少し見えた互いのこと
朝食を食べ終え、身支度をしているとコンコンと勢いよくノックする音が聞こえた。
憂鬱な気持ちで扉を開けると──
「おっはよー!!」
「……声が大きい」
「ごめんごめん」
両手を合わせて謝っている。
そんなことより、こいつに言わなくてはならない事があった。
「お前を連れていくにあたって、1つ問題がある」
「問題?」
「あぁ。俺の隣にお前が居たら不自然すぎるだろ。
なんでこんなやつの隣にいるんだってな」
「それなら大丈夫!………ほら、目立たないように色違いのローブ作ってきたの!
どうどう?よくできてるでしょ?」
「………あ、あぁ……そう、だな」
もしかしたら上手く引き離せるかと思ったが、やはりそんなに甘くないようだ。
諦めてこいつと一緒にいるしかないっていうのか……。
「いや待て、そういう問題じゃない……って、そろそろ時間だ。話は外に出てからな」
俺はローブを羽織り、フードを被った。
ノエルはローブを羽織りはしたが、さすがにフードを被る所までは真似しないようだ。
村までのんびり歩きながら続きを話す。
「お前年齢はいくつだ?」
「私?16歳だよ。今年で17。
もしかして学校のこと心配してくれてる?それなら問題ないよ。
今は将来のことを決める時期だから、学校には行かないでみんな色んな経験を積んでいるの。
自分のやりたいことに向けてだったり、それを見つけるためだったり」
「お前は──」
「私昨日名乗ったよね。ちゃんと名前で言って」
「……わーったよ。
ノエルは将来何やりたいか決まってるのか?」
「えーとね、私は……私が好きになった人と結ばれて、なんでもできるお母さんになりたいなぁ………なんて。
きゃー、恥ずかしい〜」
自分のその姿を想像したのか顔を赤くし、手をバタバタとしている。
今どきの16歳でもこんなことを夢見てるやつがいるとは。
正直これっぽっちも興味が無い。ほんとどうでもいい。
「なら花嫁修業って言って家の手伝いやればいいじゃねーか」
「もちろんちゃんとやってるよ。
でもね、それじゃダメなの。まず相手がいないし、こうして働いたりしてきっかけが無いと………って、違うからね!」
「あーはいはい、わかってるからそういうのいいって」
しっしっと、追い払うように手を動かす。
結ばれるなんて想像されるのもごめんだ。
そもそも人間と亜人が結ばれるなんて、禁忌に等しいのに。
「……私ね前からあなたに興味があったの」
「へぇーどんなとこに?」
ほぼ棒読みのような、完全に興味が無いと伝わってるのにも関わらず、ノエルは気にする様子もなく質問に答えた。
「あなたがこの村に来た日のこと、覚えてるよ。
フード被ってるから顔が全然見えなくて、村人みんなの前で挨拶して。これから村を守ってくれるって言って、最初はみんな半信半疑だったの。
でも本当に小さなことから昨日みたいな大変なことまで助けてくれて。まぁ、昨日みたいなことは滅多に起きないし起きなくていいけど。
どんなに小さなことでも、私も含めてみんなあなたに助けられてる。支えられてる。
それが仕事だとしてもね」
「……そうか」
俺の目を見て笑うノエルは眩しいほど輝いて見えた。
本当に純粋で綺麗な心を持っているんだなって。
「私はこの村が大好きなの。だから守ってくれるあなたがどんな人か気になった。
まさかこんなに素直じゃなくて意地悪な人だとは思わなかったけど」
「それはどうもすみませんね」
「ほら、そういうとこ。
……話を戻すけど、村が大好きだからみんなを助けて守るあなたの仕事にも興味があったの。
だから、手伝えるってことが本当に本当に嬉しくて!もう待ちきれなかったの」
思ったよりちゃんと考えて行動しているんだな、と感心してしまう。
普通に良いやつなんだろうが俺とは合わない。
「もうすぐ村だし簡単に説明するぞ。
村の人には挨拶、これが基本だ。単に俺が怪しまれないようにしてるだけだけど……。
すれ違った時とか、挨拶されたら返したりな」
「了解です!……ねぇ、仕事ってことは上司だよね?
な、なんて呼べばいいかな」
「……普通にアオトでいい。あと、喋り方もな」
「……うん!」
「村全体を大体2、3周くらい見回って終わり。それまでに困ってる人がいたら助ける。
以上だ」
「分かった、頑張ってみる!」
中々に張り切っているようだ。
張り切りすぎて失敗しないといいが。
村に着き、軽く挨拶しながら見回っていく。
お店の前を通り、次に学校の前へ。そして公園と住宅地。
どこも今の所異常は無く平和だ。
ノエルはというと、よく話しかけられたり別の意味で忙しそうだ。
村人とのちょっとした長話が終わり、俺はノエルに話しかけた。
「これでも仕事だ。あまり長話されると困る」
「ご、ごめんごめん。ちゃんと気をつけるね」
どこか様子がおかしいが、今はノエルに構ってる暇など無い。
そしてもう帰ろうとした時、大きい荷物を持った老婆が目に入った。
俺は早足でその人の元に向かう。
「荷物持ちますよ」
「あら、ありがとうね」
俺は荷物を持つと、ノエルと老婆と家まで歩いていく。
こういう時いつも何を話していいのか分からず気まずかったのだが、ノエルは誰とでもすぐ仲良くなれるのか老婆と楽しそうに話している。
話を聞いてる限り、人と話すことが得意なようだ。
俺が持っていない部分を持っている──
「アオト、荷物大丈夫?」
「俺なら大丈夫だから気にすんな」
「そう?なら、いいけど」
俺は何を考えてるんだ。
こういう時こいつが居たら気まずくなくて済むとか、俺が持ってない部分をこいつが持ってるだと?
俺はこいつを利用したいとも、こいつより劣ってるとも思っていないのに。
どうしてこんな余計な事が頭に浮かんでしまうのだろうか……。
そんなことを考えているうちに老婆の家に着き、荷物を置いて立ち去ろうとする。
ノエルに腕を掴まれ、振り返った。
「おばあさん、お礼を言いたいって」
「いや、別に言われるようなこと……それにこれは仕事だから」
「仕事でもいいの。ワタシが助かったのは間違いないんだから。
本当にありがとうね。助かったわ、2人とも」
「どういたしまして。
ほら、アオトも」
「う………どう、いたしまして」
「うふふ」
老婆は優しく笑い、ノエルも嬉しそうに笑った。
俺は会釈すると、踵を返した。後ろからノエルが追いかけてくる。
「まさか私に教えられるなんてって思ったでしょ?」
「………うるせぇよ」
「ほんっと素直じゃないね。
でも改めて分かったよ。あなた、やっぱり優しい」
「──っ、これ以上言うと解雇すんぞ」
「あぁ!それは卑怯〜!」
ノエルと軽く言い合いながら小屋に戻った。




