。

それに対し人間側も同じような行動に出た。

やはり亜人は恐ろしい存在だったと、罪の無い亜人たちが虐殺されていった──


「……っ」


これはとても複雑で、難しい問題だ。

元はと言えば差別し始めた人間側が悪い。亜人たちが先に何かをしてきたのなら、恐れてしまうのは仕方のない……ことなのかもしれない…………。

不満や憎しみが溜まっていた亜人たちがそういう行動をしてしまった。いけないと分かっていても、止められなかった人もいただろう。

それでも、殺してはいけない。これでは憎しみの連鎖が続くだけだ。

けど……常に正しい選択をし続けるなんて、感情に支配され冷静でない状態ですることはとても難しく、辛く……想像以上のものだろう。


「これを……『人間が亜人を飼う』という。

……逆は『亜人が人間を飼う』って……」


私はその先を読んで口を押えた。

どういう殺され方をしたかを詳細に書かれていたからだ。


「はぁ……はぁ………」


見なきゃ。

読まなくては。

アオトは辛ければ読まなくてもいいと言ってくれた。

それでも何故だか知らなければいけないような気がして。

けれど……直視する事が出来ず、飛ばし飛ばしに読んでしまった。


──虐殺だけでなく、性的暴行もされていた。

多くの亜人たちが大切な人たちを人質に何人も連れていかれ、強引に………


「はぁ……はぁ………む、無理………」


胸を締め付けられるような感覚。呼吸が自然と荒くなり、鼓動も速くなる。

アオトが言っていたのはこういうことだったのか。

それから先には何が起きたか、さっきと同じように詳細に書かれている。

だけどさすがに見れなかった。チラッと何をされていたか見てしまい、視界がどんどん歪んでいく。


「──ノエル!」


ちょうど部屋に戻ってきたアオトが駆け寄り、私の両腕を掴んだ。


「無理して読まなくていいって言ったろ……」


「う、うぅ……」


アオトが私を抱きしめ、頭を撫でてくれた。


「その本、内容が詳細に書かれてるから………」


「…………」


* * *


やはりこれはノエルに見せるべきでは無かったと後悔した。

いくら知りたい、覚悟があるとはいえ女の子にはあまりにもキツすぎる内容だ。


「すまんがちょっとだけ2人きりにさせてくれないか……」


「うん、わかった。

僕はさっきの部屋にいるから、終わったら呼んで?」


「……ありがとう」


レオが立ち去り、ノエルがすすり泣く声だけが部屋に響く。

俺はノエルの両肩を掴み、彼女の目を見つめた。


「悪かったとは思ってる。

………厳しいことを言うが、お前が踏み込もうとしているのはこういう問題なんだ。

人間と亜人の関係はこれ程までに悪化してしまっている。

さっき読んだようなことは表に見えてないだけで、今でも裏で行われているんだ。

……それが現状だ」


「そ、そんな……」


「………」


ショックを受けているノエルに対してかける言葉が無く、レオを呼びに行こうと立ち上がる。


「……人間も亜人も……見た目や力の差はあるけど、同じ『人』じゃない」


「──っ。

い、今……なんて」


その言葉を聞いて驚いた。

人間も亜人も、同じ『人』。

そんな考え方を持った人間が、まだこの世にいるなんて……。


「難しい問題だってことは理解してる。

けど……復讐して解決するのは……私は間違ってるって思う」


「……ならその感情が抑えられない場合は、どうすればいい?」


大人気ないと分かっていても、その質問をせずにはいられなかった。


「……殺したり……酷いことをしないで解決できればって思うけど………そんなに上手くいっていれば今でもこんなこと、続いてないよね」


「そうだな……」


ノエルは立ち上がり、ノエルにとって勇気のいるであろう言葉を口にした。


「ねぇ……アオトは人間が嫌い?」


「………あぁ、嫌いだ」


「ならなんで……」


泣きそうで震えたような弱い声。


「……俺たちの組織は、人間と亜人の中立組織。

人間と亜人の間に争いが起きれば、誰も殺すことなくその場を収めなくてはならない。

俺だって好きでこの組織に入った訳じゃない。いきなりスカウトされたんだ。

人間を護る、なんてそんな仕事したくもなかった。正体を明かせばどうせ下に見てくるか、恐れるくせにって」


「…………」


ノエルは黙って俺の方を見て、話を聞いている。


「……けど、生きるためには仕方なかった。

それにこの仕事に就く前から、似たような仕事に手を貸してたしな」


「そっか……」


ノエルは俺の両手を握り、目を閉じた。


「私ね……辛いけど、でも知ってよかったって思うの。

……この事実を知らないまま過ごしてくのは……上手く言えないけど……良くないって。

知ったからこそ、私……こんな気持ちが生まれたの」


目を開け、俺の目を見る彼女の()は強い意志を持っていた。


「……この世界を変えたいって。

争いが続けばいずれ崩壊する。憎しみの連鎖を止めたい。争いなんて無くなってほしいって。

私みたいに歴史を知らずに生きている人だっている。その人たちに正しい歴史を教えることが必要なのよ。争いや差別を無くすためには」


「……そう簡単にいかねぇぞ。

この組織は俺が入る前からあった。何十年と止めに入っても争いや差別が無くなることはなかった。

……いつまで続くか分からないんだ。止める過程で亡くなった人だって、自分たちの代でなくそうと必死でやって……ダメだったんだ」


「……うん。

──それでも、私は人間と亜人が仲良く暮らせるようになってほしいの。

一緒に居て辛い人は無理に一緒に居なくていいから、せめて争いや差別、酷いことが起きなければって」


こんなのは理想や夢物語だ。

実際争いや差別が無くなることないって、そう諦めている部分がある。

きっとずっと続くんだろうなって。だからこそ手が届く、小さな範囲の無くせるものだけを無くせばいいって。

でも、ノエルは違った。

ノエルの瞳を見て、握られている手から伝わってくるものがある。

絶対に無くすんだって意志が。


「……なんでこんな気持ちが芽生えたのか、自分でも分からない。けれど、この気持ちは本物だよ。

だから私、あなたの隣で一緒に頑張っていきたい。改めてそう思ったの。

私が憧れたあなたの隣で」


「……俺は人間が嫌いで、護るのが嫌なんて言ってるようなやつだぞ?

それでも、いいのか?」


「いいって思ってるから言ったに決まってるじゃない。

アオトのそういう部分も受け入れてのこと。

無理に好きになって、なんて言える訳ないよ」


「俺のこと、何も知らねぇくせに」


「そうね、何も知らないし無理に聞こうなんて思ってない。

これからたくさんアオトのこと、知っていけたらなって」


「……そうかよ」


正面からこんな恥ずかしいことを言われるのは初めてだ。

こんなに純粋で綺麗な心を持った人間に出会うのも。

引き離そうとしても離れなくて、俺みたいなやつにも平等に接してくれる、笑顔が眩しい存在。

ノエルを見ていると不思議と胸がざわざわする。

この気持ちは……いったい…………?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ