話しすぎた
「よし、昼飯にするぞ」
「いつもは何食べてるの?」
「なんかテキトーにある物で作って食べてるけど」
「ちょっと見せて」
「お、おい……」
そう言って食料棚を覗き込むノエル。
距離が近い……。
「んー……アオト、ちゃんと食べてる?」
「食べてるに決まってるだろ」
「三食ちゃんと?」
「いや、お腹空いてなかったり仕事が忙しい時は昼飯抜いてるな」
「だから身長の割に少し細いんだ」
「んなっ、触んなって!」
ノエルが俺の両腕を確かめるように触る。
こいつには躊躇うという言葉が頭に無いのか。
「あ、でも……なんていうか、筋肉は一応あるんだ」
「お前は俺を何だと思ってるんだ……」
「………すこーしだけ待ってて!すぐ戻るから」
それだけ言うと勢いよく外に出て行ってしまった。
何がしたいのかいまいち分からないまま10分程過ぎ、籠を持って走って帰ってきた。
「はぁ……はぁ……い、今から……はぁ……」
「……なぁ、大丈夫か?
落ち着いてから話せって」
「う、うん。
……………よし。今から私が昼ごはんを作ってあげる」
「はぁ!?いや、え、お前料理できるのかよ」
「何よ、失礼ね。それぐらいできますぅ〜。
アオトが作るより絶対美味しいと思うよ?」
「へぇ〜言うじゃねーか。なら作ってみろよ」
「食べた時の反応が楽しみだな〜」
椅子に座って待ちながらノエルの方を見ると、慣れた手つきで色々こなしていた。
ずっと見ていても仕方ないので、午後の仕事の確認をすることに。
いつも通りこれを書いて、と………。
集中しているといい匂いがしてきた。
そういえばお腹空いて………。
もしかして普段は仕事に集中しすぎて、お腹空いていることにすら気づかなかったのかもしれない。
「──はい、どーぞ召し上がれ〜」
「おぉ……!」
目の前にはとても美味しそうなオムライスがあった。
お店にあっても違和感なしの見た目だ。そう、見た目は。
「ふふーん、驚いた?」
「……も、問題は味だろ」
「食べてみ」
自信満々の顔に腹が立ちながらも、スプーンですくい口に入れる。
「ん………美味い」
「でしょでしょ!?」
ふわふわとろとろな卵と、素朴なケチャップライス。
なんてことない普通のオムライスのはずなのに、何故か食べる手が止まらない。
気がつけば全部美味しくいただいていた。
「綺麗に食べてくれたね。
作ったかいがあったし、嬉しい……」
ノエルの少し照れるような笑顔に、思わず目を逸らしてしまう。
──ノエルも昼ごはんを食べ終わり、しばし休憩の後仕事を再開することに。
「今から何するの?」
「ん?ここにある書類とか、報告書を今日中に書いて上に渡さなきゃいけねぇんだ」
「なんだか大変そう……。
書く内容は?」
「報告書が一番分かりやすいな。今日何があったか、自分が何をした……例えば今日ならおばあさんの手伝いをした、みたいなことを書くんだ」
「それでさっき言ってた上に渡さなきゃってのは?」
「上……そこに反応するのかよ。
まぁ……簡単に言ってだな、俺が属する組織の上……上司ってことだな」
「上司……そっか、上ってそういう意味だよね。
ごめんね、私分からなくて──」
あくまでも俺がここに居るのは村を護るため。
それ以上をこいつが知る必要など無い。
* * *
ペンで文字を書く音だけが部屋に響く。俺は集中して書いていた。
少しでも間違えると厄介なことになりかねないので、何かと集中力がいる。
「……ねぇ、私やる事ないし片付けとか掃除しようか?」
自分の仕事に夢中でノエルのことをすっかり忘れていた。
この時間ノエルに任せられるものは、それ以外無さそうだ。
「やってくれるのはありがたいが、奥の部屋に入らないことと………武器に触らなければ大丈夫だけど」
「おっけー!」
「箒や雑巾は後ろの棚にあるから」
ノエルは頷くと片付けと掃除を始めた。
音が少し気になるかと思ったが、あまり気にならない。
むしろいつもよりも作業が捗るような気さえしてきた。
──そうして気がつけば夕方になっていた。
俺は伸びをすると、部屋を見て驚いた。
棚の上で埃を被っていたりバラバラに積み上げられてた本は綺麗に整頓され、その他散らかっていた物もどこに何があるか分かりやすくなっている。
何より床が一番綺麗になっていて、歩いて汚してしまうのが勿体ない。
「ふぅ……アオト終わった?」
「あぁ……お前、すごいな。
こんなに綺麗になると思ってなかった」
「ふふ、すごいでしょ。
これぐらいなら毎日任せてもらっていいよ」
「さすがに1日で散らからねーよ」
「そうかなー?」
顔を見合わせ、笑った。
…………笑った?
「あっ……」
やってしまった、とすぐさま目を逸らす。
「あなたが笑ったとこ、初めて見たかも。
いいものが見れちゃったなぁ」
「これは……その、違うからな!」
「すっごくよかったよ、アオトの笑顔。
そうやって恥ずかしがらなければ可愛いのに〜」
「だから、ノエルに可愛いなんて思われたくねぇって」
「言っとくけど性格の話だからね」
「んなこと言われなくても分かってるから。
……お前の仕事は夕方で終わりな」
「えぇ〜」
「ずっとここに居ても怪しまれるだけだぞ」
「わかったよぉ」
ノエルは不満げな顔をしつつも、荷物をまとめ外に出る。
俺も一応見送るためにノエルに続く。
「あ、あのさぁ……すごく言いにくいことなんだけど……」
「……今度は何だ?ここで働く以上に言いにくいことなのか?」
「私にしたらそれよりも言いにくいよ。
今私たちぐらいの子たちはみんな実際に働いてて……あのね、親には嘘の仕事を言ってて……そ、その仕事……だから……あの…………」
「金が欲しいってことか?」
「先に言っておくけど、お金目当てであなたに近づいた訳じゃないからね!
……少しでも貰えないと……怪しまれるっていうか、続けられなくなっちゃいそうで………」
「その前に村人の目撃証言とかでバレそうだけどな」
「それなら大丈夫!
みんなにこの事はうちの親には内緒にしてって、信頼できる人に頼んだから」
なるほど、村人と話してたり様子がおかしかったのはこのせいか。
「……金なら普通に余ってるから、今月の終わりにまとめて渡すよ」
「ありがとう!
その分ちゃんと働くね!毎日ちゃんと昼ごはんも作るから!」
「…………まぁ、そういうことなら」
断るつもりが、承諾してしまった。
「明日もよろしくね!」
「あぁ……明日、な」
夜の見回りや他のやる事が終わり、ベッドに横になる。
断るつもりが断れなかったり、何気ない話をして。今日は本当に互いに話しすぎた。
人間に対していいイメージが無かった。村の人達が悪い人達だとは思わないが、俺が亜人だと知った途端見る目が変わる可能性が高い。
だから仲良くしようとしなかった。それだけが理由ではないが……。
その負のイメージとはかけ離れた存在。亜人の俺に対して平等に接してきた。
何より……あいつの純粋な、俺に対する感謝の気持ちや村を想う気持ちを知ってしまった。
「クソ、なんなんだよあいつ……」
そう小さく呟いた声が大きく聞こえた。




